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温泉を出て、コンビニで何か買おうとロビーに向かった。
「ゆう、あそこピアノある!」
「合唱コンの曲弾いてみてよ」
リクとなぎさの無邪気な声に、のどがひゅっと音を立てたのがわかった。
「あ、えと」
鍵盤に恐る恐る指を乗せる。
合唱コンでミスした瞬間が脳裏によぎって。
目の前が真っ暗になって。
───弾かなくちゃ。何でもいいから、音…
「ゆう?大丈夫?」
ハルの声にはっと我に返ると、ハルがピアノを鳴らしていた。
すごい、ハルピアノ弾けるんだ───
「あ、れ」
ピアノの音が、聞こえない。
「大丈夫か」
かなの声は聞こえるのに。
「ゆう?」
リクの心配そうな感情も、伝わってくるのに。
「どうしたの?」
ピアノの音だけが、聞こえない。
「聞こえ、ない」
「え、」
「ピアノの音、聞こえない」
「そんなことだろうと思ってた。まああの雰囲気の中ミスしたらかなりトラウマだよね」
ハルの声は優しかったけど、それすら嫌味みたいに聞こえて。
「ごめん、先部屋戻ってるね」
居心地が急に悪くなって、部屋に戻った。
「ゆう!」
後ろからリクの声が聞こえて、少しだけ振り向く。
「何?」
「大丈夫だよ。ゆうは何も悪くないよ」
そんなありきたりな慰めに、イライラした。
「リク、もういいよ。そういうのやめて」
「どういうこと?」
「いい子ぶらないでよ。リクには分かんないよね、僕の、僕らの苦しさ!リクには僕らみたいな悩みもないのに。なのに、大丈夫とか言わないでよ!」
言い捨てて部屋に入り、布団に籠って眼を瞑った。
布団の中で目を開けた。
さっきの自分の言葉が頭によぎって、言わなきゃよかったとため息をついた。
何で言っちゃったんだろう。
きっとリク、傷ついたよね。
「ゆう、起きた?」
声がして、布団をそっとめくる。
「なぎさ…」
僕の目の前に座り込んでいたのは、なぎさだった。
「リクは?」
「リク、あの後かなりへこんじゃって。今はかなに慰められてるよ」
そっか、と呟いた。
「お腹空いたでしょ。何か食べる?」
「食べる」
体を起こすと、外はまだ暗かった。
「おにぎりとか買ってきたんだけど、どれがいい?」
1つ手にとって、パッケージを剥がす。
なぎさは小さなクリームパンを取り出して、口に放り込んだ。
「まだ食べてなかったの?」
「1人だけで食べてるの嫌かなって」
「そっか」
ありがとう、と言いかけたその時、部屋のドアが開いた。
「ゆう…」
そこにいたのはリクとかなで、僕は反射的に顔を伏せる。
「⋯さっきはごめん」
「俺こそごめん、あんなこと言われたらムカつくよね」
「そんなことない、僕も言い過ぎた」
「でも、」
「もうやめとけ」
かなの静かな声。
「夜遅いし、明日朝早いんだろ。早く寝るぞ」
4人で布団に潜り込んで、目を閉じた。
『第四部』
「しのさーん!」
真っ白な家のインターホンを押したリクが、スピーカーに向かって声を飛ばす。
ガチャ、とドアが開いて、30代くらいの男の人が出てきた。
「しのさん!」
リクが声を弾ませる。
「リク、久しぶり。そっちがお友達?」
「うん!メガネかけてるのがなぎさで、俺の隣のこの子がゆう。身長高いのがかなで、ヘッドフォンつけてるのがハルだよ」
「とりあえず上がって。まっすぐ行ったところにリビングがあるから」
しのさんの言葉に従ってリビングに入り、ソファに座ると、しのさんはリクの隣に座った。
「リク〜!」
手招きするゆうの姿が、一瞬誰かと重なった。
「今行く!」
ゆうたちが開いていたのは、俺のアルバムだった。
「リク、この子だれ?」
なぎさが指さしたのは、写真の中にいる、俺の隣の男の子。
「右がリクでしょ?」
「うん。この子は───」
「結構色んなところにいるな、この黒髪」
「この子、は」
この子は…
「誰、だっけ」
頭が痛い。
「誰、だ?」
「リク?」
───ごめんなさい。
「りょう、くん」
「りょうくん、って…誰のこと?」
遠くでゆうの声が聞こえる。
りょう、くん。涼くん。涼。
───涼。
「っ、…!」
「リク?」
なぎさの声。
「俺、は、」
涼を───
「リク!」
ましゅまろ