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私をリリアンから助けてくれたのは、同室のマリーンだった。
マリーンは木の棒のようなものを手に持っている。持ち手が彫られ、艶が出るように加工された、先端が丸い木製の棒。先端には何が起こったか分からない、きょとんとしたリリアンがいた。
私も何が起こったか分かっていない。
リリアンを突き飛ばしたのはマリーンなのだが、彼女がリリアンに体当たりをした感覚はなかった。
息苦しさがスッと無くなった。そんな感覚だ。
「マリーンあなた―ー」
「動かないで!」
リリアンがその場から立ち上がり、邪魔をしたマリーンに詰め寄ろうとするも、彼女の覇気のある声にすくみ、歩を止めた。
マリーンは木の棒の切っ先をリリアンに向けたまま、彼女に注意をする。
「あたしが止めなかったら、マリアンヌは死んでいたわよ!」
「どいてよ! あいつ目障りなのよ!!」
「……」
今のリリアンでは会話が出来ないと悟ったマリーンは、木の棒の先端を床に下ろし、指揮者のように振り上げた。それと同時に、リリアンに破壊されたガラスペンの破片が宙に浮き、リリアンの前で停止している。
(え……?)
私はその不可思議な現象を目の当たりにし、驚いていた。
破片がまるで生きているかのような動きをしている。
もしかして……、これがカルスーン国民が生まれつき持っている能力、”魔法”なのだろうか。
「一歩でも近づいてみなさい、このガラスで怪我するわよ」
「なによ、なんであんたがマリアンヌの味方をするのよ!! わたくしの邪魔、しないでよ!!」
「味方しないと、あんたが殺人犯になるからよ!!」
「悪いのはマリアンヌよ!! 私の婚約者を奪うあいつよ!」
「……」
リリアンは何故マリアンヌの味方をするのかとマリーンに激怒する。
冷静なマリーンは、まっとうな答えを出すも、リリアンの耳に入っていないようだ。
マリーンはちらっと横目で私を見た。
”部屋に入って。入ったら、鍵をかけて”
唇の動きと視線で、私に指示を送る。
私は小さく頷き、マリーンの後ろに隠れた。
マリーンがリリアンに近づき、私の姿が見えなくなったところで、部屋に入った。
部屋に入り、私は内側から鍵をかける。
(私、生きてる……)
施錠してリリアンがこの部屋に入ってこれないと分かると、私は膝から崩れ落ちた。
身体が恐怖で震え、立ちあがることが出来ない。
とても怖かった。
死ぬかと思った。
部屋の外では、リリアンの怒号と冷静なマリーンの声が聞こえている。
少し経って、他の女生徒の声も聞こえ、次第にリリアンの声が小さくなっていった。
コンコン。
ドアのノックがし、私はその場に座り込んだまま、内側のカギを開け、ドアをゆっくりと開けた。
向こう側にはマリーンがいて、彼女は私に微笑んでいる。
「う、うう……」
マリーンの笑顔を見て、緊張の糸が切れた私の目には大粒の涙がこぼれた。
「リリアンは自分の部屋に帰ったわ」
「うっ、えっぐ」
マリーンが私を抱きしめる。泣き出した私を安心させるために背中を優しく撫でてくれる。
「怖かったわね、もう大丈夫だから」
「うわああああ!」
感情が外れ、私はマリーンをぎゅっと強く抱きしめ、声を出して泣いた。
☆
翌日。
私は腫れた目のまま、登校した。
あの後、マリーンは私の涙が収まるまで親身に話を聞いてくれた。
入浴時間を逃した私は、化粧を落とさないで眠った。その日は、マリアンヌが大泣きしている私を慰めてくれている夢を見た。私が怖がったり、悲しい気持ちになった時は、いつも彼女が寄り添ってくれたので、それを思い出したのだろう。
「おはよ」
「ごきげんよう」
教室に入ると、マリーンが声をかけてきた。
私はそれに応える。
「昨日の件、女子寮の寮長と当番の先生に報告したわ。それで、リリアンの行動が目に余るものだから、二か月の停学処分になってる。今日のうちに実家に帰ってるはずだから、安心して」
「……そう」
「リリアンが激怒する原因は、マリアンヌとチャールズさまにあるのだけど……、これからあなたたちどうするの?」
「分かりません。チャールズさまのお気持ち次第です」
「ふーん」
マリーンは、私が眠っている間に事後処理をしてくれていたようだ。
その結果、リリアンは二か月の停学処分になった。公爵令嬢にそのような処分を下したのは、私を殺そうと首を絞めたからだろう。
しばらくリリアンと顔を合わせることはない。それにはほっとする。
昨夜の件はそれで一件落着したが、マリーンはリリアンを激怒させた要因である、私とチャールズの関係を指摘してきた。
私は正直な気持ちをマリーンに打ち明ける。
それを聞いたマリーンは相槌を打つ。
「リリアンの件、チャールズさまにはあなたが話してね」
「……分かったわ」
チャールズには今日の昼食に会う約束をしている。
家族に贈るお土産はめちゃくちゃに壊されたけれど、代金は持ってきた。
リリアンが二か月停学した話を聞いて、チャールズはどんな反応をするんだろう。
私はそれが気になり、午前の授業には集中できなかった。