週末の夜、涼ちゃんの部屋には明るい笑い声が響いていた。
外は春の雨が降っていたけれど、部屋の中はピザの香りと三人の楽しげな空気でいっぱいだった。
「やっぱりみんなで食べると美味しいね!」
元貴が大きな口でピザを頬張りながら、涼ちゃんに笑いかける。
「元貴、チーズついてるよ」
涼ちゃんがくすくす笑って、元貴の口元をティッシュで拭ってあげる。
元貴は「涼ちゃん、ありがと!」と満面の笑みを浮かべた。
滉斗は、その二人のやりとりを横で見ながら、ピザを静かに口に運ぶ。
(元貴は本当に、涼ちゃんに甘えるのが上手だな)
(俺も、もう少しだけ素直になれたら……)
そんなことを考えながらも、滉斗は自然な笑顔を作って、二人の会話に加わる。
「涼ちゃん、このピザの味、好きだったよね?」
「うん、滉斗が前におすすめしてくれたやつだよね。やっぱり美味しい!」
涼ちゃんが嬉しそうに答えてくれる。
その笑顔を見て、滉斗の胸はふわっと温かくなる。
けれど、その温かさの奥に、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。
テレビではバラエティ番組が流れ、元貴が「これ見て!」と涼ちゃんの肩に寄りかかる。
涼ちゃんは「元貴、近いってば」と言いながらも、まんざらでもなさそうに笑う。
滉斗は、そんな二人の間にいる自分の存在を、少しだけ遠くに感じてしまう。
(俺も、もっと涼ちゃんに甘えられたらいいのに)
(でも、どうしても踏み込めない)
(元貴みたいに、まっすぐになれたら――)
気づけば、滉斗は自分の手の中にあるコップをじっと見つめていた。
「滉斗、飲み物なくなってるよ?」
涼ちゃんが気づいて、冷蔵庫から新しいジュースを持ってきてくれる。
「ありがとう、涼ちゃん」
滉斗は微笑みながら受け取る。
その優しさが嬉しくて、でもどこか切なくて、
心の奥がきゅっと締めつけられる。
夜も更けて、三人はソファに並んで座り、
元貴が涼ちゃんの膝に頭を乗せて「眠くなっちゃった」と甘える。
「もう、元貴ったら……」
涼ちゃんは優しく元貴の髪を撫でる。
滉斗は、その隣で静かにその光景を見つめていた。
(このまま、時間が止まればいいのに)
(でも、きっといつかは終わりが来る)
(それでも、今はこの幸せを壊したくない)
部屋の中は明るい笑い声で満ちているのに、
滉斗の心だけが、静かに雨に濡れていた。
それでも、涼ちゃんの幸せそうな顔を見ていると、
自分の気持ちは胸の奥にしまっておこうと思う。
今夜もまた、言えないままの想いを抱えて、
滉斗は二人の隣でそっと微笑んだ。
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