テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
ああもう、この回すごかったですね…! エシトの外道っぷりが冒頭から炸裂してて、読んでて背筋が冷たくなりました。でもその後の少尉の絶望的な状況からのどんでん返し、銀次の戦略の巧妙さに鳥肌が立ちましたよ。まさか「バリア」をあんな使い方するなんて。1.1倍の無限ループで自分の光線が自分に跳ね返る皮肉、最高に痺れました🔥 ボンドンさんの構成力、毎回唸らされます!
「敵能力者の蒸発を確認。跡形もありません。もう一人は投降に来るつもりですかね? 両腕をあげ我々のほうに走ってきています」
薄紫の髪をなで、神経質に自分の髪形を整えている副長。彼女の両目が金色に光っている。それが能力『千里眼』発動の証。ただの一兵卒が能力の取得故に抜擢された。そんな彼女が属するは対日本、アメリカを想定した防空能力者部隊。
「猟犬」
これがロシア政府の懐刀。恐ろしいまでの射程を誇る『光線』と見えない敵を炙り出す『千里眼』。突撃小銃で武装した10人の精鋭が接近する不確定要素を排除する、完璧な部隊。
「そいつは男か? 女か?」
いまだ嬲られている女性の悲鳴は止まず、半分叫び声に置き換わっているがお構いなしに鞭で女性を打ちつける。それを問うた理由は聞かずともわかった。嘆息しながら大麻の煙を吸わないようハンカチで口をふさぐ副長。
「女性ですよ……。共有します?」
「ああ、やってくれや」
「共有」
エシトの両目が金色に光る。そこに映るのは金髪碧眼の少女。今にも泣きだしそうな悲壮な表情をしている。
「……合格。胸が小せぇのは減点対象だが、及第点」
手を動かすのを止め、胸から拳銃を取り出し、後ろから女性の頭部に銃口を当てる。当てられている女性はもう完全に薬物でトリップしてしまっていて、自分が今生命の危機に瀕しているのに気づかない。だがそのほうが幸せだろう。
一発の銃声。力を失いうなだれる女性。エシトの頬に血液が付着するが、彼はそれを舐めとり恍惚とした笑みを浮かべる。
「あぁ~。たまんねえ。散々痛めつけてから殺す。これが俺のやりたかったことなんだよ」
副長は苦い顔をしながら顔をそむける。彼女がこの外道の下で働いているのは次の犠牲にならないためだ。今の彼女の凄惨な最期を見たら誰だって同じことを思うだろう。勿論愛国心故に祖国を守りたいという信念もあったが。エシトは次の遊び相手がくるのを大麻に火をつけながら待っていた。
□□□ ロシア軍前線基地 正面
「だ、誰もいない……? ど、どうして?」
外から見るとドームのような形状をしている石造りの施設。先の大戦でいうところのトーチカを現代風に改良を加えたらこのような造形に仕上がるのだろう。天井部分は大きく開け放たれ、天文台だと嘯いても、通用するかもしれない。全方向には銃座が備え付けられているが、射手は見当たらない。正面の入り口は無防備にも開け放たれ、獲物を待ち構える大蛇の咢を思わせた。
ラピス少尉は焦っていた。投降すれば命だけは保証されているはずだと妄信してここまで肺が破れる勢いで走り抜けてきたのに。投降相手がいない。もう撤退してしまったのかという疑念が頭をよぎるが、首を振る。罠かどうかを疑う余裕も持ち合わせていない。選択肢は、ない。そうして前線基地に足を踏み入れた瞬間、こめかみに硬い感触を感じる。それが銃口であることをすぐに理解し、「安堵」した。
