テラーノベル
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ミューゼのベッドで気持ち良く眠っていたアリエッタは、部屋の外から聞こえる笑い声で目を覚ました。
「ん〜……」(あ、寝てたんだっけ……それにしても誰だ? クリムと……聞き覚えのある男性の声……)
起き上がって辺りを見渡したアリエッタは、ミューゼの部屋である事を理解し、ベッドから降りる。
(久しぶりに色も塗れたし、満足したら凄く眠くなったんだった。あっちの箱に入れたから、たぶんもう見てると思うけど……喜んでくれたかなぁ)
本当は手渡ししたかったが、目を開けていられなかったアリエッタ。あの絵で大騒ぎになったとは、思ってもいなかった。
笑い声のする部屋の外へ出ると、見知った顔がうずくまっている。
(くりむと……ぴあーにゃのお父さん? なんでここに?)
なんとロンデルの事を、ピアーニャの父親だと思っていた。
ロンデルが近づくアリエッタに気付き、笑顔でリビングの方を指差す。
(もしかして、来てるの?)
まだちょっとボーっとしたままリビングの中を見ると、プリプリ怒っている小さな女の子の頭が見えた。
「ぴあーにゃ?」
一瞬震えたピアーニャが、恐る恐る振り向く。
「あ……あぁ…えっと……」
「起きたのね、アリエッタ」
しどろもどろになるピアーニャの元に、アリエッタが近づき、元気に挨拶。
「ぴあーにゃおはよっ!」
「を…をぅ……」
アリエッタによって、地味に苦手意識が芽生えていたピアーニャは、ビクビクしながら返事をした。
そして当たり前の様に、ピアーニャの隣に座るアリエッタ。そして頭を撫で始める。
「うぐぅ……なぜコドモあつかいするのだ……」
「見た目は大事なのよ」
「だよねー」
一旦ピアーニャの事をアリエッタに任せ、パフィは戻ってきたロンデルに問いかけた。
「他に話は無いのよ?」
「ええ、レウルーラの森の安全が確認出来次第、また連絡します。……それでですね……先程見た物は何だったのでしょうか……?」
用件を終えたロンデルは、アリエッタの絵の話を持ち出した。
報告をした時に絵の事は伝えていたのだが、実物を見るのは初めてだったピアーニャとロンデル。
しかも当時の報告でも無かった『色』が追加されていた為、何がどうなっているのか想像すら出来ていなかった。
絵というものが発展していないこのファナリアでは、色は染めることはあっても、描くという考えには至っていないのである。
「それじゃあ、アリエッタもいることだし、ちゃんと見せるのよ」
再び箱をテーブルへと持ち出し、見せても怒られないかアリエッタの顔色を伺いながら、蓋に手をかけた。
元々ミューゼの為に描いた絵だったので、アリエッタもニコニコしながら箱を見ている。
安心したパフィは、そっと蓋を取った。
「………………」
「………………」
今度はしっかり言葉を失う2人。
その反応を見てなんとなく満足したミューゼは、箱から全ての絵を取り出した。
「総長、副総長。これはアリエッタの描いた絵なんです。凄いでしょう?」
まるで我が子の様に自慢するミューゼ。
その時、おもむろにアリエッタが立ち上がり、先程描きあげたミューゼの似顔絵を手に取って……ミューゼに差し出した。
「あら、いいの? こんな凄い絵……」
なんとなく貰えるかもと考えていたミューゼだったが、いざその瞬間になると、ちょっと声が震えている。
「みゅーぜ……」(いつも面倒見てくれているお礼…これくらいしか出来ないけど、受け取ってほしいな)
真剣なアリエッタから恐る恐る絵を受け取ると、その瞬間感極まって、アリエッタを抱きしめた。そしてすかさずほっぺにチュー。
「ひゃわっ!?」
「アリエッタ~! ありがとー! 大事にするよー!」
(みんなの前でちゅーされた! 思いっきりちゅーされた!)
照れまくるアリエッタを膝に乗せて、ピアーニャの隣に座ると、絵をみんなに見せた。
「この絵は昼過ぎにアリエッタが描いてくれたんです」
「絵を描くとは聞いていましたが、まさかこれほどのものとは……」
「ホント何度見ても凄いし」
「次描かれるのは、きっと私なのよ」
何故かパフィが自慢気にしている。
今まで見た事も無い色のついた絵に、ピアーニャもロンデルも目が釘付けになっている。
「これはもはやマホウだな……どうやってカミをそめたのだ?」
「うーん、私にもサッパリ分からないんだけど……アリエッタに渡してあるのは炭筆だけしかないんです」
「タンピツでだと?」
「それは不可思議ですね……黒以外の炭筆でもありましたか?」
「普通の黒い炭筆なのよ。だから2人が来るまでみんなで考えてたのよ」
全員が深刻な顔で考え始め、様々な意見を出し合う。
そんな光景を、アリエッタが不思議そうに眺めていた。
「みゅーぜ?」(どうしたんだろう、絵が気に入らなかったのかな?)
