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建国祭の準備期間で盛り上がりを見せている王都セントラル。
しかし、その賑わいから少し離れたこの薄暗い路地裏では今にも戦いが起ころうとしていた。
俺の目の前には黒ローブの男が一人。探知スキルで確認してみて周囲に隠れ潜んでいる仲間がいないことを確認する。
もしかしたら気配を消して隠れている可能性もあるので、微かな反応や違和感も漏らさず探してみる。しかしやはり周囲には誰もいなさそうである。
ということは目の前のこいつ一人さえ倒せばいいということだ。それに連れ去られた女性も気になるし、一刻も早く目の前のこいつを片付けて向かわないと。
「…死ねっ!」
すると目の前の黒ローブの男が一瞬にして3mほどあった距離を詰めてきた。その次の瞬間には奴の懐から取り出された短剣が俺の喉元付近まで迫っていた。
「おっ!?」
俺は何とか紙一重でその攻撃を避けるとバックステップで距離を取る。こいつ思った以上に対人戦が上手いようだ。
俺の一瞬の気のゆるみを察知し、かつ一撃で確実に殺すために的確に急所を狙ってきやがった。
「ほぅ、今のを避けますか。今ので大人しく死んでいればいいものを…余計に苦しむことになりますよ」
こいつはステータスは俺より低いが、何より対人においての経験が俺よりも大幅に上であるようだ。なるほどね、戦いっていうのはステータスの数値だけでは測れないものなのだな。これは勉強になった。
「確かに強いな。おかげで勉強になったよ」
「よく分かりませんがそれは良かったですね。では勉強代はあなたの命ということで」
そう告げると黒ローブの男は再び俺へと迫ってきた。
今度も的確に急所である心臓を狙って短剣を突き出す。
しかし今度は相手の攻撃を完全に見切り、剣先が俺へと届く前に剣の軌道から避けた。そして逆に飛び込んできた相手の懐へと潜り込み、みぞおちへと強烈な一撃を放った。
「ぐふっ!?!?」
黒ローブの男はうめき声を上げながら後方へと大きく吹き飛んでいった。そのまま地面へと倒れ込み、しばらく苦しそうな声を上げた後に気を失った。
「あっ、ちょっとやり過ぎたかな…?」
おそらく俺の攻撃によって一時的に呼吸が出来なくなってしまい、酸素不足によって意識が飛んでしまったようだ。まさか一撃で終わるとは思っていなかったけれど、まあ早く片付けられたから良しとしたい…
けれど、気絶されてしまったので相手から何も情報を得られなくなったしまったのはちょっと問題だな。
とりあえず終わってしまったことは仕方ないので、俺は奴の所持品から何か情報を引き出せないかと黒ローブを剥いで物色を始めた。
今のこの状況を傍から見たら確実に俺が怪しい人物になってしまっているな…
出来るだけ早く済ませようっと。
俺は急いで何か情報が得られないかと漁ってみるが特にこれといった情報を得ることは出来なかった。対人戦の経験と言い、情報を渡さないようにしている点と言い、こいつらはただの誘拐犯ではなさそうだな。
すると突然背後から強烈な殺気が近づいてくるのを感じた。
咄嗟に後ろを振り返るとすぐ目の前にナイフのようなものが飛んできていた。
「うわっ?!?!!?」
これもまた紙一重で避けることに成功はしたが、ほんの少しだけ髪が切られてしまった。幸い全く髪型には影響がない程度だったので良かったけれどもしこれで前髪パッツンにでもなっていたら少し落ち込んでいただろう。
しかし次から次へと誰だ一体?
黒ローブの奴の仲間か?
俺はナイフが飛んできた方向に視線を向ける。
するとそこには黒ローブとは正反対の白い清潔な服に身を包んだ人物が立っていたのだ。
「えっ、め、メイド…?」
この薄暗い路地裏にメイド服を着た女性が立っていたのである。なんでメイド?黒ローブの仲間…ではなさそうだけど。
「貴様…!お嬢様をどこへやった!?!?」
そのメイド服の女性は俺に鋭い怒りの目を向けると返事を待たずして襲い掛かってきた。
お嬢様…?
ってもしかしてあのドレスの女性の事か。
「その女性なら、ってうぉっ!ちょっと!!!」
せっかく説明しようとしたのにそんなのお構いなしに目の前のメイドは手に持ったナイフで容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
俺は攻撃を避けながら何とか誤解を解こうと対話を試みるがこのメイドさんは全く聞く耳を持ってくれない。
おそらくこの人は俺を誘拐犯の仲間かなにかと勘違いしているのだろうが、完全に頭に血が昇っているな。
こうなったら仕方ない、何とか攻撃しないで無力化するしかないな。
俺は引き続きこのメイドの攻撃を防ぎ避けながら隙を伺う。それにしてもこの人、明らかにさっきの黒ローブの男よりも強いんだけどメイドが何でこんなに強いんだ?!
距離を取っても手に持ったナイフを投げつけて一切の隙を見せてくれない。それに太ももから一体何本あるんだというほどのナイフを取り出して攻撃をしてくる。異世界のメイドはこんなにも物騒なものなのか。
俺はこのままじゃ埒があかないと思い、仕方なく彼女に向けてストレートパンチを繰り出す。その攻撃を両腕で受けきったメイドだったが衝撃によって数メートル後ろへと飛ばされた。
俺はその隙に気配遮断を使って気配を消してメイドの背後を取る。そして彼女が投げたナイフを手にもって背後から彼女の首元へと据える。
「くっ、まさかこれほどの手練れだったとは…」
「あの、とりあえず僕の説明を聞いてもらえますか?」
「私が犯罪者の言葉に耳を貸すと思うか?」
「だから!それが誤解なんですって!!!」
俺は彼女にこれまであったことの一部始終を説明した。最初は半信半疑で聞き流していたであろうが、俺が冒険者カードを見せてからは見違える様に話を聴いてくれた。冒険者はランク昇格の度に犯罪歴をチェックされるのでDランクの俺にとって身の潔白を証明するのには最適なのである。
そうして説明をすべて聞き終えたメイドさんは頬を赤らめながらも頭を下げて俺に謝罪をしてきた。
「も、申し訳ありません!頭に血が上ってしまっており、誘拐犯と勘違いしてしまいました…」
「ま、まあ誤解が解けたのなら良かったです」
目の前のメイドは先ほどまでの冷たい睨みつけるような表情から一変して温かく優しそうな表情に戻っていた。こっちの方がやっぱりメイドさんって感じがして俺も何だか安心した。しかし怒ったメイドさんっておっかないんだな…
なんとかメイドさんの誤解も解くことができ一件落着…と言いたいのだが、これからが俺たちにとって本番となる事件が繰り広げられていくことをこの時はまだ知る由もなかった。