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「ふぃ~、良く寝た~……」
「あ、起きたの?」
朝、ムームーが目覚め、ミューゼが困った顔で振り向いた。まだ本日の活動も始まっていないというのに、疲れがにじみ出ている。
パサリ
「ん?」
身を起こしたムームーから、1枚の大きな紙が捲れ落ちた。
「なにこれ、紙? こんなのあったっけ?」
「杖の中に大量に入れてあるからね」
「あ、そーゆー杖なのね」
ミューゼの杖の石部分には、1種類のみという制限で、物を大量に収納する事が出来る。アリエッタと行動する時は、必ず大小様々な紙を大量に入れている。
「だけど、なんでわたしに紙を?」
「あー、お布団代わりみたい。温かかったでしょう?」
「そういえば……」
ムームーが改めて紙を触り、不思議な感触に驚いた。
「なにこれ。温か…気のせい?」
一瞬フワッとした手触りかと思ったら、カサカサとした紙の感触を感じている。
「やっぱり驚くよね。アリエッタが布団の絵を描いたみたいで、夜でも温かかったのよねー」
「はぁ。なるほど?」(そういえば総長が、絵を書いて現実にするって言ってたけど、それかな?)
ムームーとラッチは、一緒に行動するという事で、ネフテリアとピアーニャから、アリエッタについて色々聞いていた。そして、その能力は可能な限り秘密である事、希少な能力なので狙われないよう警戒する事を命じられてる。
「そういえばアリエッタちゃんは……」
「あっちで怒られてるよ」
「え、また?」
昨日に引き続き、またしても怒られているという。指を差されている方を見ると、しゅんと落ち込んだ顔で、料理中のパフィの傍に佇んでいる。
怒られていると言っても、優しく「めっ」と諭されただけで、実はもう終わっている。
「大丈夫? 拗ねたりとかはしない?」
「あの子賢いから、言えば止めてくれるよ。まぁ理由までは教えられていないから、こうして違う事をやらかしちゃうんだけど……」
「え……えっ!?」
ミューゼにつられて同じ方向を見ると、開きっぱなしのドアがあった。ドアだけである。横には壁も何もない。
「なにこれ……」
「アリエッタの絵」
呆れ声での答えと同時に、ドアからピアーニャとバルドルが出てきた。ムームーから見て、ドアの近くには誰もいなかった筈である。
突然現れた2人の存在に、ムームーは困惑した。
「えっ、今……」
「あー、おきたのか。わかる、わかるぞ、そのキモチ」
「こりゃなんつーか、なぁ」
2人とも、明らかに疲れ果てている。
「ミューゼオラ、もうちょっときをつけろよ」
「えぇ、あたしのせいですか……」
「ホゴシャだからな」
「はーい。それ消します?」
「いや、やっちまったモンは仕方ねぇ。有効活用したいところだが」
「サイワイにも、つくったトコロはみられてないからな。わちらがうまくユウドウすればいいだろ」
離れた場所から、そんな様子を見ていたションボリ顔のアリエッタは、頑張って冷静に考えていた。
(やっぱり大人が使うには小さすぎたって事か。でも身長が足りないんだよねぇ。だから昨晩と違ってやさしく怒られたんだろうけど)
やはり残念ながら、怒られた理由は一切伝わっていない。
アリエッタが思考を巡らせている間に、ムームーはドアの事を聞いていた。しかし理解出来ず、しきりに首を傾げている。
「あーとりあえず、ついてこい」
「え、あ……」
説明するより見せた方が早いと考えたピアーニャが、ムームーをつれてドアをくぐった。
その先には、先程と同じ巨大な葉の上。しかし、景色が違っている。
ピアーニャが指差した方向を見てみると……
「…………えええええええっ!?」
遠く離れた場所、なんとか目視できる所に、ミューゼ達がいた。ドアをくぐって一瞬で移動したという事になる。
「えっと、転移の塔の道具でも使いました?」
「そんなわけないだろ。これはアリエッタのチカラだ」
「………………」
「ヒミツにしてほしい、といったリユウはわかったな?」
ムームーは口をあんぐり開けたまま、コクコクと頷いた。驚き過ぎて言葉にならないようだ。
「もしオマエがげんいんで、アリエッタのヒミツがひろまれば、ルイルイにオシオキしてもらわねばならん」
姉の名が出た事で、ムームーは冷や汗をかき、少し涙目になりながら首をフルフルとふった。
「わかっている。そのスガタ……そうとうクロウしているのだろう? そのキモチはイタいほどよくわかるぞ。だからこそ、シンヨウできるとおもったのだ」
「そ、総長も?」
「キョウグウはちがうがな。わちのバアイは、アリエッタがな……ムリヤリな……」
ムームーは思い出していた。子供扱いを嫌がる最年長のピアーニャが、アリエッタによって、普通の3歳児と同じように可愛がられている姿を。
その光景は、自分とは重ならないが、ピアーニャの想いは痛いほど分かる気がした。
「総長!」
「ムームーよ!」
ひしっ
