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「まずはミューゼオラ、ハシラをはやしてくれ」

「あ、そーゆー感じですか」

「うむ、そーゆーカンジだ」


まずはドアの絵を囲う形で、家の柱を立てる。そして柱から枝を生やして、束ねて壁を作る。それがピアーニャの考えた即席の家だった。落ち着いて仕切ってはいるが、ピアーニャも早く調査に向かいたいのだ。

指示を与えられたミューゼは、杖に魔力を込め、ドアから少し離れた場所に狙いを定め、魔法を行使した。


「せーのっ!」

ずもももももっ

『どわあああああ!?』


葉の上に、目の前を覆い尽くす程の、かなり太い木が生えた。後ろで見ていたパフィ達や、離れた場所で作業をしているバルドル達はもちろん驚き、木を生やしたミューゼ自身も驚いて、全力で走って逃げている。


「でかすぎだミューゼオラあああああ!」

「ひええええ!! 待って待って待って知らないですよおおお!!」

「なんでミューゼまで逃げてるの?」

(うおおお! さっすがみゅーぜ!)


パフィに抱えられているアリエッタだけが、目をキラキラさせてミューゼを見ている。

木の巨大化が収まったところで、全員が立ち止まり、恐る恐るたった今生えてきた巨大な木を見た。と思いきや、


ぐらぁっ

「うおああああ!?」

「ちょっ落ちる落ちるうううう!」



魔法で出す時は虚空から出現させる事も可能だが、固定させるには切り離し、設置する必要があるのだ。

そんな巨大な物を置いてしまえば、木の重さによって、足場となっていた巨大な葉が、ぐにゃりと曲がる。

つまり、シーカー達のいる足場は逆さまになり、上にある物は全て落下する事になる。


「くっ、ミューゼオラ! キをけせ!」

「はいぃっ!」


慌てて置いた木をひっこめた。すると、どうなるか。


『たすかっ……え?』


一時的に曲がった葉は、重さを失って元の形に戻ろうとする。安堵する全員を乗せたまま。

それはバネとなり、勢いよく跳ね上がった。

当然乗っている全ての人や物は、その勢いで投げ飛ばされるのである。


『ぎゃあああああああああ!!』




「すみませんでした……」


疲労困憊の面々に囲まれ、ミューゼは正座で謝っていた。

あの後全員が、ピアーニャを始めとする空を飛べるシーカー達に救助され、葉の上は怖いという事で枝の根元へと集合した。ついでに拠点予定地をこの場所に変更した。


「そもそも葉っぱの上に木を生やすって、植物的にどーなのよ」

「魔法にそれ関係ある?」

「ミューゼちゃんよぉ。お前あんなに魔法デカかったっけか?」


顔の怖いバルドルの問いに、ミューゼは頭をブンブン振って、否定する。


「って事ぁ何か? 魔法の暴走か何かか?」

「まてバルドル。やってみたほうがハヤいだろ。ミューゼオラよ、まずキいがいのマホウをつかってみろ」

「は、はい」


ピアーニャに言われ、水の魔法を普段通りに使う。人の頭より少し大きい程度の水球が、飛んでいった。


「フツウだな。つぎはツルをだせ」


続いてピアーニャも見慣れている蔓の魔法。普通に使えば、人の腕2本分程の太さなのだが……


「…………え?」

「太い……」

「大きい」

「凄いのよ」

「お前らちょっと黙っててくんねぇか?」


呟く女性陣に対して、何故か冷や汗をかくバルドル。

目の前には、虚空から現れたのは、直径だけで大人2人分の超極太な蔓だった。

とりあえず魔法を消して、パフィが気を落ちつける為に、大量のお茶を用意した。大きな池一杯分程の量を作る程、気が動転していたようだ。


「はぁ……いきなり疲れたね」

「うん……」


何もしていない筈のラッチとムームーが、ゲッソリとした顔で呟き合う。その横で、同じくようやく落ち着いたピアーニャが、口を開く。


「やはりそのツエ、このリージョンのモノでカクテイだな」

「そうなんですか……でもこのリージョンの事は誰も知らなかったんですよね?」

「うむ。わちもあるヒトから、きいたのだが──」




──しばらく前、ハウドラントに向かった際、夢のリージョンであるドルネフィラーとお茶会をする事になったピアーニャは、宿主かめの出身リージョンについて聞いていた。


「むかーしむかし、草花に興味津々な神がいました」

(あ、これながいハナシだ……)

「その神は、どこまでも成長する木を育てました。それがいつの間にか1つの世界となってしまいました。おしまい」

ゴンッ


身構えた矢先に話が終わってしまい、力の抜けたピアーニャと母親のルミルテは、テーブルに頭をぶつけていた。


「あはははは! 長くなると思った? ねぇねぇ?」

いらぁっ


人をおちょくるドルネフィラーに、母娘は下を向いた状態で顔を思いっきり歪ませていた。


「ま、世界の生まれ方なんて多種多様だからさ。ボクも少ししか知らないし、教える程のものでもないかなーってね」

「いやいや物凄く興味あるわ……」

「うむ……」


他所のリージョンを知るという行為には、歴史を調べることもある。そんな仕事をしているシーカーが、リージョンの誕生について興味を持たないわけがない。

しかし、語りたがりのドルネフィラーが、思いっきり雑に説明したのには訳がある。


「え、そう? じゃあ軽く1億年分程語っていい?」

『ゐちをくっ……』

「だってキミ達の生きてきた場所そのものの生い立ちだよ? 人と同じ年月で育つ訳無いじゃないか。ははは」


軽い口調で神々の歴史の一端を語るドルネフィラー。ピアーニャ達の頭がそのノリに追い付いておらず、口をパクパクさせている。


「私あと1億年も生きていられるかしら……」

「そこは、やすらかにねむろうか」

「ひどいわピアーニャちゃん! 母に死ねだなんて!」

「そんないいかたしてないっ! ヒトとしてむりだから!」


いくらハウドラント人の寿命が長いといっても、1000年を超えて生きる事はそうそう無い。1億年は流石にあり得ない。


「もっと生きられるようになりたいかい?」

「え?」

「そうすれば、あのアリエッタって娘とずっと一緒に──」

「ゼッタイにイヤだ!」


寿命が延びる、それはアリエッタに可愛がられる期間の延長である。たとえ言葉が通じるようになったとしても、いつまでお姉ちゃんポジでいようとするのか、分かったものではない。それはピアーニャが最も恐れている事態である。

