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1 公開オーディション当日
正直に言えば、私はこのオーディションに懐疑的だった。
「公開新メンバーオーディション」
しかも“Starlight Wishの追加メンバー”。
炎上も、沈静化も、すべてを乗り越えた直後に――
今さら新人?
しかも一般参加?
意外とアイドル向きの子いっぱいいるよ、とか?
いや、ちぇりーみたいな子、そこそこいないよ?
控室のモニターに映る会場の様子を、私は腕を組んだまま見下ろしていた。
「凛……人、多すぎない?」
隣で葵が小さく笑う。
「公開だもん。ちぇりーの影響、やっぱりすごいよ」
画面いっぱいに映るのは、全国から集まった少女たち。
制服、私服、練習着。
緊張で顔を強張らせる子、涙を堪えている子、カメラを意識して背伸びする子。
――でも。
「……あれ?」
私は無意識に、モニターに指を伸ばしていた。
会場入口の端。
人の波から、少しだけ外れた場所に立つ――小さな女の子。
背が低く、幼い顔立ち。
肩までの黒髪を、ぎゅっと一つに結んでいる。
周囲の“アイドル志望”とは、明らかに雰囲気が違う。
華が、同じところを見て呟いた。
「……あの子、小学生じゃない?」
「公開オーディションは、小六から参加可能よ、きっとまだ幼いのね。」
私は答えながらも、目を離せなかった。
その子は、緊張しているはずなのに――
目だけが、異様に澄んでいた。
何かを“追いかけてきた目”だ。
2 一次審査:自己紹介
一次審査は、簡単な自己紹介と質疑。
控室で、私たちはヘッドセット越しに候補者の声を聞いていた。
「夢はセンターです!」
「憧れはちぇりーさんです!」
「絶対に有名になります!」
――正直、どれもよくある回答。
希が小さく欠伸する。
「みんな同じこと言うね……」
その時。
「次、エントリーナンバー117番」
画面に、さっきの小さな女の子が映った。
少しだけ深呼吸をして、マイクの前に立つ。
声は、驚くほど落ち着いていた。
「日向……いちご、です。小学六年生、11歳です」
その瞬間。
――空気が、変わった。
葵が息を呑む。
「……日向?」
私は、嫌な予感がしていた。
司会が続ける。
「志望動機を教えてください」
少女_日向いちごは、一瞬だけ視線を伏せた。
それから、まっすぐ前を見た。
「……お姉ちゃんが、Starlight Wishのセンターだからです」
控室が、ざわつく。
希が立ち上がった。
「え!?ちぇりーの妹!?」
華は眉をひそめる。
「……公表、されてたっけ?」
「どうしても受けたいって言うから…」
ちぇりーが呟いた。
私は、唇を噛んだ。
――まずい。
これは、話題先行になる。
けれど。
「でも」
いちごは、言葉を続けた。
「お姉ちゃんみたいに、綺麗にはなれません。顔も、スタイルも、全然似てないって言われます」
その声は、震えていた。
でも、逃げなかった。
「それでも……お姉ちゃんが、泣きながら努力してるのを、がんばってきたのをずっと見てきました。だから……私も、同じ場所に立ってみたいです」
一瞬の沈黙。
私は、思ってしまった。
――この子、“ちぇりーの妹”という重さを、もう知っている。
3 二次審査:歌唱
二次審査は、歌唱。
ここで、大半が落ちる。
「次、117番」
「あ、いちごちゃんだ」
希がモニターに近づく。
いちごが、マイクを握る。
選んだ曲は――SWの初期曲。
希が目を丸くする。
「えっ……」
前奏。
そして。
__一音目で、全員が黙った。
「……え」
私の口から、声が漏れた。
声が、澄んでいる。
まっすぐで、嘘がない。
技巧に走らず、でも感情がある。
何より――音程が、恐ろしく正確。
なのに聞いてて気持ちいい。
葵が小さく呟く。
「……歌、ちぇりーちゃんより……」
「上手いの」
ちぇりーが、はっきり言った。
私は、背筋が冷たくなるのを感じていた。
__違う。
この子は、“妹だから上手い”んじゃない。
この子は、
最初から“歌うために生まれた”タイプだ。
曲の最後。
いちごは、深く頭を下げた。
拍手が、自然と起こる。
希が唸る。
「……小六でこれは、反則でしょ」
4 二次審査:質疑
最後の質問。
「もし、オーディションに落ちたら?」
いちごは、少し考えたあと答えた。
「……また、練習します。お姉ちゃんに、胸張って“追いついた”って言えるまで。」
その言葉に、
私は、確信してしまった。
__この子を落としたら、
SWは“未来”を一つ、失う。
5 合格発表
控室で、最終協議。
合格者は――四人。
異論は、なかった。
「117番は、文句なし」
「歌が武器になる」
「何より……物語がある」
「ちぇりーの妹だからって贔屓するわけじゃなくて。」
そして。
最終発表。
「合格者――エントリーナンバー117番、日向いちご」
会場で、いちごが目を見開く。
数秒遅れて。
ぽろぽろと、涙がこぼれた。
「……ありがとうございます……!」
その姿を、私は静かに見つめていた。
――ちぇりー。
あなたの“光”を追いかけてきた、
でもあなたとは全く違う色の、
もう一つの果実。
この子は、きっと――
甘くて、幼くて、
それでも、
とてつもなく強い。