コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
芥川(黒蜥蜴…武装探偵社は、ポートマフィアの武闘派〝黒蜥蜴〟をの襲撃を受けた。しかし、その一団を国木田さんたちはあっと云う間に撃退された…探偵社恐るべしだな)
オフィスの片付けをしてる一同。皆が働いている中、乱歩は一人、机に腰掛けてラムネのビンを振ってカラカラと中のビー玉を転がして遊んでいる。
芥川「ん…?」
江戸川「ねえねえ、春野っち、この瓶の中から、ビー玉取り出してくれる?」
芥川「はい、ただいま。」
芥川「…ビー玉…?」
春野「これで宜しいですか?乱歩さん」
江戸川「うん。いいよね、ビー玉」
春野「いいですよね。ビー玉」
芥川「…」
芥川(乱歩さんは手伝われないのか…?)
江戸川「国木田くーん!僕そろそろ、名探偵の仕事にいかないと。」
国木田「ああ、殺人事件の応援ですね。」
江戸川「まったく、この街の警察は僕なしじゃ犯人ひとり、捕らえられないんだからぁ。でもまぁ…僕の超推理はこの探偵社、いや、この国でも最高の異能力だ!皆が頼っちゃうのも仕方がないよねぇ」
国木田「頼りにしています、乱歩さん」
江戸川「わかっていればよろしい。そう、君らは探偵社を名乗っておいて、その実、猿ほどの推理力もありゃしない。この探偵社が探偵社であるのは皆、僕の異能力〝超推理〟のおかげだよ。」
春野「凄いですよね、超推理。使うと事件の真相が瞬時にわかっちゃう能力なんて。」
国木田「探偵社、いえ、全異能力者の理想です。」
江戸川「当然だね。」
芥川「…」
国木田「おい、小僧。」
芥川「はい。」
国木田「ここの片付けはいいから、乱歩さんにお供しろ。ついでに小娘も。」
銀「はい。」
芥川「承知した。助手ということか?」
江戸川「まさか。二流探偵じゃあるまいし、助手なんていらないよ。」
銀「では、何故…?」
江戸川「ほら、僕電車の乗り方判んないから。」
〜電車内〜
江戸川「おお〜」
乱歩は嬉しそうにビー玉を眺めてる。
芥川「…」
銀(正直驚いた。切符の買い方、改札の通り方、ホームの場所…本当に何も分からないとは…異能力を使わなければなんにも出来ないんだな…)
〜現場〜
箕浦「遅いぞ、探偵社。」
江戸川「あれ?きみ誰?安井さんは?」
箕浦「俺は箕浦。安井の後任だ。本件は、うちの課が仕切る事になった。よって、貴様と探偵社は不要だ。」
江戸川「莫迦だなぁ。この世の難事件は、すべからく名探偵の仕切りに決まっているだろう?」
箕浦「今日は、探偵など頼らない。殺されたのは、俺の部下だからな。」
江戸川「…」
芥川「…」
銀「…そんな」
江戸川「…ご婦人か」
杉本「今朝、川を流されてるところを発見されました。」
箕浦「胸部を銃で3発。殺害現場も時刻も不明、弾丸すら発見できてない。」
江戸川「犯人の目星は?」
箕浦「判らん。職場での様をみてた限りでは、特定の交際相手もいなかったようだ。」
江戸川「それってさぁ、何も判って無いって云わない?」
箕浦「だからこそ、素人上がりの探偵などに任せられん。」
軍警「おーい。そこのバイク、止まりなさい。」
?「あ?」
芥川「あれは…?」
箕浦「聞き込み調査だ。付近で何か不審なものや人を見てないか調査を行ってるんだ」
軍警「君、免許証は?」
?「ん。これでいいか?」
軍警「あ、ああ…本当に成人してるか?」
?「あ?免許証見せたろうが。」
箕浦「なんだ、検問に引っ掛かってるな。」
芥川「乱歩さん…あれって…」
銀「もしや…中原さんでは?」
江戸川「うん、通常運転だね。芥川くん、救ってきて。」
芥川「な、中原さん…こんな所で何を…」
中原「何をって…非番を謳歌してただけだよ。てか手前こそ、何してたんだよ。」
芥川「仕事です。」
中原「概要は?」
銀「この様になってます。」
中原「ありゃ…ご婦人か…随分若い様だな。どうか、安らかに…」
帽子を取って静かに黙祷する。
箕浦「誰なんだ、あいつは?」
江戸川「探偵社の同僚で…まぁ、ああいうやつだ。」
