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#僕のヒーローアカデミア
「し、新魔導塔に機能障害発生!!
非常用動力に切り替えろ!!」
「魔力は正常です!!
機能だけが停止!!」
「1から手順書を見直せ!!
何としてでも初期始動状態に持って
いくんだ!!」
すっかり日も暮れたモトリプカの首都・
エムビーアにおいて……
新魔導塔を中心に混乱が広がっていた。
一方で、それを仕掛けた張本人である
シンたちは、
「ああやって、光を消す事も出来るんですか。
いい演出ですねー」
「これはこれでなかなか」
「急に塔の明かりだけが無くなり―――
真っ暗な夜空が広がった。
たいした光景じゃのう」
私と妻2人……
アジアンチックな童顔の女性と、もう一方、
ドラゴンの方の欧米モデル風の妻が見上げながら
感心したように話す。
しかしそれを見ていた案内人の人は相当
慌てた様子で、
「いいいいやっ!?
こんな事になるなんて聞いては―――
そしてこの警報は!?
まさか新魔導塔に何か……!?」
内心、そりゃそうかという言葉しか出て来ない。
この人に恨みは無いだけに、申し訳ない気持ちに
なってしまう。
「ええと―――
あえてこうなっているわけではなく?」
「違います!!
明らかに異常事態です!!
ど、どうしたら……!
あの、申し訳ございませんが、
いったん宿泊施設まで戻って頂けますか!?」
焦りまくりながら、彼は次の指示をこちらに
してくる。
しかし参ったな―――
あと1つ、手が残っているんだけど。
そう思いながらメルとアルテリーゼの方へ
視線を向けると、
「シン、あれ!」
「いったい何じゃあれは!?」
そう妻たちが指差した方向に、案内役の人も
振り向く。
するとそこには……
「オオオォオオオー!!」
と、狼のような遠吠えと共に、月明かりに
その白銀の毛並みを映す巨大な獣の姿が
出現し、
それは新魔導塔近くの、それなりに大きな
建物を上でその存在を誇示していた。
「魔物!? 魔獣か!?」
「あ、あれは狼か!?
あんな大きな―――」
「軍はいったい何をしている!?」
と、騒ぎがどんどん大きくなっていき、
そして案内人は口をポカンと開けたままで、
「あのっ、だ、大丈夫ですか?
いったん宿泊施設まで戻るんですよね?」
と、私が彼の両肩をつかんで揺らすと、
「えっ!?
は、はい! そうでした!
ではついてきてください!!」
こうして私たちは彼に従い……
元いた宿泊施設まで戻る事となった。
「おお、お前も戻ったか!
同行者の方々も一緒か!?」
「はい!
こちら3名、自分と共に行動しており、
こうして戻って来た次第。
他は!?」
人数確認のためか、戻った彼らは同じ担当者と
確認し合い、状況を共有する。
「そういえば、一緒に来ていた2人は?
確か疲れて部屋から動いていなかったと
思うのですが」
私がそう言うと担当者たちは顔を見合わせて、
「その方々は?」
「い、いや―――
部屋から一歩も外に出ていないので何とも」
扉の外から監視はしていたようだが、さすがに
プライベートまではのぞけなかったようで、
「見ていないの?」
「我ら同行者に何かあったら、モトリプカ側の
責任じゃぞ?」
と、妻たちは彼らを責めるように語り、
「と、とにかくその部屋に行ってみましょう!」
私の一言で、みんなでルクレさんとティーダ君の
部屋へと早足で向かった。
「すいませんお客様!
いらっしゃいますか!?」
と、担当者であろう男が扉の前から
呼びかけると、あっけなく扉が開かれ、
「わかっとるって。
何やえらい騒ぎになっとるようやなぁ」
「このけたたましい音は何なんですか?」
長い銀髪に切れ長の目をした長身の女性と、
やや褐色な肌をした、犬のような耳と巻き毛の
シッポの獣人族の少年が姿を現す。
その2人が部屋にいた事を確認出来た事で、
担当者の男はホッとした表情になるが、
「こ、この騒ぎは現在調査中です。
ですが、同行者の方々は念のため、
お部屋にいて頂きたく」
「何かわかり次第報告いたしますので、
待機して頂けますでしょうか」
私たちの担当者も、自室にいる事を要請して
来たので、
「わかりました」
「あ、それと料理とかは持って来てもらえるん
だよね?」
「はい、それは大丈夫です」
私たちの担当者がそう答えると、
「あー、じゃあウチらは変わらないって事?
