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【フィルモア城・廊下】
クローソーを打ち負かした華奈は、引き続き匠の姿を追っていた――。
「華奈様!! 匠様が第一騎士団と交戦中です! 至急お越しください!!」
共同生活をしているラインハルトが現れる。
彼もまた城内を見回り、匠の姿を探し、情報を得て華奈を探していた。
「やっぱりタクちゃんが来てたのね。ラインハルト、すぐ案内して!」
「はい、こちらです。急いでください……あれは勝負になっていません……」
ラインハルトの表情は悲壮感に満ちていた。
第一近衛兵団ですら、全く歯が立たないのだ。
※※※※※※
【フィルモア城・城前広場】
バギィィィン!!
「めんどくさいな、ウィラード団長、いい加減出て来て貰えますか!」
商業都市ファーレンから帰還した第一近衛兵団数百名は、すでに匠と刃を交えていた。
そして次々と倒されていく。勝負にもならない足止めに、匠の苛立ちは募るばかりだった――。
「匠殿、出来るなら刃を交えたくない」
「僕は皆さんを殺せます。でも、殺したくありません。だから――道を開けてください」
匠の狙いはミラードただ一人だ。しかし近衛にしてみれば守るべき重要人物で、なにを言われようとも譲れない。
双方に譲れぬ理由があった。だが、その実力差は誰の目にも明らかだった――。
「タクちゃん! お願い、もう止めて! こんな戦い、誰も幸せになれない!」
久しぶりの再会なのに、争いを止める為に割って入らなければならない、華奈の表情は暗い。
「今さらそんなこと言うなよ、俺を捨てたのは誰だ。殺さないだけましだと思え」
「タクちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい……」
峰打ちで気絶する転がる近衛騎士、ひたすら謝る華奈。それらを無視して、匠はミラードの首を取るために一歩踏み出す。
そして、当然のようにウィラードが立ちはだかる――。
「先に進むなら、俺を倒して行け」
「邪魔をするなウィラード!」
「悪いな匠殿、俺を倒してその刃を華奈殿に向けよ」
エンチャント、筋肉強化、防御強化——。
幾重にもウィラードの付与効果があらわれ全身を青白い光が包み込む。
彼は一矢報いのであれば、全力で匠と刃を交え真実に近づいてくれと懇願していた。
「そうか、ならば全力で受けろ」
刹那——。
匠の剣は、ウィラードが構え直す暇すら与えなかった。
バキンィィィン!!
次の瞬間、業物の剣が金属音と共に砕け散る。
「クッソ、これまでか」
全ては一瞬で終わりを迎えた。
匠の鞘がウィラードの鳩尾に沈む――。
「フッ、あんたを殺す気にはなれない」
次の獲物の華奈に向かおうとした瞬間——。
「匠様、華奈様の夫である私が決闘を申し込む。だがその前に聞いてくれ」
「ああラインハルト君か、遺言なら聞いてやるよ」
匠の前にに立ち塞がったラインハルトは、すべての誤解を解けるのは今しかないと覚悟を決めていた。
そして、ずっと胸に秘めていた一言を放つ。
それは――。
「俺は……童貞だ!!」
「……は?」
「華奈様には一切手を出していない!神に誓って宣言する」
一瞬、時が止まる。だが、その言葉だけで十分だった。
ラインハルトは盤面をひっくり返すほどの、とんでもない斜め上行く宣言をした。
「だが、それだけじゃ信じられない」
匠はラインハルトではなく、華奈へ切っ先を向けた。
彼女が答えの全てを持っているから、本人から直接聞きたかった。
「今までの事は私が全て受け止めます」
だが、彼女は、憎しみで突き放した事や、嘘の結婚の事をひっくるめて、責任を取ると言いだす。
「そうか、分かった華奈。全力で来い」
匠は華奈の想いを全身で受け止めるべく身構える。
「参ります――」
――出雲神速剣・五の形『突《とつ》』
匠の挑発を受けるように、華奈は一直線に駆ける。
「おい華奈、切っ先がブレブレだぞ」
「ッ――」
刹那、匠も迎え撃つように剣を繰り出した。
相手を突き刺す、その瞬間だった――。
華奈は剣を避けることも受け流すこともせず、匠だけを真っ直ぐ見つめたまま、自らその刃を受けるように身を預けた。
キン!
