つづき
「……ぉえっ、、……」
嗚咽を繰り返しても、胃の中が空っぽで何も吐けない。感じるのは少しばかりの酒の匂いと、胃酸の味だけ。
気持ち悪い。頭が割れるように痛い。
「……やっぱ、酒なんて飲むもんじゃないな……、」
『あの日』から……、
あの子を拾ったあの日から。しばらく飲んでいなかったからか、やけに深酔いしてしまった。
それもこれも、サークルの先輩に……。
「おい三枝ぁ〜、最近顔見せねぇじゃん?」
「あ……えと、お久しぶりです。」
強引に肩を組まれ、距離を詰められる。
正直、早いところ退散したい。この人と関わってもろくなことがない。
あの日だって、この人に飲みに誘われなければ、彼に出会うこともなかったのに……。
「知ってるぜ、お前が失恋したんだって、みんな噂にしてる。」
こんな陰キャの失恋話でさえ話題になるのだから、みんな相当暇なのかな。
そもそもどこからそんな話が湧いてくるんだ、タチが悪い。
「……あはは、誰情報っすかそれ……、」
「誤魔化すなよぉ、な?俺が慰めてやるからさぁ〜〜。」
余計なお世話だ。
たいして関係値もないくせに、他人の不幸には面白がって干渉したがる。
今の俺には、そんな廃れた思考にしか至れない。
もっとも、今じゃなくとも、この先輩が真摯になって話を聞いてくれるとは思っていないが。
話す気なんて更々無いけど。
「そんなくだらない女のことなんて忘れてさぁ、今夜合コン行こうぜ。」
「……いやぁ、今はそういう気分じゃ……、」
「だからこそ飲むんだろーが、あのなぁ、せっかく先輩の俺が……、、」
と、その後もよく分からない理屈を並べられ、しつこく誘われたが、渋い返事しか返さない俺にとうとう痺れを切らしたのだろうか。
いきなり肩をぐっと掴まれ、
「お前さ、綺麗事ばっか並べてるけどよぉ、」
「……今頃その女だって、他の男ので気持ちよくなってるって……w」
耳元で、下品な声で、そう小さく囁かれた。
……ごもっとも。あの子なら、今頃はもう違う男と楽しんでるだろうよ。
所詮俺は、一晩で捨てられた可哀想な奴。そんなの自分がいちばんよくわかってる。
きっとこの人は、断っても誘い続けるだろう。なんだかもう面倒くさい。
「……そっすね……、何時からですか、合コン。」
「そうこなくちゃな〜!お前連れてくと評判良いんだよ、助かるぜ〜!!」
は、それが本音かよ……。
なんて、ヤケになって誘いに乗らなければよかった。
例の如く散々飲まされ、解散後は一切土地勘もない街にポイ、だ。
「……ぅ、」
服に染みついた、甘ったるい香水の匂い。それがまた吐き気を催す。
合コンに来ていた女の人たちの目には、俺は可愛い男の子と映ったようで。
撫でられたり、物を食べさせられたり……所謂、あーんってやつ……、完全に犬扱いだ。
普通の男なら、そんな状況は楽しくて仕方がないだろう。
だけど俺には、なんの魅力も感じられなかった。
忘れられるなら、それで良いと思った。
でも脳をよぎるのは、全てあの子のことばかり。
あの子ならもっと、花が咲くように優しく微笑んで、ふわっと香るような懐かしい匂いに包まれていて。
時折、恐ろしいほどに美しい、哀しい瞳でこちらを覗くんだ。
俺はそんな君から、目が離せなかった。
虚しい、虚しい。
そんなこと考えても虚しいだけ。
何度も自分に言い聞かせたじゃないか、俺は捨てられたんだって。
元々あの子は、ちょっとした遊び相手が欲しかっただけなんだって。
派手に振られた俺は、その後良い出会いもなくセカンド童貞拗らせ……って、男同士だったからまだ童貞卒業してないのか……、
(……なーんて、、)
「はぁーーーーーー……、」
疲れた。考えるのも、酔いの回った足取りで歩くのも。
バサッ
とうとう我慢できず、その場に倒れ込んでしまった。
が、不思議と痛くない。
どうやらそこはゴミ捨て場のようで、薄目を開けて横を見ると、周囲はゴミ袋で溢れていた。
幸というべきか不幸というべきか。
「そういえば、初めあの子に会ったのもゴミ捨て場だったっけ……、」
実に皮肉だ。
案外寝心地は悪くない。ここでならのたれ死んでも良いかな。
はは、笑える。
ぼんやりとした目で夜空を見上げる。頭上をいっぱいに埋め尽くした万点に光る星々は、愚かな俺を嘲笑うかのようだ。
その星に囲まれて、ぽっかりと大きな満月が浮かんでいた。
「……あぁ、そっか。」
「ネオンの光で気が付かなかったけど、今日は月が綺麗だったんだな……。」
このまま静かに目を閉じれば、ずっと夢の中にいられる。そんな気がする。
「……、」
おやすみ。
to be continue…
コメント
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涙で前が見えないんですけどどうしたらいいんでしょうか?
ストーリー構成と文才が限界突破している…