目を閉じていても朝だと分かる強い日差しが、部屋の中に入ってきたのがわかる。
旭飛がゆっくりと目を開けた時、天井に違和感を覚えた。
家の木目の天井とは違う、シミひとつない真っ白な天井。
そしてすぐに、自分は入院していることを思い出す。
それと同時に、昨夜感じた強い絶望感、喪失感が一気に襲ってくる。
人生初の大会間近で不治の病を発症。
余命1ヶ月。
絶望感に耐えきれず思わずうつ伏せになって枕に顔を埋めようとすると、視界の端に、ベッドサイドの椅子の上に置いてある何かが映った。
起き上がって、何なのか確認してみる。
中身を確認した旭飛は、はっと目を見開いた。
と同時に、先程感じていた絶望感、喪失感が消え失せる。
それは、旭飛の読みかけの本や、ずっと読みたかった本が入ったバスケットだった。
おそらく昨夜母が置いていったであろうそのかごには、旭飛が入院中暇になることがないようにと何冊もの本が入っていた。
改めて母にお礼を言いたくなった。
母子家庭で、身を粉にして働き、自分のことはいつも後回しで娘を優先にしていた母親。
父がいなくて大変だっただろうに、女手ひとつで旭飛をここまで育ててくれた。
感謝してもしきれない。
母のありがたみが心を落ち着かせたところで、ベッドサイドに置いてあるスマホを手にとった。
メッセージアプリを開き、昨夜部活の友だちに送ったメッセージを確認する。
事情があり入院しなければならないこと、その影響で大会には出られないとの旨を送ったメッセージには既読がついており、『部員の予定が合った時に必ず行く!』と返信があった。
入院することになった友達に送る普通のメッセージ。
そんな普通のメッセージでも、近いうちに友達が来るということに、思わず顔がほころんだ。
少しは入院生活も気が楽になる、そう考えたら嬉しくてたまらなかった。
期待に胸を弾ませる旭飛だったが、この時の彼女はまだ知らなかった。
期待すればするほど、叶わなかった時のショックは大きいことを。
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