「う、うぅ…ん…?」
剣が目を覚ました。剣の回りには月華、歌留多、ギルト、バイトが寝ていた。絵画に取り込まれた衝撃で気絶してしまったらしい。月弥は既に起きていたようで、剣が起きたことに気づいては剣の方へ振り向いた。
「おはよう。」
にこりと優しく月弥は微笑みかけた。そして剣に近付いて立ち上がらせた。
「……!!」
「意識がうっすらしてただろうし、この辺暗いから気づきにくいだろうけどね。」
剣達がいるのは学校の中のようだった。しかし、自分達は絵画に取り込まれたはず。では一体ここは…?疑問が頭の中を渦巻く中、月弥が口を開く。
「単純な話だけど、ここは絵画の中だ。馬鹿げた話っぽいけど、現実だよ。ほら、見てみな。俺達が見ていたはずの絵画がない。そして、ここはあまりにも綺麗すぎる。普通、美術室って多少汚れは残ってるもんだと思ってる。廃校なら尚更。でもここは違う。剣が起きたのも俺が起きてからわりとすぐだったから剣達が寝てる間に掃除なんて出来ないんだよ。」
言われてみると、月弥の言う通り綺麗すぎるのが分かった。絵の具どころか埃一つも舞っていない。唖然としていると月華達も目を覚ました。
「う”……ここ、は……。」
「うん…??あれ、絵画は……。」
「あれ、寝てた……。」
「っ、頭痛ぇ……。」
「月華君、ギルト君、バイト君、歌留多君…!信じられないかもしれないけど…。」
剣は先程月弥に説明されたことを話した。絵画の中が学校のようになっているのは謎だったが、全員納得したようだった。ここからまた、アヤメとマキネを見つけ出すという新しい目標が出来た。剣は部屋の扉を開けて外の様子を確認した。学校と同じように長い廊下がある。月華達に向き直っては、
「ここは学校みたいではあるけど、内装を全部理解してるわけじゃないし…。ここは分かれて探そう。」
と、提案した。結果、[剣、月華、歌留多]と[月弥、ギルト、バイト]で分かれることになった。
「じゃ、見つけ次第この部屋集合でね。」
月弥のその言葉に全員頷き、それぞれ部屋を後にした。
剣達のチームは、部屋の後ろの扉から出て捜索を始めた。歌留多はアヤメとマキネが無事なのか不安なのかそわそわしている。剣は何か話題をと思いこう言った。
「…アヤメ君とマキネ君、どんな人なの?」
「あー…そういやきちんと説明してなかったな。アヤメは生意気な奴で、マキネは豪快な奴だ。」
「随分簡潔にまとめられるんだな…。」
「まぁな。」
月華の軽い突っ込みに対し歌留多も軽い返事をする。また気まずい沈黙が流れたが、月華が口を開いた。
「そういや、アヤメとマキネ以外にも絵画に取り込まれた奴っているんだよな…?」
「確かに、言われてみればそうだね…。」
「すっかり忘れてたわ、そういやそうだな。」
歌留多があまりにあっさり言うものだから、月華は笑ってしまった。
「おいなんで笑ってんだよ月華。」
「いや、悪い。アヤメとマキネのこと考えすぎてたあまり忘れてたのかってな。」
「アヤメ君とマキネ君のことそれほど大切なんだろうね。」
悪気のない剣の一言で歌留多は一気に顔を赤くした。一気に場の雰囲気が和み、そこからは他愛もない会話を重ねながら捜索を続けた。しかし、一瞬でまた雰囲気が変わった。不気味なくらい人がいない。そろそろアヤメやマキネじゃなくても人1人くらいは見つかってもいいはず。それなのに1人も見当たらない。人が絵画に取り込まれたから歌留多達が廃校に向かって、その結果アヤメとマキネも絵画に取り込まれた。その流れが本当なら今の状況はおかしい。かといって歌留多を疑うにも違和感がある。歌留多の様子を見る限り、嘘ではないのが分かるからだ。3人は立ち止まってしまった。
一方月弥達は不安そうな様子もなく、特に焦ってもいないようだった。むしろそれぞれ冷静に状況を把握している。アヤメやマキネどころか、取り込まれたであろう一般人が見当たらないことに気づいているようだった。
「違和感だらけじゃん。」
ギルトがぼそりと呟いた。バイトも月弥も頷いた。
「多分、剣達もこの状況には気づいている。1回合流するのがいいと思う。」
月弥は来た道を引き返しながらはじめの部屋に戻っていく。ギルトもバイトも無言で着いていった。
「1回合流しよう。」
剣もたった今月弥達と同じ判断をしたようで、月華と歌留多の手をひいた。
「月弥達と状況をもう1回把握しとこ。なんか薄々感じてはいたけど、この学校、裏で誰かが動いてる。」
剣はあえて言ってなかったことを口に出した。月華は
「なるほど…確かに考えられるな。」
と納得したようだった。歌留多は単に見つけられていないだけと思っていたみたいで、剣の一言を聞いて
「なるほどな~…。」
と呟いていた。
「え、凄いな~。剣とかいう子、誰かが裏で動いてるっての察してる。」
にこにこと笑いながら剣達の様子を確認していた人物がいたことを知るのはそう遠くはないだろう。
「あとはそのアヤメとマキネとやらの存在を確認して回収しないとだな……。人形エラのためにも、いっちょやるかぁ。」
彼は地面の中にいる人々を見つめて満足げに笑い、行動に移るのだった。






