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寒い。
とにかく寒い。
ハッ!
目を見開いたこはるは、身体の芯まで凍りつくような寒さに、思わず肩を振るわせた。
目の前には………
「あけましておめでとう〜」「今年もよろしくね〜」
「えーおみくじ大吉じゃん!いいなぁ〜」
たくさんの人達がワイワイ楽しそうに過ごしていた。
そんな中、あまりの寒さに手を息で温めながら、周りの状況を確認するこはる。
(ここは………神社……かな?)
(えっと、確か初詣だっけ?新しい年を楽しく迎えられますようにって、みんなが神様にお願いをしにくる……だったかな?)
(それにしても………)
つい先程の出来事を思い出してため息をするこはる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【月ノ城】
『さて、もう間も無く時間じゃ。準備は良いか?』
帝釈天は杖を構えた。
「はい!大丈夫です!」
ようやく雪斗に会える。その想いから、今にもビンキーをしそうなのだろう。足元がソワソワしている。
その様子を見て、ついつい呆れながらも笑みが溢れる帝釈天。
『今のお主を見ておると雪斗とやらに会ったときにどうなるか不安で仕方ないのぉ』
「大丈夫ですよ!私がはるだって言ってはいけない……約束はちゃんと覚えてます!」
『うむ、それならよい』
天真爛漫のように見えて、大切なことはしっかりと覚えている。
この3年間一緒に過ごし、意外と要領が良かったことを思い出した帝釈天。転生のための条件の一つを忘れていなかったことに安堵した。
『向こうで必要な最低限の知識は、お主の頭にすでに入れてある。必要な時に出てくるはずじゃ。』
そう言いながら、帝釈天は手元の杖の持ち手についたボタンを押した。
ポチッ
『主の願いが叶うことを、しかと願っておるぞ』
「……ポチッ?」
その瞬間こはるは後ろに気配を感じた。
振り向くとそこには竹刀をもったAI天ちゃんならぬ、自動魂魄選定機が。
「え?」
一瞬の静寂。
スパーーーーン!!!
視界が真っ白に弾ける。
何も聞こえなくなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(雪斗くんのいる地上にこれて嬉しいんだけど……)
(なんかもっとこう……転生!!って感じのかっこいいものかと思ったのに……)
(まさか天ちゃんロボに叩かれるなんて……)
こはるは空に輝く月を恨めしそうに眺めた。
しかし帝釈天の言った通り、
この神社がどこの神社なのか――
そして、自分の帰るべき家が何処にあるのか――
その情報が、自然と頭に浮かんでくる。
知らない知識が湧き出てくる不思議な感覚にモヤモヤしたが、一刻も早くこの寒さから逃れるために、自分の住む場所へ帰ることにした。
鳥居をくぐり、階段の下で一人の少年が座り込んでいた。
(……あの人、どうしたんだろう?)
少しだけ迷う。
けれど——
(困っている人は助けなきゃダメだよね)
こはるは小さく頷き、少年に近づいた。
「……どうかされましたか?」
その瞬間……
ふわりと、懐かしい匂いがした。
(……あれ、この匂い……)
少年が顔を上げる。
「いや、大丈夫です。」
心臓が大きく跳ねあがる。
聞こえてきたのは
——今までで1番聴いてきた声
(……え……?)
息が、止まりそうになる。
少年がゆっくりと立ち上がり、
こはるの方へ向き直った。
「友達と連絡がつかなくて……多分寝落ちですっぽかされちゃっただけなので(笑)」
(……ゆき……とくん……!?)
心臓が大きく跳ね上がる。
——ずっと会いたかった人
気づけば、視界が滲んでいた。
あれ……どうして………
「……そ、そうだったんですね!」
目をこするそぶりをしながら涙を拭き、とっさに言葉を飲み込む。
「……今日は寒いですし……てっきり体調でも悪いのかと……」
自分でも何を言っているのか分からない。
それでも、必死に平静を装った。
「お気遣いありがとうございます」
変わらない声。
変わらない仕草。
——何も変わっていない。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「い、いえいえ!それでは……また!」
こはるは軽く手を振る。
振り返らないようにして、その場を後にした。
⸻
少し歩いたところで、足を止める。
こはるは空を見上げた。
そこには、静かに輝く月。
——ありがとうございました。
誰にも聞こえないように、そっと呟く。
まさかこんなに早く会えるなんて。
きっとこれは、天ちゃんからのプレゼント。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
軽い足取りで
スキップをしながら歩いていく。
その足取りは——
先ほどまでの寒さを、
全く感じさせないほど…軽やかなものであった。
竜崎