〈莉音‼︎一緒に遊ぼ!〉
〈莉音‼︎絵描いたんよ、見せるわ!〉
〈莉音‼︎歌歌うで!〉
〈り…おん?〉
『蒼くん…ばいばい…』
痣だらけ、傷だらけの君は、親に手を引かれ、何処かに消えてしまった。
いやだ、行かないでよ。
ねぇ…なんで行っちゃうの…
昔の自分が、泣き叫んでいる。
ーーーーーー
はっと、目が覚めた。
夢から覚めれば其処は閑静な住宅街でも、新宿のおんりーの家でもない。
取調室で寝落ちたのか…
警察官が話し合っている。
実際に僕は暴行を払ったし、公務執行妨害でもある。
でも僕は間違っていない。そう。この行動は正しかった、と自分に言い聞かせる。
薄暗い取調室で、ただただ自分を説得させる。
あの父親を殴らなければおんりーが身の危険に晒されていた。
そうだ、あと1日。どうしよう。
[…君は、大阪に帰ろう。]
心の中の何かが漏れ出てくるのを堪える為に、グッと呑み込む。
〈おんりーは⁉︎〉
[おんりー?誰だ?]
〈ぇ…〉
出よう。出ないと。本能的に感じる。
硬い廊下を、全力で駆け抜ける。職員達の視線を感じながら。
外に逃げ出す。どうしよう、どうしよう。
沢山の雨粒がアスファルトで舗装された道路に打ち付ける。
自分の息が上がっていく。 指先が冷えていく。心拍数が上がる。髪の毛が湿る。
いつもなら普通の事なのに、気にしてしまう。
この雨粒のせいでおんりーが消えていたら。考えすぎ、かもだけれど。
でも。
[おんりー?誰だ?]
あの言葉が走っても走っても振り払えない。心配事は風船のように膨らむ。
背後から聞き覚えのある声が迫ってくる。
〔あ、蒼じゃん、久しぶりぃ〜〕
〈…桃弥兄⁉︎〉
バイクに乗った人が、こちらにくる。
この人は おおはらmenこと、大原桃弥だ。3つ歳上の先輩。
〔まさか蒼と東京で再会するとはw〕
〈…警察に追われてるんだっ‼︎〉
〔は?マジかよw〕
そう言ってバイクのブレーキをかけて、徐行しながらヘルメットを投げてくる。
〔何があったかは知らんけど、なんか困ってるんだろ?なら乗ってけ‼︎〕
ーーーーーー
〔おんりーだぁ?名前なんてしらねぇぞ?〕
〈わかんない…けど、絶対に、わかるはずなの‼︎〉
〔思い出してみろよ、これまでのこと。〕
おんりーの父親は、星月莉杏。
何か名前が関わっているかもしれない。
おんりーを並び替えると…んから始まるのはありえない…おりんもしっくりこない…
りおん…?莉音⁉︎
〈莉音っ⁉︎わかった、莉音だっ‼︎〉
〔あ、莉音?あいつの名前聞くの、かなり久しぶりだな…〕
でも、何処に…
〔児相なんじゃねぇの。でも、もう面会できる時間とか、過ぎているんじゃないのか?〕
時計は、18時半。もうそんな時間か。起きたのは14時くらいだったか。
〔…それに、何処にいるかなんてわからないだろ?〕
〈消えるかもなんだよ。おんりーが。〉
〔は?〕
〈嘘だって信じたいよ、僕も。〉
ーーーーーー
『嫌っ…離してっ…‼︎「お父さん」っ‼︎離してよ‼︎』
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残り1日。