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日曜日の朝。
学生寮の窓から差し込む柔らかな日差しに、ひなはゆっくりと目を覚ました。
須藤くんの件も無事に解決し、ようやく少しだけ落ち着いた日々が戻ってきていた。
今日は特に予定もない。
「せっかくだし、本でも買いに行こうかな」
そう思い立ち、ひなは身支度を整えて学生寮を出た。
敷地内の商業施設へ向かう途中。
ふと前を見ると、見慣れた後ろ姿があった。
綾小路清隆だった。
「あっ、綾小路くん!」
声をかけると、彼は静かに振り返る。
「ひなか」
「偶然だね!」
「ああ」
いつもの短いやり取りなのに、ひなの胸は自然と弾んだ。
「これから本を買いに行こうと思ってたの」
「そうか。俺も少し見ていくつもりだった」
その言葉に、ひなの瞳が輝く。
「じゃあ、一緒に行ってもいい?」
綾小路くんは少しだけ間を置き、静かに頷いた。
「構わない」
その一言だけで、心がふわっと温かくなる。
書店の中では、それぞれ気になる本を手に取りながら過ごした。
時折、おすすめの本について短く言葉を交わす。
「綾小路くんって、こういう本読むんだ」
「たまにな」
多くを語らないけれど、
同じ時間を共有できることが何より嬉しかった。
買い物を終えたあと、二人は学生寮のラウンジに立ち寄った。
窓際の席に並んで座り、それぞれの本を開く。
ページをめくる音だけが静かに響く。
けれど、不思議と気まずさはない。
むしろ、この沈黙が心地よかった。
しばらくして、綾小路くんが本から目を上げた。
「こうしていると、落ち着くな」
「えっ?」
「お前といると、気を使わなくて済む」
ひなの胸が大きく跳ねる。
「……私も、綾小路くんといるとすごく安心するよ」
彼は少しだけ視線を細めた。
「そうか」
短い返事。
それでも、その声には優しさが滲んでいた。
夕方。
学生寮の廊下で別れるとき、綾小路くんは静かに言った。
「今日は悪くなかった」
「ほんと?」
「ああ」
そして、ほんの少し間を置いて続ける。
「また、こういう時間を過ごしてもいい」
その言葉に、ひなの顔がぱっと明るくなる。
「うん! 私もすごく楽しかった!」
綾小路くんは小さく頷き、自室へ戻っていった。
ドアの前に立ちながら、ひなは胸に手を当てる。
一緒に本を選び、
静かな時間を共有し、
また過ごしたいと言ってもらえた。
それはデートと呼ぶにはまだ早いかもしれない。
けれど、ひなにとってはかけがえのない一日だった。
恋の方程式は、まだ解きかけのまま。
それでも、答えに少しずつ近づいている気がした。