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出久推し
261
ひま
45
「……っ、かっちゃん!」
「出久!?」
敵の攻撃を避けた出久が、足をもつれさせてよろめいた。
無個性の出久に、正面から戦う力はない。
逃げようとしても、相手が複数いれば簡単には振り切れなかった。
「見つけたぞ、デク!」
「……っ!」
「無個性のガキがヴィラン気取りか。大人しく捕まれ!」
「…………」
出久の顔から、すっと笑みが消えた。
「……嫌だよ」
「は?」
「僕、まだかっちゃんと一緒にいたいんだ」
「ふざけるな!」
伸びてきた手が、出久の腕を掴もうとする。
その瞬間だった。
「…………おい」
低い声が響いた。
「……その手、どこに伸ばしてんだ」
「っ、爆豪!?」
かっちゃんが立っていた。
笑っていなかった。
いつも出久に向けている、甘くて、少し意地悪な笑顔なんてどこにもない。
ただ、目の前の相手を睨みつけていた。
「かっちゃん……!」
「出久。こっち来い」
「……う、うん!」
出久が駆け寄ると、かっちゃんはその手をしっかり握った。
怪我がないか確かめるように腕や顔を見て、ようやく小さく息を吐く。
「……痛ェとこねえか」
「大丈夫だよ」
「本当だな?」
「うん……」
「……ならいい」
出久の頭を一度撫でてから、かっちゃんはゆっくり振り返った。
「……テメェら」
「ヴィランを庇う気か!? そいつは無個性だ! 戦う力もない! 捕まえて当然だろうが!」
「…………は?」
空気が変わった。
「無個性だから何だよ」
「なっ……」ー
「戦えねえから捕まえていい? 抵抗できねえ奴なら、何してもいいってか?」
「そいつはヴィランだ!」
「だから何だっつってんだよ!!!!」
爆発音が轟いた。
敵が思わず身を引く。
かっちゃんは一歩踏み出し、握った拳から火花を散らした。
「出久に触んな。出久を傷つけんじゃねえよ!!!!」
「っ、爆豪!」
「誰がテメェらに出久を捕まえていいっつった!? 誰が出久を傷つけていいっつった!?あァ!?」
「そいつは犯罪者だ! ヒーローとして――」
「黙れ」
「……っ!」
「ヒーロー、ヒーローってよォ……」
かっちゃんの声が、さらに低くなる。
「テメェら、自分が何してるか分かってんのか?」
「……何?」
「出久がどんな思いでここにいるか、知りもしねえくせに。何も知らねえくせに、正義の味方みてえなツラしてんじゃねえ」
「俺の出久を、テメェらの都合で連れていこうとしてんじゃねえよ」
「…………っ」
「出久は俺の隣にいんだよ。誰にも渡す気はねえ」
「かっちゃん……」
後ろから聞こえた声に、かっちゃんは一瞬だけ振り返った。
出久が不安そうに、かっちゃんの服の裾を握っている。
その顔を見た途端、かっちゃんの眉間に深い皺が寄った。
――怖がらせた。
目の前のヒーローたちのせいで、出久がまた不安そうな顔をしている。
それが、どうしようもなく腹立たしかった。
「…………クソが」
「爆豪!大人しく武器を下ろせ!」
「うるせえっつってんだろうが!!!!」
かっちゃんが地面を蹴る。
爆発とともに距離を詰め、相手の攻撃を弾き飛ばした。
次の瞬間には別の敵が吹き飛ばされ、残った者たちが慌てて距離を取る。
「な、何なんだ、こいつ……!」
「デク一人のために、ここまで……!?」
「……あ?」
かっちゃんの動きが止まった。
「一人?」
ゆっくりと顔を上げる。
「……出久は一人だろうが、何だろうが関係ねえ」
「…………」
「俺にとっちゃ、誰より大事な奴なんだよ」
その声には、迷いなんて一つもなかった。
「出久より大事なもんなんざ、俺にはねえ」
「……かっちゃん」
「だから、出久を傷つける奴は許さねえ。出久を連れていこうとする奴も許さねえ。俺から出久を奪おうとする奴は――」
「かっちゃん、もういいよ……!」
出久がぎゅっと服を引いた。
「……僕、ここにいるから」
「…………」
「かっちゃんの隣にいるよ。だから……ね?」
かっちゃんは黙って出久を見つめた。
数秒後、深く息を吐く。
「……分かった」
そして出久の手を握り直し、敵を睨みつけた。
「今回は出久に免じて見逃してやる」
「……っ、待て!ヴィランを逃がすわけには――」
「次はねえぞ」
かっちゃんが言い放つ。
「二度と俺の出久に近づくんじゃねえ」
「…………っ」
「次に出久を傷つけたら、今度こそ容赦しねえからな」
そのまま出久の肩を抱き寄せ、二人はその場を離れた
。
しばらく歩いたところで、出久が小さく口を開く。
「……かっちゃん」
「ん?」
「……ぎゅってして?」
「……お前なァ」
「……だめ?」
「…………んなわけねえだろ」
ぎゅう、と出久を抱きしめる。
出久もかっちゃんの背中に腕を回し、服をぎゅっと握った。
「……怖かった?」
「……ちょっとだけ」
「……悪かった」
「え?」
「もっと早く気づいてりゃ、怖い思いさせずに済んだ」
「……かっちゃんのせいじゃないよ」
「…………」
「来てくれて、嬉しかった」
かっちゃんの腕に、少しだけ力がこもる。
「……当たり前だろ」
「……うん」
「お前が呼んだら、どこにいたって行く」
「……ほんと?」
「当たり前だっつってんだろ」
出久が顔を上げる。
「……えへへ。かっちゃん、大好き」
「…………っ」
「かっちゃん?」
「……クソ、マジで可愛すぎんだろ……」
「もうっ! かっちゃんったら……!」
出久が頬を赤くして、かっちゃんの胸に顔を埋めた。
かっちゃんはそんな出久の頭を、何度も優しく撫でる。
「……出久」
「……ん?」
「もう絶対、俺から離れんなよ」
「……うん!」
「……絶対だからな」
「分かってるよ、かっちゃん」
「……ならいい」
コメント
3件
かっちゃんの「出久に触んな」の一言に全部持っていかれました…!無個性だからって理由で捕まえようとする世界で、「俺の出久」って隣に立ってくれる存在が尊すぎます。でも一番刺さったのは、戦いが終わった後の「ぎゅってして?」。強さと甘えのギャップがもう…。出久が服の裾を握るところも可愛くて、守る側と守られる側の温度差が丁寧に描かれてて、じんわりきました。続き、静かに待ってます🌙