感極まって、2人は抱きしめあった。そこに上司と部下という立場の差は無い。ただ悲痛な想いを理解し合える者達の、熱い友情が芽生えたのだった。
そんな2人の様子を、ラッチがドアから少しだけ顔を出して、可哀想なものを見る目で見ていた。
その頃エルトフェリアでは……。
「なんだか随分張り切っていますわね、ルイルイ」
ノエラがちょっと引き気味に、並べられた服を見ている。
「いやぁ、なんかこう、無性にムームーの着せ替えがしたいなーって気分になってしまって」
「気持ちは分かるけど、程々になさいな」
「はーい」
返事をしつつも、服を作る手を止めようとしないルイルイ。
ムームーが帰ってきたら、とんでもない事になる気しかしない。そう思ったノエラは、
「仕方ないわね。アリエッタちゃんやパフィさん達……あとついでにクリムさんの服も作りましょうか」
特に意味も無く、被害者を最大限に増やす提案をしてしまった。
ぞくっ
「……なんか今寒気がしたのよ?」
パフィが謎の予感に身を震わせ、アリエッタも不安そうな顔でキョロキョロと辺りを見渡している。
横を見ると、ミューゼも身を縮め、不思議そうな顔をしているので、初めてのリージョンだから突風みたいな現象もあるかもしれないと、納得するのだった。
アリエッタも同じように納得し、他の大人達が首を傾げる程仲良くなった2人…ピアーニャとムームーが出てくるドアを見ていた。
(よしよし、こんなに簡単に出来るようになるとは思わなかったよ。どこでもいけるドア。小さい頃よく視てたから、考えが染みついてたんだな)
天気記号を使った魔法のような能力を思い返し、以前ファンタジー思考で魔法陣もどきを使って、杖から魔法…のようなものを撃ち出せた事を思い出したアリエッタは、もしかしたらとエルツァーレマイアに確認していたのだ。
『やりたい事としてじゃなくて、出来る事として、やってみるといいわ』
最初は意味が分からなかったが、精神世界でなんとなく気楽にやってみたら、あっさり出来てしまった。1回成功すれば、それはもうアリエッタにとって完全に『出来る事』となるので、自由自在に操る事が出来てしまう。
つまり、アリエッタは自分流の転移方法を手に入れたのだ。
(問題は、絵は動かせないから、開きっぱなしってのがなぁ……)
開いたドアの絵というのが不服らしく、パフィに撫でられながら、どうにか閉じる事が出来ないか考えるアリエッタ。それで困惑されたり怒られたりするなどとは、思っていない。
(流石にまだ、僕1人じゃ作れないか。うん、大きくなるまで諦めよう)
何か思いついたようだが、今は無理とスッパリ諦めた。
(……それに、もしピンク色のドアにしたら、色々危険な気がする)
まったくである。
「アリエッタお腹空いたのよ? ごはんなのよー」
「ごはんっ」(運ばなきゃ!)
早起きしてお腹が空いていたアリエッタは、パフィに呼ばれて思考をスッパリ切り替えた。家でも料理を運ぶ役を進んでやっているので、パフィが呼ぶだけでトテトテと駆けつけるのだ。
その際、笑顔でやってくるアリエッタを見て、時々パフィの鼻から愛情が漏洩するのはご愛敬。
ラッチの食材もリージョンシーカーから支給され、ピアーニャのグループは仲良く朝食となった。
楽しそうに食べている少女達の姿を、少し離れた所で食事中の男たちのグループが見ている。
「みんな可愛いな……」
「お前ちょっと声かけてこいよ」
「うえっ!? 俺!? いやおめーが行けよぉ」
「オレが声かけて逃げられたらどうすんだよ」
「……バッカみたい」(私もフラウリージェの服を手に入れさえすればっ)
ネフテリアが偶然来れなかったという事もあるが、ピアーニャのグループは全員の出身リージョンが異なっている。様々なリージョンの能力があれば、変わったトラブルへの対処も容易になるのだ。
しかも全員がタイプの違う美女や美少女で、フラウリージェの服を着用しているオシャレさんである。男達だけでなく女達も意識が向くのも無理はない。しかし、ヘタレな男は近づけず、それ以外の男も総長がいるので、やはり近づけないようだ。
「視線が凄いのよ……」
「ほらぁ、パフィが無駄に大きいから」
「それ関係ある?」
(なんか見られてる。手振っとこ)
警戒心の無いアリエッタが手を振ると、デレッとした顔で手を振り返すシーカー達。これで警戒していた大人達も少し安心し、朝食を食べ終えた。
ここでピアーニャが、起きてから考えていた事を、提案した。それは……
「家?」
「うむ」
「私達が建てるのよ?」
「うむ」
『何で!?』
突然の建築だった。もちろんただの思いつきではない。
「いや、コレほっとくワケにはいかんだろ……」
「あ、ドアの絵……」
原因はアリエッタだった。いきなり離れた場所に行くドアを隠す為に、建物を作りたいようだ。
「あの、調査は……」
「コレかくすのがユウセンだ。コイツのフォローもわちらのシゴトだからな」
『うえぇぇぇ……』
「?」
知らぬは本人だけである。
こうして新たなリージョンを調査に来たミューゼ達の本格的な仕事は、建築から始まる事になったのだった。