中原「まぁ、安心しろ。稀代の名探偵が必ずや、この事件の真相を見抜いてくれる。なァ、江戸川さん。」
江戸川「ところが僕は、今だに依頼を受けてなのだ。」
中原「どうゆう事だ?」
江戸川「このひとに訊いて。」
箕浦「探偵などに用はない。実際、俺の部下は全員私立探偵などより優秀だ。」
中原「ちぇ…せっかく、名探偵の推理ショーが見られると思ったのに。」
江戸川「中原くん、あれ好きだよね。まぁ、当たり前だよね~。それで。君、名前は?」
杉本「え?自分は杉本巡査であります。殺されたこの山際女史の後輩であります。」
江戸川「よし、杉本くん。今から60秒でこの事件を解決しなさい。」
杉本「えぇ!?」
江戸川「僕なら一分以内に解決できる。僕より優秀だと豪語するなら、できるよね。」
中原「おー江戸川さんにしちゃぁ優しい方だな。」
芥川「…」
銀「え…そんな事が…」
江戸川「それでは杉本くん、いってみよう!」
杉本「えええー?えっとえっと…幾らなんでも60秒って云うのは…」
江戸川「はーい、あと50秒」
杉本「えええー?そ、そうだ!最近山際先輩は、政治家の汚職疑惑と、ポートマフィアの活動を追ってました。たしか、マフィアには報復の手口に、似た殺し方があったはずです。もしかすると先輩は、調査してたマフィアに殺されて…」
中原「…ちげぇよ。」
杉本「え?」
中原「ポートマフィアの報復の手口は身分証と同じで、細部まで、厳密に決められてンだよ。まず裏切り者に敷石を噛ませ、後頭部を蹴り顎を破壊…激痛に悶える犠牲者をひっくり返し…胸に3発。」
芥川「う…ゴホッ」
銀「そんな、やり方で…」
杉本「確かにそうですが…」
中原「この手口はマフィアに似ているがマフィアじゃねぇ。つまり…」
箕浦「犯人の偽装工作?」
杉本「偽装のためだけに遺骸に2発も撃つなんて…酷い」
江戸川「ブー!」
杉本「うわあ!」
江戸川「はい、時間切れー。駄目だねぇ、やはり名探偵の僕には、やはり、遠く及ばない。少なくとも君の部下が全員僕より優秀というのは、間違ってると証明されたね。」
箕浦「いい加減にしろ!先刻から聞いていれば、やれ推理だの、やれ名探偵だの、創俗作品の読みすぎた!事件の解明は即ち、地道な調査と聞き込み、現場検証だろうが!」
江戸川「はあ?まだ判ってないの?名探偵は調査なんかしなーいの。何なら今回の事件、中原くんの方が君たちよりも分かってるよ。」
中原「ん〜一応、半分程は。犯人と動機も何となく判りましたよ。証拠は、判りませんが…」
江戸川「ははっ!中原くんもまだまだだなぁ!」
箕浦「何を莫迦なことを…調査もしないのに何が判るんだ。」
江戸川「僕の異能力〝超推理〟は、一目見れば犯人が誰で、いつどうやって殺したか、瞬時に判るんだよ?のみならず、どこに証拠があって、どう押せば犯人が自白するかも掲示のごとく頭にうかぶ。僕は異能力者だからね。」
箕浦「職業柄、異能力者の存在は俺も知っている。だがそんな便利な異能力があるなら、俺たち刑事は要らねぇじゃねぇか!」
江戸川「まさにその通り!ようやく理解が追いついたじゃないか!」
箕浦「貴様ァァァ!」
江戸川「?」
中原「まあまあ、刑事さん。江戸川さんは終始こんな感じだからよ。」
江戸川「なにしろ僕の座右の銘は、『僕が良ければ全てよし!』だからな。」
芥川(座右の銘を聞いてこんなにも納得したのは初めてだ…)
座右の銘…『皆、生きていればよかろう』
銀(すごく納得できる…)
座右の銘…『諦めずにに生きていこう』
中原「やれやれ…」
座右の銘…『これで太宰さえいなければ』
箕浦「そこまで云うなら、見せてもらおうか。その能力を。」
江戸川「おや、それは依頼かな?最初から素直に頼めばいいのに。」
箕浦「ふん、なんの手がかりもないこの難事件を相手に、大した自信じゃないか。60秒計ってやろうか?」
江戸川「…そんなにいらない。」
乱歩は懐から眼鏡を取り出す。
中原「よく見てろ、芥川、銀。これが探偵社を支える能力だ。あの眼鏡を掛けると江戸川さんは、推理スイッチが入んだ。」
芥川(事件の真相が判る異能力…本当にそのような力が存在するのか…?)
