零は暗い救護室のベッドに横たわっていた。その体は渋谷との戦いの影響で深い傷を負い、包帯が全身を覆っている。周囲には神域の者たちが集まり、彼を懸命に看護していた。
「しっかりして、零!」
高く澄んだ声が響く。神域の癒し手である少女・ルナが彼の額に布を当て、冷やしていた。彼女は幼い見た目ながら、治癒能力は抜きんでており、神域の生命線とも言える存在だ。
「おい、もっと薬草を持ってこい!」
怒鳴るのは筋骨隆々の男・ガイア。彼は零を運び込んだ際、大きな切り傷を負っていたが、零の治療を優先して動き回っている。
「ったく…よくもこんなになるまで戦ったもんだ。」
ガイアがぶつぶつ文句を言う中、ルナが手をかざして零の胸元に淡い光を注ぎ込む。零の痛む傷口が少しずつふさがっていく様子を見て、他のメンバーもほっとした表情を浮かべた。
ぼんやりとした意識の中で、零は誰かの声を感じていた。
「お前は死ぬべき存在じゃない。」
それは遠い昔教皇から聞いた言葉。冷たく荒れた心の奥深くに染み込んだその言葉が、今も零を支えているようだった。
「教皇…俺は…」
微かに声を漏らす零。だが、その声はすぐに途切れ、彼の意識は再び暗闇に沈んでいった。
「傷は深いけど、命には別状ないわ。」
ルナが安堵の息を吐きながら言う。
「当たり前だ。あいつがこんなところでくたばるわけがねぇ。」
ガイアが腕を組みながら言うと、他のメンバーも頷いた。
「でも、これ以上零さんをこんな目に遭わせるわけにはいきませんよ。」
若い少年が口を挟む。彼は神域に新たに加入したばかりの新人・エルで、零を心から尊敬している様子だった。
「そう簡単な話じゃない。あいつの選ぶ道は常に危険が付きまとう。」
ガイアが渋い顔で答える。
「でもさ、零って案外、人に助けられるのが嫌いじゃないんじゃない?」
ルナがふわりと微笑む。その言葉に、一瞬沈黙が訪れるが、やがて全員が小さく笑った。
「それは…たしかに。」
ガイアが苦笑する。
救護室の騒がしさをよそに、教皇は神域の屋上で夜空を見上げていた。
「零、お前がこうしてまだ戻ってきているということは、やはり運命が動いているのかもしれないな。」
彼の手には、破られた自分の写真が握られていた。零が破ったものをそっと拾い上げたのだ。
「お前がこの先どんな選択をするにせよ、私はそれを見届ける。それが…私の役目だ。」
冷たい風が教皇のローブを揺らし、月光が彼の鋭い瞳を照らした。