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あっというまに午前中の授業が終わった。
「マリアンヌ!!」
昼休憩の鐘が鳴り、少し経つと、廊下にいる女生徒の黄色い声が聞こえる。
私は自分の席に座り、チャールズを待った。
チャールズに呼ばれ、私は教室を出る。
「さあ、行こうか」
「はい」
いつもはチャールズと楽しい会話をしながら、美味しいマジル王国の料理を食べられると、気分が上がるのに、今日は昨日出してもらったお金を返すこととリリアンの話をしなきゃいけない。
結局、マリアンヌとクラッセル子爵に渡すお土産は壊されてしまった。
手紙も昨夜の事件で書けていない。
食堂のいつもの部屋に着き、私たちは食べきれないほどに用意されたマジル調理に手を付ける。
どれも美味しいのだけど、気が重い話題をいつチャールズに切り出すか考えながら食べているので、表情が強張っている。
「箸……、ナイフとフォークが進んでいないけど、何かあった?」
「え、あ、そ、そうですね」
話すきっかけが出来た。
私はフォークとナイフを置き、チャールズに向き合う。
どこから話しかけようと考え、私は昨日の出来事を話した。
リリアンが私に馬乗りになり、首を絞めたことも思い出してしまい、全身から血の気が引いたような感覚になる。
私の話を聞き、異変に気付いたチャールズは食事をやめ、席を立ち、私の傍に寄り添ってくれた。
チャールズの骨ばった大きい手が私の頭を優しく撫でてくれる。
「それは……、間接的に俺の責任だ。リリアンに代わって謝ろう……。すまなかった」
「マリーンが助けてくれなかったら―ー、そう思うと体の震えが止まらないんです」
チャールズが婚約者に代わって謝罪してくれた。けれど、彼はそれしかやらない。
誠実に謝ってくれているのだが、私はそれでリリアンも許すほど、心が広くなかった。
私は胸の内に溜まっていたものをチャールズに吐き出す。
「リリアンさまは停学されてますが、学校に戻ってきたら、と考えると……、私、怖いんです」
「俺はマリアンヌを守る。君の味方だ」
「違います! あなたは、この事件の元凶!! リリアンさまの婚約者です。私の味方ではありません」
「……」
チャールズは優しい口調で、『マリアンヌの味方だ』と言ってくれたが、それはただ私の機嫌を戻すだけの言葉だ。
私はチャールズの言葉を否定し、非難した。彼と出会って初めてのことだと思う。
私がそう喚いた途端、チャールズが沈黙した。
「このままの状態でリリアンを学校に戻すのは君の命が危ない」
「え?」
私はうつむいていた顔をあげ、チャールズを見た。
チャールズは唇を引き締め、真剣な表情をしていた。
今まで、私とリリアンのやり取りを傍観していたチャールズはなにを決意したというのか。
「関係を……、白紙に戻そう」
「それは……?」
関係を白紙に戻す。
それは私との関係?
それとも―ー。
「俺は、リリアンと……、タッカード公爵令嬢との婚約を破棄しよう」
チャールズは今日、そう宣言した。
☆
チャールズの発言を聞いた私は、頭が真っ白になり、昼食どころではなくなった。
今回は冗談でもなく、本気のようで、チャールズの傍にいる執事に何らかの指示を送った。きっと、マジル国王にリリアンとの婚約を破棄したい旨を伝えるのだろう。
婚約を破棄する理由はチャールズならいくらでも列挙できるだろう。
そして、メヘロディ王国はマジル王国との繋がりが絶たれる。両国間の国交も荒れ、メヘロディ国内の貿易が一時、崩れるだろう。
(私は、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか……)
だけど、こうでもしないとリリアンの勢いは止まらない。
隣国との婚約を破棄された。それだけでリリアンのトルメン大学校内の権力は失われるだろう。
そして、私の、マリアンヌの嫌がらせは無くなる。
私にとっては好都合だ。
午後の授業を受けるべく、教室へ戻っていた私はぼんやりそんなことを考えていた。
「あ、マリアンヌ」
教室に入るとマリーンが駆け寄る。
「チャールズさまに伝えてくれた?」
「え、ええ」
「それで―ー」
「リリアンさまと……、婚約を破棄すると言っていたわ」
「っ!?」
「私が昨夜の件で怯えていたから、その場しのぎの話かもしれないけれど……」
私はマリーンに肩をガシッと掴まれた。その力は強く、私は彼女の行動に目を丸くする。
祖国の繁栄を脅かす大事件だものね。
怒られるんだろうな……。
「マリアンヌ、良かったわね! おめでとう!!」
「へ?」
「チャールズさまがリリアンさまの婚約を破棄するんだったら、新しいチャールズさまの婚約相手が生まれるってことじゃない!! それはきっと、マリアンヌよ!!」
マリーンに祝福の言葉を貰う。
私はマリーンが『おめでとう』と言った意図が分からず、首を傾げた。
そして、マリーンの話を聞いてはっとした。
(私、とんでもない方向に巻き込まれてる!?)
私は、ただリリアンの虐めをはねつけ、二学年に進級したいだけなのに、とんでもないことに巻き込まれてしまったようだ。