争奪戦がいったん落ち着き、王子たちがハイネに怒られてそれぞれ退散した後。
書庫に残ったのは、ハイネと――
「……ヴィクトール陛下、貴方までああいうことを言うのは感心しません」
「……でも、本音だったんだよ?」
不意に、ヴィクトールが机越しに一歩踏み込む。
ハイネが顔を上げると、すぐそこに彼の視線。
いつもと違う、どこか寂しげな目――そして。
「ハイネ……昔からの仲だろう、? 私じゃ嫌なのかい……?」
静かに問いかけられたその言葉。
声は穏やかなのに、目だけがまっすぐすぎて。
「……っ、」
動揺を隠せないハイネは、わずかに目を伏せる。
「……何を言っているんです、陛下」
「ハイネが他の誰かを見て笑うと、胸が痛くなるんだ。私の知らない顔を見せている気がして……ずるいな、と思ってしまう」
「……」
「昔から君は、私の支えだった。だから、他の誰かじゃだめなんだ。私は――君がいい」
そこまで言って、ヴィクトールはふっと笑ってみせる。
でもその笑みの奥に、長年隠してきた“本心”が透けて見えた。
「……考えてくれないかい? “陛下”じゃなく、“私”としての願いを」
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