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気がつくと、私は宮ノ下駅前の木製ベンチに腰掛けて、小刻みに身体を震わせていた。雨はすっかりあがって、足元の水溜りには青空が映し出されている。
私の濡れた身体を、太陽のぬくもりが包み込んでくれてはいるが、私の感情は治らないままだ。
「なんなのよ…」
私は呼吸をしたいのだけど、嗚咽と涙が止まらない。
あのまま、ママに連れて行って欲しかった。
死にたがりの情けない娘を、うんと叱って欲しかった。
「ふざけないでよ…」
心から出た言葉だった。
ひとりぼっちにされた気がした。
現実世界に置いてきぼりにされた不安が、私をじわりと苦しめる。
その時、何処からか猫の鳴き声がした。
短くて、ちょっとかすれた聴き覚えのあるその声は、紛れもなく行方不明になったとらきちで、尻尾をぴんと立てながら、私に向かって近付いてくる。
「なんで!?」
私は驚いて立ち上がり、とらきちに駆け寄って抱き上げた。
とらきちは、喉をゴロゴロさせながら、私の泣き腫らした頬を舐めてくれた。
ざらついた舌、ひんやりと冷たい肉球、艶やかな毛並み、大きな目と鼻先のピンク色、そしてしゃがれた鳴き声。
こんな私を、無条件で受け入れてくれる存在に、私は声を詰まらせながら言った。
「帰ろう、おうちに…」