このまま部屋の中にいればいい?」
「そ、そうですね」
「わかりました。それでは……」
ルクレさんとティーダ君はそう言うと、
また部屋の中に引っ込み―――
私たちも自室へ戻って待機する事となった。
「うまくいったようじゃのう」
部屋に戻ると、アルテリーゼが小声で
同意を求めてくる。
今回の作戦……
まず何かしらの理由をつけて、私が新魔導塔の
近くまで出向き、その効力を無効化する。
そうする事で100%何らかの混乱が生じる
だろうから―――
その騒ぎに乗じてルクレセントさんが出撃。
新魔導塔近くでフェンリルの姿となって、
遠吠えをする。
その姿を首都・エムビーアの住人たちに
拝ませた後、即座に撤退。
そして監視員たちに、『同行者に怪しい動きは
無かった』と確認させるのだ。
同時に、『帰国希望者』である奴隷たちも
行動を起こす。
自分の元主人たちをボコった後、逃走。
ザハン国へ逃げ帰る手筈となっている。
もちろんこれらの行動は、『見えない部隊』の
手引きがあってこそだ。
この計画の目的は……
『女子供まで隷属化し、また戦争に巻き込んだ
事で、フェンリル様の怒りを買った』
『新魔導塔が機能しなくなったのはそのため』
『奴隷たちはそれで自由となり逃げだした』
という事をアピールするため。
今回の件で、新魔導塔の故障はフェンリル様に
よるものだと『判明』してしまうが、
その前にモトリプカでは故障の原因を、
『不穏分子によるもの』だと決めつけて
しまっているし、
さらに今回、人の魔法を封じるような事はして
いないので―――
完全にフェンリル様の仕業だと断定する事も
出来ず、
どちらにしろ新魔導塔の信頼性や……
またそれを使った戦略や計画は揺らぐに
違いない。
もう、新魔導塔を軸にした計画は、
今後立てられないはずだ。
「あとは、奴隷たちがうまく逃げ切って
くれる事を祈るだけか」
「ま、大丈夫じゃない?
『見えない部隊』もついているんだし」
小声でささやくように3人で話し合いながら、
私たちは窓の外の夜空を見上げた。
「全員、ついて来ているかい?」
赤髪の、恰幅のいい女性が―――
後ろを確認しながら夜道を走る。
「今のところ脱落者はいないよ。
しかし、魔力無しで動く事がこんなに
疲れるなんてねぇ」
「まったくだ。
訓練で慣れたと思ったんだがなぁ」
複数の若い男女が、ジョギングのように
駆け足で語り合う。
「ザハン国内までたどり着けば、
その魔力封じの魔導具を外して
いいからね。
それまでの辛抱だよ」
「わかってますって、ブロウさん。
それに今は疲れよりも……
達成感でいっぱいでねぇ、あたい。
いやー、ほんとスッキリしたわ!」
その女性は腕をぐるぐると振り回しながら
上機嫌で走り、
「そいつぁ俺もだ!」
「また隷属化したと思って、完全に油断している
ところに一発! だったからなぁ。
あの時の『何で!?』ってツラぁ、
見物だったぜ!」
そのやりとりを聞いたブロウは苦笑し、
「ハイハイ。
そういう話は帰った後でいくらでも
出来るからさ。
まずは全員でモトリプカから脱出するよ!」
ブロウの号令の下、元奴隷たちはいっせいに
駆け足の速度を上げ始めた。
「監視員からの報告はどうなっている?」
「そ、それが―――
同行者たちに、怪しい行動は一切無かった
との事で」
深夜過ぎになり……
新魔導塔内部のとある部屋で、白髪交じりの
青みがかった短髪のアラフォーの男は、
冷静さを保ちながら従者に声をかける。
「各地の新魔導塔の故障は―――
すぐに回復したという話であったが。
ここはまだ回復しておらんのか?」
「それも、何かあればすぐ報告が上がる
でしょうから……」
燃えるような赤い短髪を持つ青年は、
主である彼とのやり取りを続ける。
「逃げ出した奴隷たちは?