銀「…ジッ」
江戸川「異能力!!超推理。…なるほど」
箕浦「何が成る程だ。犯人がわかったとでも云うのか?」
江戸川「勿論。」
箕浦「はぁ?」
中原「さぁて、名探偵の推理ショーが始まるぞ。気まぐれだから次いつ見られるかなんて判らねぇ。しっかり見てろよ。」
江戸川「犯人は…君だ。杉本巡査…」
杉本「は?」
芥川「乱歩さん…?」
銀「そんな事が…?」
箕浦「ハハハハ…杉本巡査は俺の部下だぞ。」
江戸川「杉本巡査が彼女を殺した。」
箕浦「!!莫迦云え!大体こんな近くに都合よく犯人など…」
江戸川「犯人だからこそ現場に居たがる。それに云わなかったっけ?」
箕浦「?」
江戸川「〝何処に証拠があるかも判る〟って。拳銃貸して?」
杉本「!!ば、莫迦云わないでください。一般人に官給の拳銃を渡したら減棒じゃすみませんよ!」
箕浦「何を言い出すかと思えば。探偵って奴は、口先だけの阿保なのか?」
江戸川「その銃を調べて何も出なかったら、確かに僕は口先だけの阿呆ってことになる。」
箕浦「ふん!貴様の舌先三寸はもう沢山だ。杉本、見せてやれ。」
杉本「…ですが…」
箕浦「ここまで吠えたんだ、納得すれば大人しく帰るだろう。これ以上時間を無駄にする訳にはいかん。此奴に銃を見せてやれ。」
杉本「…」
箕浦「おい、どうした杉本?」
江戸川「いくらこの街でも、素人が銃弾を補充するのは容易じゃない。官給品の銃であれば尚更だ。」
箕浦「何を黙ってる、杉本!」
江戸川「彼は懸命に考えてる最中だよ。使ってしまった3発分の銃弾についてどうやって言い訳するかをね。」
杉本「!!」
箕浦「杉本!お前が犯人の筈ない!早く銃を見せろ!」
杉本は銃をホルスターから取り出そうとする。
箕浦「そうだ、杉本…」
しかし同時に、撃鉄を起こしてる。
中原「不味いな…」
銀「!!」
芥川「銀、下がってろ。」
杉本「くっ!」
箕浦「杉本ー!」
江戸川「行け、中原くん」
トンと中原の背中を押すと勢いで中原が前に出る。
箕浦「辞めろー!」
杉本「パンッ」
箕浦「おいっ!大丈夫か?!」
中原「…お前、武装探偵社がどういう組織か知らねぇ様だなぁ。いい機会だ、教えてやるよ!」
杉本「ヒッ来るなぁ〜!パンパンッ」
完璧に射程に捉え、それは中原に当たった…と思えたが、銃弾は中原に到達する前に全て地面へ音を立てて落ちていった。
中原「武装探偵社はなァ…荒事を専門とする異能者集団だ。手前を捕まえる事なんか造作もねぇよ」
あっという間に杉本巡査は中原の手の内になってしまう。
江戸川「いやぁ~久々に見たよ。流石、武装探偵社の番犬だ。」
中原「その名前で呼ばないでください、江戸川さん」
芥川・銀「?」
江戸川「後で、教えてあげるよ。」
中原「江戸川さん!」
杉本「は、離せ!僕は関係ない!」
江戸川「逃げても無駄だよ。中原の身体能力に君じゃ勝てない。」
杉本「…」
江戸川「犯行時刻は昨日の早朝。場所はここから140m上流の…造船場跡地。」
杉本「!何故それを…」
江戸川「そこに行けば有るはずだ。君と被害者の足跡。それに、消しきれなかった血痕も…」
杉本「どうして…バレるはず無いのに…」
箕浦「続きは職場で聞こう。お前にとっては〝最後の職場〟になるかもしれんがな。」
〜警察署〜