お断りの絶叫が、セグリッパ家の屋敷中に響き渡った──




「──きょうはココまでだ」

「いや杖の話は!?」

「なんか、おもいだしたら、きがメイった……」

「ハウドラント人より寿命が長い生物っているんだなぁ」


ドルネフィラーの存在を『謎の亀』としてぼかしながら喋っていたピアーニャは、テンションが極端に下がり、完全にやる気を失った。今度また詳しく話すと言い始める。


「色々気になるんですけど……」

「リージョンの誕生秘話はどうなったんだ?」

「アリエッタちゃんって、寿命長いの?」

「さぁ……ずっと小さくて可愛いままなら大歓迎だけど」


本来の話とは違う所だけしか語っていないのに、気になる話題が多い。

寿命が違う事についても、ピアーニャ達の例があるので、まったく気にしていない様子。むしろ永遠の幼女達の可能性に喜んでさえいる。


(コイツはメガミだから、ドルネフィラーとおなじで、ジュミョウがあるのかもあやしいな……はぁ~)


いつの間にか凹んだ自分に近づいて、頭を撫でてくるアリエッタを見て、心の底からため息を吐くピアーニャ。


(なんかもう、どうでもよくなってきたな)


重症である。


「あーつまり~、ファナリアにおちたこのキのエダでつくったツエだからー、マホウがホンタイのソバでキョウリョクになっているんじゃないかってコトだー」

「さらっと言ったけど、そんな事あるのよ?」

「その前に、さっきの回想の意味は!?」


結局やる気が無くなり、先程話した冒頭部分を無視して、雑に短く話を終わらせてしまった。

リージョンを超えて『落ちてくる』という事象は相当珍しいが、無いわけではない。

そもそも見た事のないリージョンに転移するには、そのリージョンの素材を手に入れ、今の樹木のリージョンにやってきた時のように、素材と魔力で次元を感知し、元となったリージョンに空間を繋げる……というのが、リージョンシーカーが転移の塔で使っている手段である。

なお、別のリージョンに素材が落ちるという現象については、いまだ解明されていない。


「まぁ、エダがシゼンにおちるコトもあるだろ。なぁ?」

「なんで俺の頭を見るんスか、総長……」


中年マッチョのバルドルは、頭を押さえて1歩引いた。


「……そうなのよ?」

「なるほど」

「かわいそう」

「ちょっとまてコラァ! 誰だ可哀想っつったの! まだハゲてねーよ!」


ちょっと危機感があるのか、全力で否定する。しかし、哀れみの視線は他のシーカー達からも飛んでくる。

ワナワナと震えるバルドルだったが、息を吐いて気を落ち着かせ、ピアーニャを睨んだ。


「結局何の話をしたかったのか分からねぇですけど、早ぇトコ拠点の準備済ませましょうぜ。その娘と遊ぶんでしょ?」

「いや、あそばんからな? コイツといっしょにするなよ」

「へいへい。ちびっこは羨ましいぜー」

「ぐぬぬ……」


仕返しに揶揄ってから、近くのシーカー達を連れて、荷物置き場へと向かい、作業を再開しに戻った。

ちなみに、飛ばされた荷物類は、しっかりと回収されている。ワグナージュの探知機で、全ての荷物の場所を特定し、メネギット人やハウドラント人が飛んで拾いに行ったのである。未知のリージョンでは何があるか分からないので、荷物も徹底的に管理されているのだ。


「まぁ、魔法が大きくなるのは、気を付けておけばいいか」


植物魔法の方も、むやみに人の近くで使わなければ問題無いという事で、一旦保留案件となった。


「それじゃ、私達もお仕事なのよ」

「はーい。そういえば、あのドアは……」


結局あまり実りのない話題だった為、微妙な気持ちになりながら作業に戻る面々。

ドアの絵を隠す為に建築しようとしていた事を思い出し、その場所を見た。が、ドアが無い。


「あ、もしかして、葉っぱが跳ねた時に、消えちゃった?」

「おいおい……」


事故によって、いきなり目的が無くなってしまった。

という事は、今から調査に向かうことが出来る、という事である。


「どうするのよ? もう一回アリエッタに描いてもらうのよ?」

「えっ、やめ──」

「アリエッタちゃん、ドア、描く」


変な手間が無くなったという事で、不要だと伝えようとしたピアーニャの声を遮り、別の枝の近くを指差したラッチが、アリエッタに頼んでみた。アリエッタの真似をして、カタコト単語で。


(! 仕事か!)

「まって……」


我、仕事を得たり!と思ったアリエッタは、ピアーニャの制止の声も聞かず、ダッシュでその場所に駆け寄り、筆を振り回した。

結果、あっという間に『開いたドア』が描き上がった。


「ああああ……それがなきゃ、いますぐチョウサにいけたのに……」


調査の障害となる建築作業が結局必要になってしまい、先程は内心残念がっていただけの冷静なピアーニャも、今度こそガックリと膝をついてしまった。

からふるシーカーズ

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