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ぁわ
「月夜の晩に、ボタンが一つ。波打際に、落ちてゐた。」
ある朝。
校門をくぐると、柔らかな風が制服の裾を揺らした。
「おはようございます、中原先輩!」
『あら、おはよう』
一年生の元気な挨拶に微笑み返す。
それだけで、緊張していた一年生の表情が明るくなった。
「今日も生徒会ですか?」
『ええ。書類が少し残っていますから。』
そう答えると、「ぅわぁ、やっぱ生徒会って大変なんだぁ」
という声が返ってくる。
この学校で過ごす毎日は穏やかだ。
生徒会長として忙しくはある。けど、それも嫌いじゃない。
先生方は信頼してくれる。
後輩たちは慕ってくれる。
友人たちとは他愛のない話で笑い合う。
そんな、どこにでもある日常。
これが私の生活だ。
昼休み。
屋上で昼食を広げながら、何気なく空を見上げる。
「凪は今日もお弁当?」
『うん。』
「美味しそう。」
『母さんの手作りだから。』
自然と笑みが零れる。
家に帰れば「おかえり」と迎えてくれる人がいる。
それだけで十分幸せ。
その時友達が喋る。
「そういえばね、先週海に行ってきたんだ~♪」
『そうなの』
「この写真見て?めっちゃ綺麗でしょ!」
友達は手早く携帯で撮った写真を見せる
視線の先には、ヨコハマの近くで撮ったという海が映る。
胸が、きゅっと締め付けられた。
『……』
「?凪、どうかした?」
「体調悪いの?」
まただ。
海を見ると、胸が苦しくなる。
懐かしいような。
寂しいような。
そんな感覚だけが心に残る。
理由は分からない。
『いや、大丈夫よ』
分からないまま、私は画面から目を逸らした。
放課後。
『失礼します』
職員室へ書類を届けると、担任の教師が笑顔で迎えてくれた。
「助かるよ、中原さん。」
『いえ』
「君が生徒会長で本当に良かったよ。」
その言葉に、小さく頭を下げる。
期待されることは嬉しい。
誰かの役に立てるなら、それでいい。
そう思っている。
紅かった空が暗くなりながら、家路につく
『ただいま』
あるカフェの扉を開ける。
カラン、と小さなベルが鳴った。
「おかえり、夜凪。」
優しく微笑む女性。
白鷺栞。
私を育ててくれた、大切な母だ。
「今日はどうだった?」
「特に変わりはなかったよ。」
「そう。」
栞は紅茶を差し出しながら、静かに笑う。
「今日のお客様は?」
「恋愛相談が二人、進路相談が一人。」
「全部当たった?」
「占いは未来を決めるものじゃないわ。」
母はカフェを営業する傍ら占い師として商売をしている
栞は少しだけ目を細める。
「未来を選ぶためのお手伝いをするものよ。」
その言葉は、なぜだか心に残った。
夜。
自室の窓を開ける。
夜風が心地よい。
見上げた夜空には、丸い月が静かに浮かんでいた。
『……綺麗ね』
その瞬間。
胸の奥が痛んだ。
理由なんて分からない。
でも。
月を見るたび。
海を見るたび。
私は何かを思い出しそうになる。
『お母さん』
リビングにいた栞へ声を掛ける。
「なに?」
『私……昔はどんな子だった?』
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、栞の表情が揺れた。
けれど、それはすぐにいつもの優しい笑顔へ戻る。
「今と変わらないわ。」
『そうかな』
「ええ。」
私はそれ以上聞かなかった。
聞いてはいけないような気がしたから。
部屋へ戻り、机の引き出しを開ける。
そこには、小さな写真が一枚。
写真には幼い自分とその近くに橙色の髪をした少年が立って笑っている
知らないはずの人。
それなのに。
どうしても忘れられない。
どうしても会わなければいけない気がする。
『……あなたは、一体誰なの』
窓の外では、月が静かに街を照らしていた。
まるで、波打ち際に落ちた小さなボタンを見守るように
本気で書いたの久しぶりで何かいてるか分からなくなりました
改めていいますが、この小説は中原中也さんが書いた詩の
「月夜の浜辺」をもとに書いています
なので時々「ボタン」とか「月」、「海」と言った、
「月夜の浜辺」に関した語句が入ってきます
コメント
9件
**みぅ🤍🥀** 第3話、すごく静かで切ない空気感が伝わってきました……。 海や月を見るたびに胸が締め付けられる夜凪の姿、それに対する栞の一瞬の表情の揺れが、何か隠された過去を感じさせて、すごく気になりました。 写真のオレンジ髪の少年も気になるし、何より「ボタン」というキーワードが、詩とリンクしていてとても綺麗だと思います。 ぁわさん、久しぶりって言ってたけど、全然そんなことなくて、すごく丁寧に書かれてて引き込まれました。続き、楽しみにしてます🌙