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結構長く考え込んでいたので、善悪とオルクスは揃って、なげーよ…… 早く戦えよ…… 飽きちゃったよ…… とか思ってしまっていたが、優しいオルクスはそれを口にはしなかった。
その優しさに気付くことも無くコユキは卑怯にも、アクセルを左右に使用して姿を消し、音も無くモラクスの背後に忍び寄って行った。
手に持つかぎ棒が、ギラリと残虐な光りを放ち、コユキの冷酷な殺意を映した様であった。
客観的に見れば完全に悪役であったが、そんな悪そうなヤツが簡単に目的を達するなんて事は、フラグ神様が許さないのは世の常である。
もうすぐかぎ棒が届くぞ、いひひ、と思っていたコユキの顔面に、鞭(むち)で叩かれた様な衝撃が走る。
『尾肉強打(テール・アタック)! からのぉー、肋肉跳打(ジャンピングカルビアタック)!』
ぎゅ――――んと伸びたモラクスの尾が鞭のようにしなりコユキの顔面を襲ったのであった。
「痛っ! くっ、ヤバっ!」
痛みに顔をしかめたコユキに向けて、大地を蹴って上空に飛びあがったモラクスは、周囲の小球体を自分の腹部に纏(まと)わせると、腹ばいの姿勢で上から降ってくる!
その一連の動きを見ていた、コユキの体は実に自然に動いた。
この一週間、食事の度に善悪に繰り返し見させられた、プロレス映像の中でこれと同じ状況を何度と無く目撃していたからであった。
ヒールレスラーがエプロンから勢い良く飛び上がって、ジャンピング・ボディ・アタックをお見舞いしようとし、それをリング上でギリギリまで引き付けてからヒラリとかわすベビーフェイスレスラー……
プロレスにあまり興味の無かったコユキであっても、その小気味良い連携(?)技と、人間より柔らかい筈(はず)のマットの衝撃を過剰に痛がるヒールの演技力には舌を巻いた物であった。
ゆえに、ギリギリまで引き付けてから、
……ゴロリ
あえてスキルでは無く、真横に転がって避ける醍醐味(だいごみ)を味わうのであった。
ビタ――――ンッ!
と腹から地面に叩きつけられたモラクス。
落下の破壊力は凄まじかったらしく、地面がすり鉢上に抉(えぐ)れているのが見えた。
そぉ~っと覗き込んだコユキの目に飛び込んで来たのは、蹄(ひづめ)の足ではやはり立ち難かったのだろう、両足を左右に大きく広げて、僅(わず)かにプルプル震えているモラクスの姿であった。
――――ぷふっ! 生まれたての子牛みたいね、あ! あながち間違いじゃないのか?
『突角長槍(ロングホーンランス)!』
思わず気を抜いたコユキの隙を見逃さず、繰り出された双角は一ミリの狂いも無く、コユキの胸板を貫かんと目にも止まらぬ速さで迫った。
『イペラスピツォ』『エクス・ダブル』
善悪のスキルが衝突の衝撃を吸収し、オルクスのスキルによるあらゆる攻撃を無効化するバリアがコユキの周りに展開し、ロングホーンランスの軌道をずらした。
プルプルしながら何とか耐えていた状態のモラクスは前のめりに倒れ込み、クレーターの底でうつ伏せに倒れ込み、全身をふるふるさせている。
コユキの目がキラリッと光った。
――――今だっ!
うろ覚えの技名を、体重移動の応用を利用しつつ、その身を遥か上空へと躍らせながら口にした。
「乳当陰部自宅警備員(ブラインブニート)、脱気(ゲップ)!」
間違っていた。
が、言葉に宿る霊力はここでホンの僅か(わずか)な奇跡を起こした。
古来、日本人はあらゆる物に神の存在を感じ取り、自然や現象をまで信仰の対象として、崇(あが)め奉(たてまつ)る、独自のアニマズムを育んで来た。
そう言った、万物信仰の中でも、一種独特な物が、言葉の力に対する信仰、所謂(いわゆる)、言霊(ことだま)文化ってやつだ。
そんな事言っちゃ縁起が悪いよ、ポジティブな発言や発想をしていれば良い結果に繋がるよ、簡単に言えばそう言うものだ。
日本人は、あらゆる自然物、自然現象を強き王者、画期的な技術、渡来した神仏と同じ様に、言葉や文字といった意思を伝え伝えられる物にも価値を見出したのである。
恐らくこれは、言葉という曖昧(あいまい)な概念が発生する以前から、日本人がこういったコミュニケーションツールが、『有ったら良いな~』と思っていた事の証左(しょうさ)だと類推するのは荒唐無稽(こうとうむけい)とは言え無い文化的な特性なのでは無いだろうか?
(※あくまでも観察者の私見です)
勝負下着のブラのみ着用し、陰部丸出し、ニートがアヴォイダンスの応用による飛翔、頂点に達した瞬間、一転下方へ向けて強引に加速を嵩増し(かさまし)させるアクセル使用の急速落下。
周囲で見守っていた明と組合員の二人には、ちょっとした天体衝突(メテオインパクト)に感じられるほどだった。
一方、お星様になった我らの太っちょミーティアは、自らの両膝をモラクスの背中の中央に抉(えぐ)り込ませたまま、衝撃によって齎(もたら)されたのであろう、
「……ゲェ――――ップ!」
と勢い良く曖気(あいき)、所謂(いわゆる)げっぷを漏らしてしまっていた。
げに恐ろしきは言霊(ことだま)のパワー、言い間違えの技名を強引にピッタリのネーミングに合わせてしまったのである。