杉本「…撃つつもりはなかったんです。彼女はある政治家の汚職事件を追っていました。そこで予想外にも、大物議員の犯罪を示す証拠品を入手したんです。しかし、議員も老獪で、警察内のスパイを使って、その証拠を消そうとしました。」
江戸川「そのスパイが君という訳だね。」
杉本「…昔から警察官に憧れていました。試験に三度落ちて、落ち込んでる時に男に声をかけられたんです。どうしても警察官になりたいか、と。そして議員の力で警察官になった僕は、見返りに指示に従ってました。」
箕浦「それでお前は、議員の犬として山際を殺したのか!」
杉本「違います!!…自分は彼女に警告を…このままでは消されるから証拠品を手放せと…。しかし彼女は」
杉本『山際さん、相手は本気です!』
山際『ならばこちらも本気になるだけよ。馴染みの検察に渡りはつけたわ。あとは証拠を渡すだけ。』
杉本『…』
杉本は銃を抜き、撃鉄を起こす。
山際『杉本くん…?』
杉本『証拠品を渡してください。もし僕が証拠の奪取に失敗したら、次は殺し屋が動く…。その前に…』
山際『銃をおろしなさい、杉本くん。貴方じゃ私を撃てない。』
杉本『そのとおりだ…だから!脅し方を変える!』
山際『やめなさい!杉本くん!』
杉本は、自分の頭に銃を構える。山際は、杉本の銃を持つ手首を掴む。揉み合いになった瞬間に銃声が鳴り…
杉本『!』
発射された銃弾は、偶然、山際の胸に命中していた。
江戸川「このままでは殺人犯、警察もクビになる。混乱した君の頼れる人物は、皮肉なことに、一人しか居なかった…電話した君に議員は証拠隠滅の方法を教えて、君はその通り彼女の胸にもう2発撃ち、マフィアの仕業に偽装…発見を遅らせるために川を流した…」
箕浦「山際が入手した証拠品は何処だ?」
杉本「…」
箕浦「その議員は山際の仇だ、云え!杉本!」
杉本「…」
江戸川「ねぇ、杉本くん…」
杉本「?」
江戸川「彼女の最後の言葉、当ててみようか。〝ごめんなさい〟…だね?」
山際『ごめん…なさい…』
杉本「!!…本当に…、全てお見通しなんですね…証拠品は、僕の机の引き出しにあります…」
机にうつ伏せになり、静かに泣く杉本。
中原「…」
芥川「…」
〜外〜
箕浦「…世話になったな」
江戸川「?」
箕浦「それに…実力を疑って悪かった。難事件にあったったら、また頼む。」
江戸川「僕の力が必要になったらいつでもご用命を。次からは割引価格でいいよ。」
箕浦「…そいつは助かる。」
乱歩はご機嫌に、中原に買ってもらった飴を食べながら先へ歩いていく。後ろで中原、芥川、銀が歩きながら雑談をしている。
銀「凄かったです、乱歩さん。まさか全部当てて仕舞うとは…異能力〝超推理〟…本当に凄いです。」
中原「ん〜やっぱ、半分だな。」
芥川「あぁ、さっき仰ってた…」
中原「嗚呼、さっきの事件、江戸川さんがどうやって推理したかな。」
芥川「?それは、異能力で瞬時に判るからでは…?」
中原「あぁ、手前はまだ知らねぇか。実は江戸川さんの超推理は異能力じゃねぇんだよ。江戸川は、探偵社じゃ珍しい、何の異能力も所持しない、一般人なんだ。」
芥川「は?」
中原「本人は異能力を使ってるつもりみてぇだがな。其れにああ見えて江戸川さんは、26歳だぜ。」
何かを悟ったように落ち着いていて、何処か悲しそうで儚げに見えた。それを誤魔化すように明るく振る舞おうとする為につけ足した。
芥川「….」
