「痛……」
水が指にしみる。蛇口から出る水が指に当たるたび、ズキズキと痛む。
「はは、痛そw」
隣でいるまが笑いながら言った。暇72はいるまを妬ましそうに見ると、
「しょうがないだろっ」
と言った。いるまは暇72の髪の毛を撫でながら言った。
「はは、なつはほんとかわいいな」
耳に熱が集まるのがわかる。蛇口の水を止め、ハンカチで指を覆う。
「…かわいくないし…かっこいいの方がいい」
暇72は少し照れくさそうに反論したが、いるまはその反応を楽しむかのように笑っていた。
「ほら、指見せて。ちゃんと消毒しないと」
いるまは暇72の手を優しく取ると、傷口を確認し、持っていた消毒液を取り出した。ペン型の消毒で、熊の小さなステッカーが貼ってある。
「じっとしてて、ちょっとしみるかもしれないけど」
いるまが丁寧に消毒液を指に塗ると、再びズキズキとした痛みが走ったが、いるまの優しい手つきに少し安心感を覚えた。
「ありがとう…」
暇72は小さな声で感謝を伝えた。いるまは微笑みながら、ハンカチで指を優しく包んだ。
「これでよし。あとで黒羽先輩に絆創膏貼ってもらおうな。気をつけるんだぞ」
「うん…」
その後。コンパの途中で寝てしまったらしく、目を覚ますと畳で寝ていた。隣でいるまも寝ていた。その顔があまりにも美しくて、暇72は思わず見惚れてしまった。
「あ、ひまちゃん起きた?」
起き上がると、黒羽が手羽先を食べながら言った。頭がふわふわする。目を覚そうとコーラを飲む。
「…ん?これコーラ……?」
そう言った暇72に、こさめがいった。
「なつくん、それ麦茶やけど」
「あぁ、麦茶かこれ」
「ん…?あれ、俺寝てた?」
隣でいるまが起き上がった。いつもより少し紫髪が跳ねている気がする。いつもは釣り上がっている目が、今はなんだかやさしい。
そろそろ解散するか。黒羽の声と共に片づけが始まった。時刻は十一時。
「なぁ、今日いるまの家泊まっていい?」
「あ?全然いいけど?」
いるまが残った皿を片付けながら頷いた。
「ふふ、楽しみだなぁ。」
暇72はワクワクしながら微笑んだ。いるまは微笑み返しながら、手早く片付けを終えた。
「じゃあ、準備できたら行こうか」
いるまは暇72の手を引き、部屋を出た。外は静かな夜で、二人は並んで歩きながら会話を楽しんだ。
ごめん、部屋汚ねぇわwちょっと待ってろ〜」
いるまの部屋には熊のぬいぐるみがたくさんあった。床に散らばった楽譜が、いるまの音楽に対する興味を見せつけていた。いるまは一階のリビングに降りて行った。暇72は上着を床に敷き、部屋を見まわした。
「…友達?」
突然ドアが開き、大学生くらいの女子が顔を覗かせた。長くて濃い黒髪の人で、アホ毛がいるまに似ていた。
「あ、えっと、…はい、友達です。」
暇72はぎこちなく頷くと、その人は微笑んで頷いた。
「へぇ。名前は?私サキ。いるまの姉。」
「あ、なつです。」
サキは少し微笑むと、部屋に入ってきた。
「…なつくん、いるまのこと好きでしょ」
「へ///!?」
一気に顔が赤くなる。サキはにやりと笑った。少し黒羽に似ていた。
「反応でわかった。私もそういうの好き。楽しんで。」
そういってサキはご機嫌で部屋から出て行った。入れ違いでいるまが入ってくる。いるまはベッドに座ると、暇72を見てにっこりと笑った。その顔があまりにもかわいくてかっこよくて、一瞬思考が停止した。
「あれ?なつ?」
「!ん?どうした?」
「あぁ、起きてたか…そろそろ寝る?」
そう言っているまはスマホを見た。もう十二時くらいになるな。
「あー…じゃあ寝るわ」
暇72は床に敷いた自身の上着に寝転んだ。それを見兼ねたいるまが心配そうに言う。
「あー床で寝るん?いいよベッドで寝て」
「え?」
暇72は一瞬で理解した。そりゃあ嬉しいけど、恥ずかしい気がする。
「あー…じゃあ俺もベッドで寝よ…かな」
「……」
暇72は横で寝ているいるまの顔を見た。寝てる時も紫のアホ毛は立っている。それを見つめながら、暇72はゆっくりと目を閉じた。隣から感じる熱で眠れない。いるまの寝息が静かに聞こえる中、暇72はゆっくりと心を落ち着けようとした。
「なつ、ちゃんと寝れてる?」
いるまが突然つぶやいた。暇72はドキッとしながら答えた。
「うん、大丈夫…」
「そっか。なんか、ありがとうな。こんな遅くまで一緒にいてくれて」
いるまの言葉に、暇72は微笑んだ。
「こっちこそ、ありがとう。今日は楽しかったよ」
二人の間に静かな時間が流れた。心地よい沈黙の中、暇72はようやく少しずつ眠りに落ちていった。隣でいるまのぬくもりを感じながら、静かに夜が更けていった。
「…」
暇72が寝たのを確認し、いるまは暇72の顔をまじまじと見つめた。サラサラの金髪からシャンプーの匂いがする。寝る時もつけている彼のヘアピンは、いるまからのプレゼントだ。小学校の卒業祝いにあげた。
「…かわいーな…」
暇72の髪の毛を撫でながらいるまはつぶやいた。耳から頬に指を伝わせる。
「…今なら、」
ゆっくりと暇72に顔を近づける。至近距離の暇72の顔はより美しく感じた。
「…」
息を止めて、いるまはさらに顔を近づけた。心臓が早鐘を打つ音が耳に響く。
「なつ、ほんとに…」
微かな声で、いるまはそう言うと、そっと暇72の唇に触れる寸前で止まった。ためらいが頭をよぎる。友達としての一線を越えることへの不安と、心からの愛しさが入り混じる。
「……」
しかし、いるまはその瞬間を大切にしようと思い直し、そっと唇を近づけた。暇72の無邪気な寝顔を見つめながら、心の中で誓った。
「いつか、ちゃんと言うから…」
そう心に決めたいるまは、そっと暇72の唇にキスをした。
「…ん、」
ふと気づくと、目の前にいるまが居た。美青年のどアップは心臓にだいぶ悪い。
「!?」
口の中に舌が入ってくる。
「ん…ふ、ぁ…?♡///」
意識が朦朧としている。全身が熱くなっている。恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑る。この時間が暇72にとってはとても長く感じられた。
今ので目が覚めただろうか。そう思って唇を引くと、少し目を開けた暇72がいた。暇72はぼーっといるまを見つめると、ぎゅっと抱きしめた。
「……大好き……………///」
暇72の声が耳元で響く。まさか、暇72から言われるとは思っていなかった。自分から言いたかったな。
「…俺の方が好きだし…」
暇72はパタりとベッドに倒れた。自分もベッドに横たわり、目を閉じた。隣にいる大切な人を感じながら、静かに眠りに落ちていった。
コメント
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えっ尊すぎるんですけど
次こさらんです