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「え……どうして、私の事を……」
男の言葉にはエリスも驚き、自分がエリスである事を否定するのも忘れて問い返す。
「まぁ、一見今のお前はあの美しい容姿をしたエリスとはかけ離れているが、見る奴が見れば、すぐに気付くだろう。訳ありなのは一目見て分かる。そんな格好で水すら飲めない状況だった事を考えると、かなり切羽詰まっているのだろ?」
「…………」
「…………分かった、ここでは落ち着かないだろうから、ひとまず俺の家に来い。そこでゆっくり話そう」
詳しく話したがらないエリスに男は小さく息を吐くと一旦自分の家で話をしようと言いながら立ち上がり、エリスに手を差し出した。
彼の言動にエリスはやはり迷っているのか、頷く事も手を取る事も出来ずにいる。
そんなエリスを見た男は出していた右手を一旦引っ込めると、もう一度彼女の前にしゃがみ込み、
「――俺の名はギルバート。決して悪いようにはしない。俺を信じて、付いて来てはくれないか?」
名を名乗り、自分を信じて付いてきて欲しいという言葉を投げ掛けた彼は、再度立ち上がって手を差し出した。
そこまで言われると、エリスの心は小さく揺らぐ。
(どうせ、このままこんな森に一人で居ても危険なのは変わらない。それなら、助けてくれた彼を信じてみるのも、良いのかもしれない……)
一人葛藤を重ねた末、
「……分かりました、全て、お話しします」
未だ戸惑い気味のままそう口にしたエリスは彼――ギルバートの手を取ったのだった。
足を負傷しているエリスを気遣ったギルバートは、遠慮する彼女の身体を抱き上げると、そのまま獣道を抜けて森の外へ歩いて行く。
ギルバートが暫く歩みを進めていくと、一頭の馬が大きな木の下で涼んでいた。
「リュダ、待たせたな」
どうやらギルバートの馬らしい。
「……あの、ここは……」
「ここはサラビア国の外れにあるルビアン街道だ。ここから俺の住む場所まではだいぶ距離があるからな、このリュダで移動する」
ギルバートを言いながらエリスを降ろすと、リュダの側に置いてあるに荷物の中からガーゼや包帯を取り出した。
「エリス、そこの切り株に座れ。ひとまず足の手当をする」
「あ、はい……」
言われた通り切り株に腰を降ろしたエリスの前に屈んだギルバートは、持っていた水で足の傷を洗い流し、ガーゼで丁寧に拭いてから包帯を巻いていく。
両足の手当を終えたギルバートは側で見守っていたリュダの頭を撫でると、まるで合図を受けたかのようにリュダが立ち上がる。
そして、
「応急処置は終えた。後は家に帰ってからだ。さてエリス、リュダに乗ってみろ」
エリスにリュダの上に乗るよう促すも、馬に乗った事の無いエリスは戸惑いの色を浮かべている。
「姫様には難しいかもしれないが、慣れれば簡単だ。ほら、怖がらずに乗ってみろ。コイツは大人しいし、支えてやるから大丈夫だ」
「……分かり、ました」
しかし、いつまでもここに居る訳にはいかないと、覚悟を決めたエリスはギルバートを信じて言われた通り、まずは側にある切り株を踏み台代わりにして左足を上げて鐙に掛け、右手を鞍壺の向こう側に持ってくる。
それから右足で踏みきりギルバートに支えられながら両手で体を引っ張り上げて左足で鐙に立ち、右足を大きく上げてリュダを跨いだ。
彼の言葉通りリュダは大人しく、エリスが背に乗っても微動だにしない。
「上手いな。どうだ? 馬に乗った景色は」
「……ちょっと、怖いです……」
「まあ、直に慣れるさ」
それからエリスの後ろにギルバートが軽々と跨ると手網を握り、
「それじゃあ、しっかり掴まってろよ」
両足の踵でリュダのお腹を軽く蹴ると、それを合図にリュダが動き出した。
「きゃあっ」
動き出した事にびっくりしたエリスは小さく悲鳴を上げる。
「平気だ。振り落とされたりしないから、怖がらずに前を向いてみろ」
優しげに微笑みながらエリスを安心させるギルバート。
「は、はい……」
初めは怖がって俯いていたエリスも、リュダが走り出してから暫くすると慣れてきたのか顔を上げられるようになっていた。
それというのも、ギルバートが後ろで身体を支えてくれているからだとエリスは思う。
「どうだ? 慣れてくると大した事は無いだろ?」
「そうですね……あの、ギルバート……さん」
「何だ?」
「ギルバートさんは、何故あの森に?」
「ああ、仕事の帰りに少し寄り道をしていたら、野犬が数匹興奮した状態で歩いているのを見掛けて気になってな。少し調べていたらお前が倒れていた」
「そう、だったんですね」
「あの森は最近色々と物騒なんだ。特にお前が倒れていたあの小道は、迷い込むと厄介だ。あそこで力尽きていたのはある意味運が良かったんだ」
ギルバートの話を聞いたエリスは、彼に見つけて貰えて本当に良かったと心の中で安堵した。