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#ダンジョン配信
百鬼清風
1,660
#料理
Yさん。
47
やがて、広場の奥から音楽が聞こえてきた。
天音にハンバーグ串を渡して顔を上げると、ステージにミルキーラビットのメンバーが並んでいる。白を基調にした衣装に、色違いのリボン。紬のリボンは淡い水色だ。隣の莉音や後ろのメンバーと一緒に手を振り、マイクを持ち上げた。
「みなさーん、楽しんでますかー?」
前に集まった人たちが、大きく手を振った。
紬の声は、いつもより高い。
「後ろの皆さんも、一緒に楽しんでいってくださいね!」
紬が屋台の並ぶほうへ大きく手を振る。客の頭越しでも、白い衣装と銀色の髪はよく見えた。
「こっちも楽しんでるよー」
天音が小さく手を振り返し、すぐに次の紙皿を取った。
曲が始まると、紬と莉音が前へ出る。後ろのメンバーは左右へ広がり、音楽に合わせて一斉に腕を上げた。
紬が一歩踏み出して歌う。さっきの呼びかけよりも伸びのある声が、屋台まで届いた。くるりと回っても次の歌い出しには遅れず、隣へ来た莉音の高い声に歌声を重ねる。
この曲は覚えている。店でスマホを覗いた時も、二人が真ん中で歌っていた。
目の前で見ると、こんなに広い範囲を動いていたのかと思う。紬が端まで行って客に手を振る間に、別のメンバーが中央へ出て歌い継いだ。紬は後ろを回り、次の振り付けでまた莉音の隣へ戻る。ぶつかりもせず、よく入れ替われるものだ。
「晃一さん、たれ」
「おう」
眞子に呼ばれて、刷毛を取った。目の前の串にたれを塗り、天音の紙皿に移す。
次の分を鉄板に並べる間も、紬たちの歌は聞こえていた。俺が顔を上げた時には、全員が横一列になっている。
「一緒に、手を振ってねー!」
紬がマイクを持っていないほうの手を頭の上へ伸ばした。観客も同じように手を上げ、左右に振る。前にいた人だけでなく、芝生に座っていた人たちまで立ち上がった。
サビに入ると、メンバー全員の声が重なった。紬は白いブーツで軽く跳び、着地と同時に莉音に向き直る。二人が顔を見合わせ、客席のほうを向くと、ひときわ大きな声が上がった。
俺も、次はどっちへ動くんだろうと見てしまう。
「晃一さん、今の分はあたしがやるよ」
眞子が、俺の置いた刷毛を取った。
「見てていいのか」
「うん。たれを塗って、こっちに出すんだろ」
眞子は中まで温めた串を仕上げ、天音が差し出した皿に移していく。俺は礼を言って、テントの端へ少し寄った。
ステージがさっきよりよく見える。紬は左右の客に交互に手を振り、前へ戻ってきた。昨日、俺に串の厚さを聞いていたのと同じ女の子なのに、ここでは少しも迷う様子がない。
ほかのメンバーが後ろで踊る中、紬がひとりで歌い始めた。客の掛け声がやみ、伸ばした歌声が最後まで聞こえてくる。歌い終えた紬がマイクを下げると、今度は莉音が歌を引き継いだ。
紬はその間も踊っている。すれ違うメンバーと手を合わせ、くるりと向きを変える。短いスカートの裾が広がり、銀色の飾りが日差しを受けて光った。
息をつく暇なんて、ほとんどなさそうだ。それでも次にマイクを上げた時には、さっきと同じ明るい声が出る。
俺なら、途中から歌どころじゃないな。
最後のサビで、紬と莉音が中央に並んだ。左右のメンバーも腕を伸ばし、全員で前へ踏み出す。観客は音楽に合わせて手を叩き、曲が終わると大きな拍手と歓声で応えた。
紬たちは揃って頭を下げる。紬は顔を上げ、マイクに口を寄せた。
