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「っ、なにか不具合でもありましたか?」
運転手を見ると、運転手は前を向いたまま。
ハンドルを握り締めて体を硬くしていた。
その理由はすぐにわかった。車の前方。大通りのその先、そこに大聖病院があった。
低い建物が多い中、大聖病院は三階建てのビルディング仕様。街の中央病院を担っている。
そのドーム型の屋根の上に、ひときわ闇が濃く。
屋根全体に覆い被さる夜の|塊《かたまり》のような、大きな物体があった。
目を凝らしてなんだと思うと、建物の下から光がチラチラと空に向かって手を振るように、照らされているのに気が付いた。
その光の正体は、警察特製の特大の照明器具だと思った。
その光がカッと一点に集中した。
集中した場所は病院のドーム型の屋根の上。
一際濃い、黒い|塊《かたまり》が光によってクッキリと闇夜に浮かび上がった。
「黒い塊なんかじゃない。あれは土蜘蛛……! 病院の屋根の上に乗っているのかっ」
まるで笑えない悪夢のようだった。
「ひぃっ。な、なんと巨大なっ」
運転手の怯えた声と同時にこの大通りに、わらわらと逃げ惑う人がどっと押し寄せて来た。
よくも悪くも、照明器具で土蜘蛛の姿が闇夜に浮かび、混乱に拍車が掛かった気がした。
まるで昔見た、恐竜が街に襲って来た絵本のよう。
そんな光景に車の中に居ても、街の人々達の不安が押し寄せてくるようだった。
「車で行けるのはここまでのようですね。あとは|徒歩《かち》で現場まで行きます。後方にもそう伝えてください」
素早く伝えて運転手の返事が「はいっ」と返ってきたのと同時に、車の外へと飛び出す。
外は夜だというのに、蜂の巣を突いたような騒がしさだった。
そんな人混みのなか、人の波をかき分けて病院へと走り出す。
俺の足ならば五分もあれば着くが、人の波に逆らって走っているのでもう少し掛かると判断した。
人々が逃げ惑い「化け物が来るぞ!」「いやぁっ」などと悲鳴があちこちに起こってはいるが、道なりには誘導する警官達がしっかりと立って、携帯電灯を必死に振り回して|警鐘《けいしょう》を響かせて居た。
「誘導もまずまずだな」
これなら問題ないだろうと、足を進める。
喧騒の中、意識を研ぎ澄ませていく。街の騒音を意識から外へと追いやる。
視線の奥には屋根の上でモゾモゾと動く土蜘蛛の姿。
目視確認。およそ体長は十メートルほど。高さは三メートルあるかないか。大きさから言って本体に違いない。よく見ると、その輪郭には|薄靄《うすもや》の紫色の霞がかかっていた。
「もう瘴気を放っているのか。厄介だな」
この距離から地水火風の特級の術や、黒洞を撃てなくはない。
しかし、夜に加えて土蜘蛛がいる場所は病院。
その場に居る人達を巻き込みかねない。やはり現場についてから即祓う。倒すに限る。
その為に神経を集中し、整える。
土蜘蛛を睨み付けながら全力で前進するのだった。