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夜中。
ジホは深い眠りの中で、ヒョヌを抱き込んでいた。
ヒョヌは目を開けていた。
眠っているはずのジホの呼吸が、耳元で小さく鳴っている。
(……今しか、ない……)
指先が震える。
この腕を振りほどけば、全部終わるのかもしれない。
けれど何度も何度も、失敗してきた。
(もう……無理だと思ってた……)
だけど、今夜は違う。
テーブルの上に置かれたナイフ。
眠る前にジホが果物を切って、そのままにしていた。
(……今しか……)
ゆっくり、ゆっくり。
息を止めて、ジホの腕をほどいて立ち上がる。
ジホは微かに寝返りを打つ。
その度に、心臓が爆発しそうになる。
ナイフを取った指が汗で滑る。
(ごめん……)
言葉が漏れる。
(でも……俺は……俺でいたい……)
ナイフの刃先が、ジホの喉元に触れた。
寝息が止まった気がした。
ジホの睫毛が震えた。
(……気付かないで……)
祈るように、ゆっくりと刃を押し込む。
ジホの目が開いた瞬間、ヒョヌの目に涙がにじんだ。
「……ヒョ、ヌ……」
小さな声が喉から漏れた。
「ごめん……ごめん……」
ヒョヌの声は震えていた。
ジホの瞳がゆっくりと光を失っていく。
ナイフを落とす音だけが響いた。
部屋の中に血の匂いが広がっていく。
ヒョヌは震える指を自分の頬にあてて、
何度も瞬きをした。
(……やっと……自由……)
それが自由なのか、虚無なのか、もう分からなかった。
窓を開けると、冷たい風が肌を打った。
ヒョヌはただ、誰もいない夜の街へ歩き出した。