「あ、ごめんね。みんなでアリエッタの事話してたのよー。そろそろ夕方だし、ごはん作らないとね」
「それだったらボクがやるし」
「それでは我々は──」
「折角だから2人も食べていくのよ。高級なのご馳走になったお返しなのよ」
パフィは例の野菜を持ってきて、ロンデルに説明しながら料理をしていく。
クリムは慣れた手つきでキッチンを使い、次々と調理していった。
「ドウキョしているみたいだな……キャクではなかったのか」
「一緒に住んでないってだけで、パフィとクリムは同じラスィーテ出身ですから。近所だし仲がいいんです」
そんな世間話をしているが、ピアーニャはアリエッタにいいようにされているのを、考えないようにしているだけである。
そのまま料理がリビングへと運ばれてきて、みんなでお姉ちゃんが妹に一生懸命食べさせるという光景をニヤニヤしながら眺めるという、約1名以外はとても楽しい食事となった。
「もういやだぁ~~~!!」
(おぉ~、こんなに叫ぶくらい美味しく食べてくれた! んふふ~♪)
そんな楽しい食事が終われば、ピアーニャ念願の帰宅である。
手を繋いでいるアリエッタが、心配そうに顔を覗き込んでいる。
「ぴあーにゃ、ぴあーにゃ」(気をつけて帰るんだよ?)
「は、はやくかえるぞロンデル!」
「え? ピアーニャちゃんはお泊りしたいのですか?」
「やめろおぉぉぉ!!」
もうこの家は、ピアーニャにとっては地獄でしかなかった。
慌ててロンデルに駆け寄り、ポカポカ殴り始める。どうやらアリエッタの前では乱暴にしづらいようである…教育的な意味で。
「総長、森に行くときはアリエッタをよろしくなのよ。2人でくるまる為の毛布は持って行くのよ」
「ヒィッ!?」
パフィの恐るべき気遣いに、顔面蒼白で振り返った。
そして……そのままロンデルに引っ張られて、支部へと帰って行ったのだった。
「ぴあーにゃ?」(なんだか寂しそうだったな……帰りたくなかったのかな? 今度一緒に寝てあげようかな?)
意思が通じないどころか、完璧なまでに望みとは真逆の方向へと進んで行くピアーニャの運命。
果たして幼女の精神は持つのだろうか。
組合へと戻ってきたピアーニャは、ソファに転がってグッタリしていた。
どうやら既に限界のようである。
「総長。本部に任せていた命名が終わったようです」
「そうかー……てきとーにきかせてくれー」
だらけきったピアーニャを見て苦笑したロンデルは、淡々と報告書を読んでいった。
「赤い生物の名は『レデルザード』になりました」
「レデルザードか……むだにカッコイイなまえがついたな」
「気の抜けた名前よりは警戒しやすくていいですね」
新たな大地や生物に名前を付けて、人々に分かりやすくするのも、リージョンシーカーという組織の役目である。
特に物や場所の名前には発見者の名前も使われる事が多い為、それを目標に仕事をする者も少なくはない。
「たしか『レウルーラのもり』はレウスとルーラのふたりがハッケンしたからだったな」
「ずいぶん後回しにされていましたが、発見した本人達は照れながら大喜びだったようですよ。それと、グラウレスタの塔の再建が決まりました。周囲の安全が確認されたようです」
「そうか。シュッパツがちかくなったかー……」
アリエッタと一緒に出掛ける事を思い、頭を抱えて枕に顔を埋める。そんな総長を見て、ロンデルは悪い笑みを浮かべていた。
そして数日後……。
外出用に新しく買った服に着替えたアリエッタ。その隣には物凄い不機嫌なピアーニャがいる。
「やっぱりこうなるのか……」
安全確認がされたグラウレスタの、レウルーラの森へ行く為に、一同は町の隅にある塔へとやってきた。
あまり大人数だと森で動きにくいのと、アリエッタの家にいくという理由がある為、森に向かうのは当初の5人だけである。
「さて参りましょうか」
「いつでもいいのよ」
「ええい、はやくおわらせるぞ!」
(んふふー、ぴあーにゃとおでかけだ。危ない事があったら僕が守ってあげないと!)
可愛い妹分を守る為、アリエッタの心は熱く燃え滾っていた。
(でもここ前にも見た事があるような……)
アリエッタが周りをキョロキョロと見渡していると、ロンデルが兵士に合図をして、装置に魔力を込め始める。次の瞬間、一同は光に包まれた。
「ひにぇああああああ!?」
アリエッタの悲鳴ごと……。
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