中原「探偵社の皆が江戸川さんを敬うのは、〝超推理〟が異能じゃ無いと知ってるからだ。」
銀「異能力じゃないなら…どのようにして事件の場所や時間をあてたんですか?」
中原「あぁ、だからあれは単なる推理だ。」
芥川「あの様な短い時間で犯人を当てるなど可能なのですか?」
中原「ああ、そこなら俺も判ったな。あの杉本巡査、云ってたろ?」
『偽装のために遺骸に二発も撃つなんて…ひどい』
中原「でも3発撃たれた死体をみれば、誰だって3発同時に撃たれたって思うだろ。」
芥川「あぁ…」
中原「つまり彼は一発目で被害者が死んだのをしってたんだよ。解剖がまだなのにそれを知ってるってことは?」
芥川「犯人のみ…犯行時刻はどのようにして?」
中原「それはな、遺体の損壊が少なかったから、川を流れてたのは長くて1日。昨日は平日、火曜日だ。なのに遺体は化粧すらしてねぇ。激務で残業の多い刑事が、平日に化粧なしとくれば早朝が妥当だろうな。」
芥川「…他の犯行現場や銃で脅した等はどのように?」
中原「そこまではお手上げだ…江戸川さんの目は俺なんかよりずっと多くの物を捉えてる。まぁ、彼奴が本物の警察じゃないっつーのは一目で判ったな。」
芥川「え?」
中原「警察学校出てるわりには筋肉のつき方が悪い。もともと付きが悪いようじゃ無かったし、日々の訓練はしてる。差は出るものの、もう少し筋肉が付くはずだ。撃たれた時もしっかりとした扱い方がわかってないようだったし、そこが引き金となって暴発し彼女を殺した。まァ、終始警察っぽくは無かったなしな」
芥川「云われてみると不可解な点はありました。そういえば、彼女の最後の言葉まで当ててしまうとは…」
中原「ああ、あれな。」
芥川「?」
中原「彼女に特定の交際相手は居ないっつう話だったな。でも、彼女の腕時計は、海外ブランドのもんだ。独り身の女性が買う代物じゃねぇよ。それと杉本巡査の腕時計も同じモデルの紳士用だった。」
銀「では、あのお二人は…」
中原「早朝の呼び出しに、化粧もせずに駆けつける…そして同じモデルの時計…二人は恋人同士だったんだよ。だから彼女の顔を蹴って砕く事が出来なかったんだよ。そうしないと、マフィアの仕業に見せかけられないと分かっててもな…」
芥川「合点がいきますね。」
中原「それを見抜く能力も、それが異能力なら、そいつは現象だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。が、本人の推理力となりゃ話は別だ。江戸川さんが解決した事件は十や二十じゃねぇからな。そうすりゃ、ただの一度も推理を外さなかった事になんだ。」
芥川「…」
中原「実に偉大な御仁だな」
江戸川「こらー案内係!僕一人じゃ探偵社に帰れないでしょーが!」
芥川「!」
中原「あぁ、すんません。今、追いつきます。ほら、走んぞ!」
芥川「承知した。ゴホッ」
銀「はい!」
中原「さて、これで分かっただろ?」
芥川「はい」
銀「えぇ」
中原「乱歩さんのあの態度を、探偵社の誰も咎めない理由がよ。」
芥川・銀「それと探偵社の皆さんが江戸川を信頼してる理由が…」
芥川と銀の言葉に微笑む中原。
江戸川「__僕が良ければ全て良し!」
〜事務所〜
芥川「そういえば…乱歩さん。」
江戸川「ん?どうしたの〜」
芥川「結局、探偵社の番犬って何だったんですか?」