まだ捕まっていないのか?」
ドルミンは眉間にシワを寄せながら、
次々と質問を行うが、
「申し訳ございません。
そちらの方もまだ、新たな情報は」
クラプスも目を伏して答え―――
それはこの状況が決して楽観視出来ない事を
物語っていた。
「新魔導塔の機能停止……
奴隷の反逆と逃走、そしてその前後に
出現したという神獣・フェンリル。
ザハン国が何か仕掛けてきているのは
間違いない、が―――」
「しかし、監視員からの報告では……
何も怪しいところは無かったと。
そもそもあのような少人数で、新魔導塔に対し
何か出来るでしょうか」
従者の答えに、主人はため息のように
長い息を吐く。
「同行者は、まだモトリプカ国内に
いるのだな?」
「はい。
監視員の指示をよく聞いて待機している
とかで」
ドルミンはしばらく、眉と眉の間を人差し指で
押さえるようにしていたが、
「数日、待機を引き延ばすよう監視員に
伝えよ。
理由は―――
首都において不穏分子による過激な動きアリ、
とでもしておけ。
その間にこの問題の収束を図る」
「わかりました。
そ、それと……」
「まだ何かあったか?」
主人が聞き返すと、クラプスは言い難そうに、
「例の、所有していた奴隷が逃げた件で、
その事について非難がドルミン様に向けられて
おりますが」
「それは俺が直接交渉する。
どのような条件下で逃げられたのかも、
聞いておかねばならんしな」
モトリプカ側はモトリプカ側で―――
対応して手を打ち始めた。
「はぁ、国外に出られない、と?」
翌朝……
私たち同行者組は、監視役であろう担当者から
帰国延期を申し入れられていた。
「昨晩の騒ぎでもご存知だと思われますが、
新魔導塔への攻撃が確認されたようです。
あなた方が狙われたわけではないでしょうが、
安全確保の見通しが立つまで、どうかここで
ご滞在を。
望むものがあればご用意いたしますので」
その言葉にメルとアルテリーゼは顔を見合わせ、
「待つってどれくらい?
私たち、乳児いるんだけど……」
「状況が状況ゆえガマンするが、
あまり長居はしたくないのう」
まだ1才くらいの乳幼児がいるのは事実なので、
母親としても不満気に返すと、
「で、ですが―――
それならばより安全が確保されませんと、
移動もままなりません。
期間はそれほど長くないと思われますのでっ」
するとそこでルクレさんが出て来て、
「まぁしゃーないか」
「この事、ザハン国側には伝えて頂けますか?」
続けてのティーダ君の問いに彼らの担当者も
まとめてうなずき、
私たちはここに滞在し続ける事となった。
「うーん」
「ふーむ」
「うーむ」
部屋に戻った私たちは夫婦揃って、
両腕を組んでうなる。
「しかし、ここまでうまく行くなんてな」
「あらぬ疑いをかけられて、数日帰国が
伸びる……
というところまでは想定内だったけど」
「そしてその間に、新魔導塔の機能を消したり
つけたりして混乱を加速させる―――
これは出来たらという事であったが、
まあ、あちらさんがここにいて欲しいと
いうのだから仕方あるまい」
そう、最低でも1度は新魔導塔の機能を
停止出来れば良かったのだが、
もし何らかの理由で滞在が長引いたら、
その間に新魔導塔を無効化したり元に戻したり、
とにかくその機能の信頼性を落とす方向で、
計画していたのである。
「んでどーするの? シン」
「ある意味、予想通りに事が進んでいる
わけだがのう」
メルとアルテリーゼに顔を近付けられ、
「……せっかく相手さんが用意してくれた
機会だ。
せいぜい、利用させてもらおうじゃないか」
そう私が答えると、
「それでこそシン!」
「子供まで巻き込む外道どもじゃ。
手加減の必要はあるまいて♪」
2人とも、やはり母親として思うところが
あったのかノリノリで、
私たちは『行動』に移る事にした。
「ルクレセント様」
その日の夜、フェンリルと獣人族が泊まる部屋に
声だけで呼ぶ存在が現れ、
「ん? 誰や?」
「ジャーヴです。
『見えない部隊』より―――
今回モトリプカに来た元奴隷たちは、
全員、ザハン国側へ脱出したとの事」
「ああ、そちらは成功したんですね?」
窓の外からの声に、ルクレセントやティーダも
また、小声で対応する。
「それより、今回の件でエムビーアで足止め
させてしまい、申し訳ありません」
「それは最初から想定内だったやん。
ウチらも結構好き勝手やらせてもらって
おるから別にええでー」
ルクレセントはルクレセントで……
シンから『フェンリルの姿であちこちに
出現したり、出歩いたりしてください』と、
指示を受けており、
その留守番はティーダが引き受けていた。
「シン殿は?」
「あっちもよう好き勝手やっとるみたいやで。
新魔導塔とやらを、無効化したり戻したり
