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アリエルの立てた計画とは、あまり目立つことをせず、アラベルとなるべく関わらないようにしたうえで、早めに婚約者を探し嫁ぐかどうにかしてとっととこの屋敷を出ていくことだった。
そもそも父親同士の仲が良かったため、アリエルとエルヴェは婚約することになった。
アラベルがそれに対して不満を言ったことはなかったが、この後アラベルがアリエルを陥れることを考えれば、ずっと不満に思っていたのかもしれない。
ならば、最初からアラベルに婚約者の立場など譲ってしまった方が面倒がない。
そのためにまず一週間後に控えた舞踏会で大人しく過ごし、最初からアラベルにエルヴェと過ごすよう促し裏で嫁ぎ先を見つける必要があった。
朝食後、部屋でゆっくり過ごしているところへメイドから商人が来たと報告を受けたアリエルは、舞踏会で着るはずだったドレスと装飾品をアンナに持たせると、商人が待つ部屋へ向かった。
アンナはアリエルの言うことに従っていたが、ドレスを持たせると少し戸惑ったような顔をしていた。
部屋へ入るとアリエルは商人に向かってこう言った。
「ドレスを見せて欲しいの。できれば露出が少なく地味な色合いのものを探してますわ。お持ちかしら?」
その台詞に商人は驚いた顔をした。なぜなら社交界デビューの年頃の貴族令嬢が目立たないドレスを選ぶのは珍しいことだったからだ。
アリエルは続けて言った。
「このドレス下取りにだしたいんですの。私には必要のないものですから」
それに驚いたアンナは反対した。
「いけません。お嬢様はこのドレスを舞踏会でお召しになることをあんなに楽しみにしていたではありませんか!」
アリエルは苦笑しながら答える。
「気が変わりましたの。それに私にそのドレスは似合いませんわ」
アンナは間髪入れずに答える。
「そんなことはありません! このドレスを着こなせるのはお嬢様しかおりません!!」
「ありがとう、アンナ。でも現実は受け止めなくては」
そう言ってアリエルは商人とドレスの下取り交渉に入った。そして、かなり安いドレスを物色しビクトリア・ネックで肌の露出の少ない黄緑色の地味なドレスを購入することにした。
購入すると言っても、ドレスを下取りしたお金で十分お釣りが出るほどだった。
ついでにその余ったお金でアリエルは宝石を購入することにした。一度目の記憶でこの先サファイアが流行ることを知っていたので、先行投資でサファイアを買うことにしたのだ。
そうしておくことによって、屋敷を追い出されたり屋敷から出ていかなくてはならなくなったときの資金を稼ぐことにしたのだ。
「貴方、サファイアを手に入れることはできるかしら? そんなに大きくなくてもよろしいですわ。でもできるだけたくさん、短期間で欲しいの。これからはサファイアが注目されるから、貴方もサファイアを持っていて損することはありませんわよ?」
そう言うアリエルに作り笑顔を向けると商人は言った。
「お嬢様がそうおっしゃるなら、買い付けはしますが……。全て買い取っていただけますか?」
アリエルは頷いて答えた。
「いいですわ、買い付けたサファイアは私が全て買い取りますわ。貴方も買わずにいてあとで後悔しても知りませんわよ?」
そう言うと、舞踏会に着けていくはずだった装飾品も今まで持っていたドレスも最小限だけ残し、全てその商人に買い取らせた。そして、そのお金でサファイアを仕入れるように申し付けると自室へ戻った。
「お嬢様、どうされたのですか?」
アンナはアリエルに心配そうに言ったが、アリエルは微笑んで返す。
「いずれわかることですわ」
そうして部屋へ戻ると、エルヴェにもらったあのブローチを取り出ししばらく眺めた。
このブローチをもらった時、アリエルは次にエルヴェと会えることをとても楽しみにしていた。きっとエルヴェも同じ気持ちでいてくれていると純粋に信じて疑わなかった。
なぜあんなにも自分本意に考えられたのか、今ならそれが全て独りよがりだったのだとわかっている。なぜならエルヴェはアラベルを選んだのだから。きっと、それは変えられないことなのだろう。
アリエルはブローチをアンナに渡した。
「このブローチ、こっそりアラベルが舞踏会で着ける装飾品に紛れ込ませることはできないかしら?」
「お嬢様?! このブローチはとても大切にしてらした物ではありませんか!!」
「そうね、でももう私には必要ありませんの」
そう言って微笑んだ。
舞踏会でアリエルはエルヴェにエスコートされたのだが、あの時のことは苦々しい記憶として残っている。
アリエルはエルヴェからもらったブローチを胸に、再開に胸を膨らませ広間の入り口でエルヴェを待った。ところがエルヴェはアリエルの前に立つと、ブローチに目を止め不機嫌そうな顔になった。
なぜエルヴェがブローチを見てそんなにも不機嫌な顔をしたのかわからず、アリエルが首を傾げて見つめているとエルヴェはなにも言わずにそっぽを向いた。
そうして広間に出たあとのエルヴェは、エスコートしていたアリエルを放置しアラベルに駆け寄ると、アラベルとずっと過ごしていた。舞踏会でエスコートしている女性を放置するなど、王太子殿下でなければ許されない所業だっただろう。
そうしてエルヴェに手を引かれたアラベルは、申し訳なさそうにアリエルを見ていたが、今考えれば内心はどう思っていたのか。
アリエルは思い出しただけでも胸が締め付けられるような気持ちになった。だが、今のアリエルにそんな感傷に浸っている暇はない。
そんな惨めな思いをしないためにも、それを阻止すべく、最初からエルヴェにはアラベルをエスコートしてもらう必要があったからだ。
「アンナ、お父様に大切な話をしたいと伝えてもらえるかしら?」
「承知しましたお嬢様。旦那様に予定を伺いますね」
朝食の際にフィリップに時間が欲しいと伝えても良かったが、なるべくアラベルにこちらの動きを知られたくはなかったので、予定を訊くのがこのタイミングとなった。