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菊田は芸人で、丁度三人目の相方が芸人を辞めてしまったところでした。相方を見つけないことには劇場で漫才をすることは出来ません。かといって、ピン芸人として姿をお見せする程の勇気もありません。菊田は早く早く相方を見つけて、また劇場に立ちたいのでした。
まず、菊田は数回飲みに行ったことがあり、同じ劇場でピン芸人として活動している【ピンチ田村】に声をかけました。
「一緒にコンビ組まへんか。やっぱりお前、ギャグとかおもろいし、コンビでも上手くいくと思うんやけどな。どう。」
田村は一呼吸置いてから返しました。
「悪いけどな俺はピンでもやれてるし、それに誰がお前と組みたいねん。まだ劇場でウケたことないんやろ?コンビの方がテレビに出やすいらしいけど、お前と組んでピンの仕事まで無くすわけにいかんからなぁ。」
次に菊田は楽屋が数回一緒になったことのある後輩芸人で最近、相方と解散しピンになった【元パラサイトパラダイス】の井上に声をかけました。
「あー、お疲れ様。あのなぁ、相方って探してへん?お前今相方おらへんのやろ。どう?組まへん?最近は先輩後輩のコンビも増えてるしさ、ええやん。組もや。」
井上は菊田の前でため息をつきました。
「菊田さん。菊田さんと組みたい後輩芸人なんていませんよ。飲みの席では菊田さんと組んだら芸人辞めさせられるなんて言われてるんですから。それに僕はもう相方が見つかってるんです。すいません、失礼します。」
その後も菊田は数人に声をかけたが、誰も菊田を相手にしませんでした。
「俺はもう劇場に立たれへんのかなあ。」
菊田は半分漫才師として劇場に立つことを諦めていました。ピンでやっていくのか、芸人を辞めるのか。どちらも地獄に違いありません。劇場裏にある公園のベンチで一人頭を掻きました。
そんな時、菊田に【ランデブー】が解散したという話が入ってきたのです。
【ランデブー】は菊田の同期の中で最も優秀な漫才師コンビでした。まだ、テレビ出演は少ないものの、劇場に出る芸人達は芸歴に関係なくそのコンビを知らない人は居ませんでした。
それによくよく聞いてみると、喧嘩別れで、しかもその片方である辻󠄀は芸人を辞めてしまったらしいのです。天才の梅原に努力家の辻󠄀が押し潰されてしまったのか、二人は間違いなく成功まであと一歩というところでした。
菊田はこれが最後のチャンスだと思いました。
正直言うと辻󠄀を馬鹿に思いました。折角、あの梅原を相方として掴んだのに、売れる直前で手放して芸人を辞めてしまうなんて。俺ならこんなことはしないと思いました。早速、菊田は劇場の袖で他の芸人のネタを見ている梅原を待ち伏せました。梅原は井上が新たな相方とやっているネタを腕を組んで見ていました。そのタイミングを逃さず、菊田は声をかけました。
「なぁ梅原。お前解散したんやろ。頼む俺と組んでくれ、俺はお前が組んでくれやんかったら芸人辞めるつもりや。お前が最後のチャンスやねん。俺と漫才やってくれ。」
梅原は視線を井上達からそらさずに答えました。
「ええよ。下町レモネードな。」
菊田は自分の熱量に反して、冷めた態度で答える梅原に拍子抜けしました。
「下町レモネードか。」
菊田はなんとなく、梅原の決めたコンビ名を繰り返しました。
この日から菊田と梅原は【下町レモネード】として活動することになりました。