「ありがとうございます! このあとも、お祭りを楽しんでいってくださいね!」
メンバーが順に舞台の袖へ引き揚げていく。紬は最後まで手を振り、莉音と一緒に袖へ消えた。
俺も拍手をして、焼き台へ戻る。眞子がちょうど、次の串を並べ終えたところだった。
「ありがとうな。代わるよ」
「紬、見えた?」
「ああ。すごいな、あいつ」
眞子が笑って、刷毛を台に戻した。
今夜は紬に、ちゃんと見たと言ってやれる。
◇
公演が終わっても、屋台には次々と客が来た。
俺たちは交替で休憩し、腹に何か入れ、水を飲んでから焼き台へ戻る。午後になると、一度買った人が、今度は友達を連れてきた。
「さっき食べたの、ここ。三本お願いします」
「こちら、四本です」
里沙が注文を確認し、天音が紙皿を二枚並べた。
「晃一さん、三本と四本。別々で」
「三本、先にできるぞ」
俺が皿に取ると、天音はどの客の分かを里沙に確かめ、会計を終えた三人連れに渡した。彩希は次に焼けた四本を紙皿にのせて受け渡し口へ運ぶ。里沙が代金を受け取り、彩希が客に皿を渡した。
夕方近く、眞子が冷蔵庫から次の容器を取り出し、空になった鉄板に串を並べた。
「晃一さん、これで最後」
「ずいぶん焼いたな」
「あたし、帰ってからも肉を裏返しそう」
夜も食うんだから、もう少し付き合ってくれ。
最後の串も中まで温め、たれを塗った。目の前で待っていた客に一本ずつ渡すと、天音が空の容器を逆さにして俺に見せる。
「おしまい!」
里沙が注文数を記したメモと残った紙皿を確かめ、俺たちを見た。
「販売分、全部売れました」
「全部……」
仕込んだ時も多いと思ったが、全部、祭りの客が食ったのか。
後は、打ち上げ用だけだ。
売り切れの札を出すと、眞子が両腕を上げた。
「売れたー!」
「まこちゃん、トングは置いてからね」
眞子は天音に言われてトングを台に置く。それから、もう一度両腕を上げた。彩希までつられて両手を上げ、里沙が声を上げて笑った。
「お疲れさん。夜は、みんなで食うぞ。彩希も来な」
「私も、いいんですか」
「皿を運んでくれただろ。腹減ったろう」
「はい。あの、すごく」
彩希は少し照れて腹を押さえた。
眞子が俺に向き直る。
「打ち上げの分、ちゃんとあるよな?」
「昨日、分けただろ」
「確認。全部売ったって聞いたら、ちょっと不安になった」
火を止め、焼き台が冷めるまでの間に私物を箱に詰めた。彩希は鞄を取り、里沙は売上金をしまう。俺と眞子で焼き台の汚れを拭き取った。運営の人に確かめてもらい、地上の冷蔵庫と一緒に返す。
皿やトング、保冷箱は台車に積んだ。朝と同じリフトで地下へ戻り、共同搬入口でも、空になった冷蔵庫を確認してもらって返却する。残ったのは、打ち上げ用の串を入れたクーラーボックスだけだ。
眞子が神崎屋へ向かって台車を押し、天音と彩希が両側を歩く。
里沙は俺の隣でエプロンを畳んでいた。
「紬、きっと悔しがりますね」
「売れたって言えば喜ぶんじゃないか?」
「それと、手伝いたかったのとは別なんです」
女の子の気持ちは難しい。
とりあえず、紬の分も熱い串を出してやろう。
コメント
1件
いやー、今回も良かった!紬のステージパフォーマンス、晃一くんの視点から見てるからこそ「すげえな」って思えるんだよな。店番しながらちらちら見ちゃう気持ち、分かりすぎる。最後に屋台も完売で、打ち上げの串を用意してる晃一くんの優しさにじんときたわ。紬の分も熱いの出してやろうって、そういうところよ🔥