江戸川「あぁ、彼奴の異名だよ。昔はああ見えてやんちゃしてたんだよ。」
銀「えぇっ…!」
江戸川「今の中原くんからはそんなこと感じないよね〜」
銀「その…やんちゃとはどんな…?」
江戸川「怪我して帰ってくることが多くてね。最初は喧嘩の類だろうと、皆咎めてたんだけど、実際そうじゃなかった。それに気がついたのは、探偵社に御礼状が届いたときだ。」
芥川「なに、されてたんですか?」
江戸川「銀行強盗の逮捕、盗られた鞄やスられた財布を取り戻して届けたり、町中の喧嘩、暴動を止めたり。荒事が専門の武装探偵社の名を損なわない働きをしてたんだよ。迷子を届けたり、持ち主を見つけたり、荷物運びをしたり、犯人を捕まえたり、彼奴はお人好しの世話好きだから、そういうのを見かけると飛んでっちゃうんだ。武装探偵社の中だと闘いの面じゃ最強を誇るよ。だから、武装探偵社は敵にまわすななんて噂もたってるね。まぁ、過去の姿からついた異名だから本人は嫌らしいけど。」
芥川「そんなに…」
江戸川「彼奴は従うべきところに命をかけて従えるやつだ。武装探偵社の為と云われれば命をも自ら焼くよ。それが中原中也さ。」
芥川「教えていただき、ありがとう、ございます。」
江戸川「まぁ、あんま本人の前で云わないでね?彼奴、怒ると面倒くさいから。」
芥川「わかりました。」
〜町中〜
男「お嬢ちゃん、ねぇ誰か待ってんの?」
少女「…」
男「こいつ昨日から同じ体勢だぜ。死んでんじゃね?」
男「あっ今瞬きしたよ。」
少女「…ピクッ」
男「うおっ動いた!」
少女「パシッ」
中原「うおっ…俺か?」
少女「…見付けた。ゴォッヌッ」
中原「…これは不味いな」
〜事務所〜
国木田「中原が行方不明?」
芥川「電話しても繋がりませんし下宿にも帰っていないようで…このビル内は探しましたが見つかりません。」
江戸川「中原くんがねぇ…まぁ、大丈夫じゃない?」
芥川「しかし、先日の一件もあるため…もしかしてマフィアになにかされたなどは…」
国木田「阿保か。あの男の危機察知能力と生命力は尋常じゃない。それに、彼奴はこの探偵社じゃ一番の戦闘力を誇る。マフィア如きに殺せようものか」
芥川「そうですが…」
谷崎「僕が調べておくよ。」
芥川「谷崎さん、無事でしたか。」
国木田「与謝野先生の治療の賜物(たまもの)だな。谷崎、何度解体された?」
谷崎「…4回。芥川くん探偵社では怪我だけは絶ッ対にしちゃ駄目だよ。」
芥川「?はっ…もしや、昔の中原さんって…」
江戸川「あぁ…合計で15回だったかな。小さい怪我が多かったけど、時々大きい怪我をして帰った日は二、三回解体されてたよ。今はもう慣れたって。」
国木田「中原…まぁ今回は相手がマフィアとしれた時点で逃げなかった谷崎が悪い。」
江戸川「マズいと思ったら逃げる危機察知能力だね。今から10秒後」
芥川「?ゴホ」
与謝野「ふァ〜あ寝すぎちまったよ。」
芥川「与謝野先生。」
谷崎「ビクッ」
与謝野「あぁ、新入りの芥川だね。銀の兄だったよねェ。」
芥川「然り…コホッ」
与謝野「どっか怪我してないかい?」
芥川「あぁ、大丈夫です。コホ」
与謝野「ちぇっ」
芥川「…?」
与謝野「キョロキョロところで、誰かに顔出しの荷物を頼もうと思ったンだけど…アンタしか居ないようだねェ。」
芥川「はっ?」
芥川(危機察知能力って…このことか?)