瞬時に全てを理解した匠は咄嗟に剣を受け流し、華奈の身体を強く抱き寄せる――。
「嬉しい……」
そう呟いた瞬間、華奈の瞳から涙が溢れた。
「馬鹿野郎……」
華奈は恥ずかしそうに顔を胸へ埋める。
匠はようやく、本当に彼女を取り戻したことを実感していた。
カラン――。
手から零れ落ちた剣が乾いた音を響かせた。
匠は華奈を更に強く抱き締める。
「もう二度と、こんな真似をするな」
「うん」
その言葉とともに――。
ンッ――。
匠は華奈の唇へ静かに口づけた――。
※※※※※
数百名の近衛騎士、ウィラード、ラインハルトが見守る中、数百名の近衛騎士たちは、誰一人として口を開けなかった。
華奈と匠の熱いキスはまだ続いていた——。
「——コホン」
そろそろいいかなと、ウィラードが二人を伺うように咳払いをする。
「そろそろ離れないと」
「——うん、あのね、写真も全部捏造なの。私は……タクちゃん以外と口づけ——」
「ああ、ちゃんと分かっているよ」
華奈は恥ずかしがるどころか、まだ離れたくない表情をしている。
話しを切った匠は、周囲から突き刺さるような視線を感じ、思わず苦笑した――。
(……視線か……昔もこんなことがあったな)
華奈との再会で、戦場は甘い空気が流れている。
それを断ち切るようにフォルカスが姿を現した。
「匠様、間も無く人を捨てたミラードが姿を表します」
「そうか、向かう手間が省けたな」
「匠殿、どう言う事でしょうか」
眼の前にいきなり悪魔が現れ、騎士団には緊張感が走る——。
だが、敵意を見せず、匠の前で片膝をつくフォルカスを見たウィラードは、放たれた言葉にそこ知れぬ不安を感じていた。
「すぐそこに、来てますよ。この悪意は確かに人じゃない。団長、その目で確かめ判断してください」
グルゥゥゥゥ……。
「なんと、これは異界の生物なのか、これがミラード陛下だと……」
突然現れたのは、人狼とも魔獣ともつかぬ異形だった——。
中央には苦悶に歪むミラードの顔。左右には牙を剥いた狼の頭が唸り声を響かせていた。
全身は黒い体毛と分厚い筋肉に覆われ、腕はかろうじて人の形を保ちながらも、指先は鋭い鉤爪へと変貌していた。
呼吸のたび黒い瘴気が漏れ、足元の草花は瞬く間に枯れ、腐臭が辺りを満たしていく。
「匠様。あれが、人の欲望の成れの果てです——」
「なるほど、話が通じるとは思えないな——それなら……」
匠は刀に手を置き一歩、前へ踏み出す——。
グルゥゥゥゥ……
人狼ミラードの三つの頭が、一斉に匠を捉え、牙を剥き、喉を鳴らして威嚇する。
匠は刀に手を添えたまま、一歩も動かず見据えた。
その瞳に、一切の恐れはなかった。
そして、次の刹那――。
「キャンッ……!」
巨躯からは想像もつかない悲鳴を上げ、人狼ミラードは尻尾を巻いて後ずさる。
「あれは覇気……」
ギャォォォォン——!!
人狼ミラードは匠から逃れるように視線を逸らすと、弾かれたように方向を変え、近くの近衛騎士へ襲いかかった——。
「ミラード陛下!お気を確かに!!」
ガルゥゥゥゥ!
意識の大半を欲望と殺戮に向けられたミラードは見境なく攻撃をはじめ、ウィラードの言葉はもちろん届かない——。
それどころか、食い殺そうと牙を向け、咄嗟に盾で牙を受け止める。
だが、その眼前にいる怪物が主君であるという現実だけは、どうしても受け入れられなかった。
「タクちゃん、どうにかならないの」
「今スキルを使って、手立てを考えている。華奈は団長の援護に入れ、並の騎士だと無理だ」
「分かったわ——」
俊足を生かした華奈は、人狼ミラードの背後に回る。
ギャオン!
すると即座に鍵爪の攻撃が襲ってくる——。
キン!
ガルルル——。
「団長、もう人ではないです。決断してください」
「だが、殺すわけにはいかない!あの方は……俺の主君だ!」
隙あれば、格下の騎士に攻撃を加えようとする人狼ミラードは、もはや人ではなくなっていた。
だが、主人がいくら変貌しようとも、忠誠を誓ったウィラードは、殺すことに躊躇してる。
「団長、心臓の近くにある、核を貫けば我に帰るかもしれない——俺が隙を作る」
探査スキルで人狼ミラードを解析した匠は、一つだけ残された可能性を見出していた——。
#溺愛
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コメント
1件
耀聖(ようせい)さん、第84話読みました…! 華奈と匠の再会、やっと来た…!って感じで胸が熱くなりました😭✨ ラインハルトの「童貞宣言」は予想外すぎて笑っちゃったけど、あれで匠の誤解が解けるきっかけになったのが絶妙でした。そしてラストのキスシーン、周りに数百人の騎士が見てる中であれだけ続くの、匠の華奈への気持ちの強さが伝わってきて…! その後のミラードの変貌、あの「覇気」で怯ませる匠の迫力がすごくて、次の展開が気になりすぎます。核を貫くってどういうことなんだろう…続きが待ち遠しいです!