して、その度に首都は大混乱みたいや」
「ルクレセント様もお姿をあちこちで見せて
おりますが、別段それで害を成すとかは
ありませんからね。
これだと、新魔導塔の故障の原因は―――
人為的な工作のせいなのか、それとも
ルクレセント様の出現のせいなのか、
新魔導塔自体に問題があるのか……
全くわからないでしょう」
室内の2人に見えないところで、
痩身の男はうなずき、
「わかりました。
現在、工作は順調という事で―――
もし滞在期間が長引きそうなら、
ザハン国側から圧力をかけてもらうよう
進言しましょう」
「お、そうしてもらえると助かる。
ほなそちらも気をつけてな」
こうしてやり取りを終えた『見えない部隊』は、
夜の闇の中を魔力ゼロで駆けていった。
「また新魔導塔が故障だと……」
3日後、その報告を受けたドルミンの顔は、
さすがに疲労の色が濃く出ていた。
「それで、逃げ出した奴隷どもは?
誰か捕まった者は?」
続けての問いにプラクスは首を左右に振り、
「1人も捕まったという報告は受けて
おりません。
また、各地にフェンリルらしき巨大な白い狼の
目撃情報が相次いでおり―――」
ギシ、と彼は大きく背もたれの音を立て、
「フェンリルの目撃情報と、新魔導塔の
故障時間の因果関係は」
「最初の1回をのぞき、前後する事から……
関連性は低いと見られるとの事。
そ、それと」
「まだ何かあるのか?」
もう聞くのも疲れた、というふうにドルミンは
渋面を作るが、
「ザハン国側より、同行者の帰国が遅れている
事について、詳しい説明を求めたいと」
従者の言葉に彼はふー、と大きく息を吐き、
「監視員からの報告は?
同行者に不審な動きは見られないのか?」
「そ、それも無いとの事で。
確かに新魔導塔の故障は、同行者が近くに
いる時に起こりやすいようですが―――
そもそも監視員がいる前で堂々とそんな事を
するかどうか」
「…………」
ドルミンは沈黙すると同時に天井を見上げ、
「もういい。
同行者は帰国させろ。
これ以上は痛くもない腹を探られる
だけだろう。
次の交渉にも支障が出る」
「は、はい!
それでその、新魔導塔についてはどう
いたしましょうか?」
その問いに彼はガシガシと髪をかくと、
「故障原因が判明するまで、旧来の魔導塔を
予備として使用しろ。
次の段階まで空白期間が出来るが、
止むを得ん。
各地の領土をあちらに返還すれば―――
防衛に回す戦力も奴隷頼りにならなくて済む。
とにかく、これ以上傷口を広げなくする事だ」
ドルミンの口から出た言葉は、事実上の
新魔導塔の放棄であり……
そしてそれは、彼の計画が根底から覆される
事を意味していた。
「帰国許可が下りました。
ご不便をおかけして申し訳ございません。
どうかお気をつけてお帰りを」
後日、改めてモトリプカ側より帰国の許しが
出て―――
私たちは戻る算段がついた。
「いえ、こういった交渉の最中に起きた
騒動でしたので……
安全確認を取って頂き感謝いたします」
こちらもまた返礼として頭を下げ、
それを見た担当者はホッとした表情を見せる。
「まあこれも話の種になるでしょ」
「早く息子たちの顔が見たいわい」
メルとアルテリーゼも伸びをしながら、
帰る事が出来る喜びを表現し、
「ではお世話になりました」
と、担当者と別れたところで他の同行者である、
ルクレさん、ティーダ君と合流し、
「おっ、そっちも準備終わったんやなー」
「滞在期間が延びたせいか、お土産が
増えてしまって」
2人はというと、荷物をいっぱい抱えていて、
「大丈夫ですか、そんなに持ち帰って」
「いや、荷物はザハン国まで送ってくれる
らしいんや」
「これはまとめただけです。
後で受付に頼んでいきます」
と、まるで観光旅行にでも来たかのような
雰囲気で、私たちは談笑していた。
「さて、出発するとしますか」
「飛んでいけないのがキツイねー」
「まあ、すぐであろう?」
そして私たちが部屋を出ようとすると、
「……みなさま、お疲れ様でした。
モトリプカ側の見張りも今は離れて
いるようですので……」
そこへ、『見えない部隊』メンバーである―――
ユールさんの声が聞こえ、
「おっ? という事は」
「ルクレセントと旦那様の出番じゃな?」
メルとアルテリーゼも反応し、
「はい……
今回の戦争を主導・画策したと思われる
人物及び―――
その所在が判明しました……
名前はドルミン。
また、1人の優秀な腹心をつけているとの事。
場所は例の新魔導塔です……」
それを聞いた私たちは互いにうなずく。
今回、思ったよりもこちら側の作戦は
上手く行っていたのだが―――
『もし出来れば』という最終目標があった。
それは、相手側のメイン人物を特定し……
その連中の『魔法』を封じる事である。
「しかし、ユールさんは大丈夫ですか?
