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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

5 - 庇護欲をそそるという言葉は、なにも女子供に向けてのものだけじゃない①

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2024年12月30日

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【王様の命令は絶対!!】


というわけで、ノアはアシェルの婚約者となった。


ノアがお城に誘拐されたのは、雪が溶けたばかりの春の始め。それから3ヶ月が過ぎようとしていた。


少し前までは、霞がかった青空が広がっていたのに、気付けば水色の空に色とりどりの花びらが舞っている。


花満開のこの季節は小鳥でさえも胸躍るようで、さえずりさえも、どことなく溌剌としている。


そんな花に埋もれた庭園で、ノアはロイヤルという言葉しか似合わない豪奢なテーブルに着席してアシェルと向き合っていた。


盲目王子の日課である、午後のお茶に付き合うために。




「───ノア、今日のお菓子は何かな?」

「ええっと……丸い正体不明の焼き菓子のようです」

「そうかい。それは美味しそうだ。取り分けてくれるかな?」

「……はぁ」


正体不明の菓子を美味しそうだと判断するアシェルの感性を疑うところだが、王城の奥深くにある離宮では、そんな突っ込みを入れるものは誰一人いない。


ノアを除いては。


「殿下、正体不明のものを口にするのは、いかがなものかと思いますよ」


知らない人についていっちゃダメ、夜に一人歩きをしちゃダメ、寝る前に水分を取りすぎちゃダメ。


それらと同じニュアンスで、ノアがアシェルに提言しても、彼はにこにこと笑うだけ。


「ノアと一緒に食べれるならなんだって美味しいし、それに、私はここにいる者を信用しているから大丈夫」

「……はぁ」


寛容なお言葉をいただいても、ノアはアシェルのことが心配でたまらない。


盲目王子こと、アシェル・リアッド・イェ・ハニスフレグは27歳。とっくに成人している大人なのだから、もう少し人を疑うべきだとノアは心の中で主張する。


なぜなら彼は、生まれつきの盲目ではなく、17歳までは、その目に光を宿していたのだから。


17歳もそろそろ終わりに近付いたとある日、彼は光を失った───呪いを受けて。


呪った犯人は、10年経った今でもわからない。


いや、もしかしたら公にできないだけで、本当は犯人を突き止めているのかもしれないし、とっくに制裁を与えているのかもしれない。


どちらにしても、アシェルの視力は、もう二度と戻らない。


そんな恐ろしい呪いを受けたのだから、二度目もあるかもと警戒するのが普通だろう。しかしアシェルは、側近2名を置くだけで、それ以外の対策は一切していない。


あまりの無防備さに、呆れたノアは毒味役を買って出た。


崇高な自己犠牲の精神からではなく、キノコ好きが幸いして、ある程度毒に対して耐性を持っているからである。


大きな声では言えないが、三食昼寝付きの生活に罪悪感を覚えていたのも理由の一つだ。


無理やり盲目王子の婚約者にさせられたのに、どうしてそんな謙虚なことをとお思いだろう。


しかし、これには裏がある。


盲目王子の婚約者になったノアだが、実は「期間限定の、仮初の婚約者」だったりする。


アシェルは呪いのせいで王位継承権は剝奪されたが、れっきとした王族だ。見栄えだけなら、ローガンより遥かに王族だ。


そして、王族と結婚したいと思う女性はごまんといるし、何が何でも自分の娘を王族に嫁がせたいと思う親はもっといる。


本来なら盲目というのは結婚においてハンデとなる可能性が高いのだが、女性側からすると大チャンスになる。


彼の目が見えないことをいいことに、容姿が二流三流だってイケるんじゃないかと思う貴族令嬢が殺到して、見合い話は後を絶たないのだ。


しかもそれは、一過性のものではなく、月日を重ねる毎に件数が増えている。


毎日毎日、官僚から見合いをせっつかれ娘から預かった恋文をポケットにねじ込まれ、めったに参加しない夜会に出れば令嬢達にもみくちゃにされる日々。

目が見えない相手に文をしたためる女性の神経はわからないが、愛の力で何とかなると思っているらしい。


そんな生活が続いたアシェルは、我慢の限界を迎えてしまったのだ。


聞いたところによると、アシェルは結婚する気はないらしい。


後継者問題で揉めるのは世の常であるから。自分の種がのちに、内乱を招くかもしれないことを知っているし、彼はそれを一番恐れている。


だからアシェルは、ノアにこう持ちかけた。


『一先ず、私と婚約しませんか?仕事として』


契約内容は一ヶ月更新の日給制。残業ナシ。賄い付きの、昼寝付き。もちろん婚約者として傍にいなければならないが、婚前交渉という名の性的な要求は一切ナシ。


貧乏孤児院を支えるべく、そろそろ自立して大きな町で出稼ぎに行きたいと思っていた矢先の提案であり、ノアはその有難すぎる申し出に二つ返事で頷いた。


ただ、これは一部の人間しか知らないこと。


王様だって知らない。バレたら虚偽罪あーんど不敬罪で間違いなく絞首台に直行だ。


もちろんそのことをちゃんと理解して提案してくれたアシェルは、「絶対に大丈夫。もし仮にバレたり、疑われたら私が全部責任を取るから」と言ってくれた。


しかし、自分だって罪だとわかっていて乗っかったのだから、責任は折半が正しい。とはいえ、死にたくはない。


だからノアは必死に婚約者を演じる。


まだ見ぬキノコを食すために。そして、お世話になった貧乏孤児院に恩返しをするために。

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