「いらっしゃーい。可憐なお嬢さん。死ぬか、俺のオモチャになるか。選ばせてあげる」
声の主は前方中央。下卑た薄ら笑いを浮かべるスキンヘッドの大男と、その足元に転がる全裸の女性。頭のあたりから血が流れている辺り、死体らしきことがわかる。オモチャという発言がロシア流のブラックジョークではなさそうであると、少尉は身震いした。
大男の隣に控える女はその副官。二人を中心に左右に四名ずつの武装兵士と、少尉の両隣で銃口を向ける二名。
どうやら眼前の男が隊長格らしい、と少尉は判断した。戦うために戦力を確かめたのではない。
「助けてくださいっ! ぎ、銀の悪魔がァッ!!」
助けを乞うためだった。非武装で敵拠点の中心にあり、敵兵士に囲まれ銃口を突きつけられ、その隊長はおそらく人格破綻者であることが分かったが、そんなことよりも“銀次が恐ろしかった”。
密告である。奴の、銀次の能力を密告する。それと引き換えにこの身を「保護」させなくては。
「……ッ!」
しかし、少尉の口から言葉の続きが出ることは無かった。喉に走る激痛。何をされたか彼女自身全く理解ができない。
■■■
「ハァ……。ダメだな。せっかく友好的な協力者ができると思ったのに。本当に、残念だ」
銀次は心底悲しそうな顔をしながら、少尉の体に注入した液体金属で、彼女の声帯を切り取った。なぜ先ほど消滅したはずの銀次が作戦を続行できているのか。意識を墜落した航空機の残骸に移していたためである。静寂の中、残骸は思案する。
#オリジナル
Lily
24
一夜 妖
渋川
221
(まさか撃墜した破片まで僕だとは考えられないだろう。ゴミに擬態するとはなんとも屈辱的だが致し方あるまい)
(本体が気化。回収まで20分ってところか。すさまじい火力と射程。とんでもないな。長距離砲と索敵。この上なく相性がいい。空対地攻撃のほとんどを無力化できるし、なんならミサイルに対しても「光速」ならば追いつけるだろう。ロシアの虎の子か? 威力偵察の価値は十分にあったな)
少尉の体の中に入っている液体金属を通して通信を行う。ロシア兵には聞こえないよう彼女にだけだ。
「ラピス少尉。これから私の言う通りに行動してくれるならば、その絶望的状況からの打開も不可能ではない。従ってくれ」
□□□
「?!……!!」
「どうしたんだ、嬢ちゃん。一兵士として死を選ぶか? それともヤクをキメて天国に行くか。早いとこ決めてくれねえか?」
イラつきを隠すことなくエシトは決断を迫る。少尉は頭の中に響く銀次の声に手いっぱいでそれどころではない。危険度がエシトと銀次では格が違いすぎる。何とかそれを伝えたいが、声が出ない。その瞬間だった。少尉の耳から一瞬のうちに銀色の触手が伸びる。それがなんなのか確認をする暇もなく、その「鉄鞭」は一番近くにいた兵士に対して横薙ぎを行う。
ライフルを撃つ暇さえ与えてはくれなかった。わき腹を捉えたその一撃は肋骨を一つ残らずへし折り、内臓の大部分を損傷、壁にたたきつけられて絶命する。
「「……え?」」
少尉とエシトは同時に間抜けな声をあげる。その間に二番目に近い兵士にも同様に薙ぎ払う。今度は頭部に直撃。脳が炸裂し、即死する。この米国敗残兵がとんでもない存在であることにようやく理解の及んだエシトは全ての隊員に対して声を荒らげ命令する。
「撃ち殺せ! こいつは何か知らんがヤバイ!!」
(ち、違う。私は投降に来たんだ。こんなことをするのは私の意思じゃない!)