そこまで案内する事は」
「……さすがにこれ以上は警戒されるかと……
この役目は獣人族の『見えない部隊』に
引き継がせます……
またこの事はすでにルクレセント様、
ティーダ殿にもお伝え済ですので……」
「でもどうするー?
今日帰るって言っちゃっているんでしょ?」
人間の方の妻が心配して聞いてくると、
「……それは大丈夫かと……
ティーダ殿の方で、荷物とお土産の
整理に手間取って……と、
理由を付けて頂きましたので……」
「なるほど」
「有能じゃなあ、ティーダ」
私が感心してドラゴンの方の妻とうなずいて
いると、
「……では、夜半に行動開始します……」
それだけ言うとユールさんの声は消え、
私たちはもう一泊する事にして―――
『その時』を待った。
「同行者がまだ帰っていない?
監視員からは、今日帰るとの連絡が
あったはずだが」
「その監視員からの報告です。
何でも、一部の同行者が滞在期間が延びたのを
幸いに……
お土産を大量に買い込んだとの事で。
もう一泊していく事になったそうです」
その日の深夜―――
ドルミンはプラクスから報告を受け、
「あちらは、ずいぶんとのんびりした
人材を選出したようだな」
緊張が解けたような声で彼は返す。
「まあ、帰国許可が出た途端……
慌てて帰るような真似をしない分、
警戒はしなくて良さそうですが」
「それもそうか―――
まったく、いつも相手がこう単純なら、
やりやすいのだが」
ドルミンは苦笑しながら従者に答え、
「だが最後まで油断はするな。
同行者がいようがいまいが、この新魔導塔に
故障が生じているのは事実。
魔力探知機も十分稼働させて……」
そこまで言ったところで、室内に魔導具越しの
声が響く。
『魔力探知機に感!!
ドルミン様、警戒してください!!』
名指しされた彼はすぐにその端末に向かい、
「方角は? 距離はどれくらいだ?」
『極めて近くです!!
急に魔力探知機が反応しました!!
まるで突然出現したような―――』
それを聞いた彼はクラプスと顔を見合わせ、
「落ち着け。
魔力探知機だけに頼るな。
すぐに外を魔導照明で照らせ。
魔力反応があるのなら、必ず何かが接近
しているはず……!」
と、そこで―――
従者がポカンと口を開き、窓の外を指差す。
「どうしたクラプス」
何があった、と言うより先に彼の視線は
そちらに向き、
同時に言葉を失った。
そこには、噂に聞いた白い毛並みの狼が、
その巨体を塔にしがみつくようにして
こちらをのぞいており、
「ま……まさか!?」
「フェ、フェンリル―――
本当に!?」
困惑している主従を前にして、『彼女』は
夜空に向けて大きく遠吠えを上げた。
「遠吠えです。
どうやら、予定通り標的を発見した模様」
獣人族の『見えない部隊』メンバーと共に
新魔導塔の根本までやって来た私は、
その声の先を見上げ、
「四足歩行の獣及び獣人族を除き……
目の前の塔の範囲内において、
魔法を使う、もしくは魔法を発動させる
道具など、
・・・・・
あり得ない」
そう私がつぶやくと―――
新魔導塔は消灯でもしたかのように、
明かりが消え去った。
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