□□□
「ああ、これでロシア軍は少尉を“敵”と認識しただろう。二人殺した。もう交渉の余地すらないよ。戦え、少尉」
□□□
容赦なく弾丸の嵐が少尉に対して浴びせかけられる。しかしその全てを銀次が作り出した薄い銀のヴェールが受け止める。銀次曰く「薄膜装甲」ライフル弾はもちろん、ロケットランチャーでも受け止めきれるアイギスの盾。それにすべての攻撃が吸収される。
「クソッ! なんだこの能力? おい! 弾幕を途切れさせるなっ!」
銃弾と薄膜装甲がぶつかり合う高い音が連続して響き渡るが、一向に防御を貫くことはできない。エシトがしびれを切らして、指の先を少尉に向ける。そこに光が凝縮して「光線」を放つ。それは瞬く間に少尉の青色に発光するバリアに突き刺さり、雷鳴に似た轟音とともに障壁は破壊された。わずかに勢いを落とした光線はそれでも少尉の胸部を貫く……ことは無かった。少尉を取り巻く「薄膜装甲」が防ぎきる。
「全員離れろォ! またあの銀の触手が飛んでくる! あの女が動けないよう制圧射撃を続けろ」
(二つの能力? 冗談だろ? そんなことが可能なのか? 投降する素振りはフェイクか……? あの取り乱しようが演技とは……。そこに結論を出す暇はねぇな……仕方ねぇ)
残された八人の兵士と副長は後退しながら弾幕を途切れさせない。無論この攻撃で少尉を倒すことはできない。だからこの無敵の防御を破れるのはエシトしかいない。それまでの時間稼ぎだった。
(チャージすりゃあこの“至近距離”での光線の被弾。カスも残らねえ。ヤレねえのは残念だが、そうも言ってらんねえな)
エシトの指先に膨大な量の光が集まってゆく。その指が指し示すは全身が銀色の殻で覆われた卵のようになっている少尉。すでに陽も落ちた夜空の星々を凝縮するかのように、光は前線基地内に充満し、そこだけ真昼のように眩しい。
エシトは片手で器用に大麻に火をつけ、煙を吐き出し、呟くような何気なさでこう言った。
「発射」
最大出力での光線が銀の卵に向かって放たれる。
□□□
「にしても、少尉の能力も強いよなあ。あのバリアの真髄は攻撃を“受ける”ことではない。“逸らす”ことだ」
暗い雪の中、銀次はじわじわと氷を掘り進め移動をしながら、ロシア威力偵察のメンバーの能力詳細を頭の中のデータベースから引っ張ってくる。
♦ラピス=ウェイスト 少尉 能力名【バリア】
青白く光るバリアは厚みにより耐久力が異なり、強度は指数関数的に上昇する。一度に展開可能なバリアは84枚まで。展開してから再度発動するまで10分間のインターバルが必要。バリアが破壊されない限り、着弾した攻撃を1.1倍にして跳ね返す。
「1.1倍ってのがミソなんだが、少尉気付いていないよな、これ」
□□□
「エシト隊長ッ!」
何かに気づいたであろう副長が声をあげるが、もうすでにエシトは発射してしまっていた。今までで最大出力の光線が薄膜装甲を貫き、少尉の目の前にある斜め45°のバリアに着弾。
そして先ほど副長が気付いたのは要塞内に、三つの青白い異物が存在することだった。それはそれぞれ斜めに傾けられたバリアとその後ろにある多面体。
1枚目。少尉の眼前のバリアに光線が着弾し直角に逸れる。それが部屋の隅にある2枚目のバリアに当たりまたも直角に逸れ3枚目に、3枚目も同様に4枚目に。そしてまた4枚目が光線を1枚目に返す。
□□□
「ようは無限ループができるってことだな。しかも出力はどんどん上がる」
「面に対して垂直ならば受けきれないことは航空機で実証済み。だから敵と対面し最初一回は光線を正面から受け止め破壊させた。脳筋で突破可能だと思わせるために」
□□□
バリアは受けた攻撃を1.1倍にして跳ね返す。つまりバリアの耐久が切れるまで光線の出力は無限に上がっていく。
そして4枚すべてのバリアの後ろには、これまたバリアでこさえた正二十面体の物体がある。4枚のどれかが破壊されることによって、この物体に着弾させるためである。
何万、何億ものループを一瞬にして終え、3枚目のバリアが音を立て割れる。その後ろの多面体に着弾し、全天全方位を穿ち殺す殺戮兵器と化した。
光る毬栗、もしくはウニか。その全てを貫く光線は拡散し、発射者も含めて要塞内すべての形あるものを無差別に襲う。人も、武器も、壁も。全てを穴だらけにした。