〜街中〜
芥川「ま、まだ買われるんですか?」
与謝野「落とすンじゃ無いよ?落としたら…ニィッ」
少女「スッ」
少女と目が合う。
芥川「…?」
一般人「でさードン」
芥川「ゴホッうおっグラッポロッ」
おじさん「この給金泥棒が、早く迎えを寄越せ!ゴロゴロゴロコロンウォウッ!!ズッ」
与謝野「あーあー」
芥川「なっ大丈夫ですか!」
おじさん「どうしてくれる欧米職人の特別誂えだぞ!」
芥川「本当にすまぬ…」
与謝野「スッご容赦をお怪我は?ニコ」
おじさん「五月蝿い!ドズッ女の癖に儂を誰だと思ってる!バッ貴様らの勤め先など電話一本で潰して…」
与謝野「スッ女の癖に?メリッそいつは恐れ入ったねェ。メリッ女らしくアンタのひんそうな✕✕を踏み潰して✕✕してやろうかい?メリッ」
おじさん「ゾッ…ッ!」
与謝野「スックイッ」
芥川「サッ」
〜電車内〜
芥川「さっきはすいません」
与謝野「気にするこァないよ。…ところでさ、アンタ、マフィアに腹を抉られたそうじゃ無いか。」
芥川「あぁ。」
与謝野「あれ、どうしたんだい?」
芥川「あぁ、そこまで傷自体深かった訳ではなかった為、中原さんが処置をしてくださいました。」
与謝野「その傷は?」
芥川「まだ、あります。治りかけですがね。」
与謝野「スッふぅん…」
与謝野(引っ掻き傷…動物系の異能者かな。傷は深くないって言ってたけど、縫合跡があるからまぁまぁ、深かったようだね。中原も器用な事するねぇ…)
芥川「何か…問題でも?」
与謝野「別に…ペイッ妾が治療出来なくて残念だって話さ。…でも次は無いよ。」
芥川「…?」
与謝野「前回は探偵社に正面から突っ込ンで自滅したけど、元来マフィアってのは奇襲夜討が本分だ。夜道にゃ気ィつけるんだね。いつどこで襲ってくるから知れないよ。」
芥川(そうだ…奴等の狙いは僕だ。自分の身は自分で守るしかあらぬ…)
?『あァ~こちら車掌室ゥ誠に勝手ながらぁ?唯今よりささやかな〝物理学実験〟を行いまぁす!』
?『題目は〝非慣性系における爆轟反応及び官能評価っ!〟被験者はお乗り合わせの皆様!ご協力まぁ〜ことに感謝!では早速ですがぁこれをお聞きくださぁ〜い』
ゴォォドォッ
芥川・与謝野「!ズンッ」
?『今ので2,3人は死んだかなぁ〜?でも次はこんなモンじゃありません!皆様が月まで飛べる量の爆弾が先頭と最後尾に仕掛けられておりまぁ〜す!さてさて被験者代表、芥川くん!君が首を差し出さないと、乗客全員天国に行っちゃうぞぉ〜?』
芥川「なっ…!」
与謝野「云ったそばから御出ましってワケだ…!」
芥川「どうしましょうか?」
与謝野「一、大人しく捕まる。二、疾駆する列車から乗客数十人と飛び降りて脱出。…三」
芥川「彼奴を今ここで倒すか…?」
与謝野「何しろ妾らは武装探偵社だからねぇ」
おじさん「オイ貴様ら武装探偵社なのか!?なんとかしろっ!」
与謝野「おやおや。でも探偵社はハロじゃ動かないよ?」
おじさん「金なら幾らでも払う!爆弾を止めて儂を助けろっ!」
与謝野「そいつは依頼かい?」
おじさん「そうだ!」
与謝野「依頼じゃ仕方ないねェニッ」
おじさん「そ…それからもう一つ。その…//✕✕を✕✕してくれるというのは本当かボソッ」
与謝野「ゴキン…さて芥川、手分けして爆弾を解除するよ。妾は前、アンタは後部だ。」
芥川「もし、敵がいたら?」
与謝野「ぶっ殺せ!ダッ」
〜前部〜
一般人「うわぁぁドドドドド」
与謝野(一般人も乗ってる白昼の列車に自爆紛いの脅迫。マフィアの謀にしても豪い覚悟…否、執着だね。一体どんな奴が…)
与謝野「バッ!?ピンッカッドオォォン」
?「果断なる探偵社のご婦人よ、ようこそ!シュゥシュゥそしてさようならぁ〜!」
与謝野「ピクッおやおや…誰かと思えば有名人じゃないか。ヨロッ」
?「ほう、驚きだなぁ。最近の女性は頑丈だ。」
与謝野「男女同権の世だからねェ。妾からすりゃアンタみたいな指名手配犯がこんな所にいる方が驚きだよ。梶井基次郎。」
ポートマフィア構成員
____梶井基次郎…『檸檬爆弾』
_____________レモネード
与謝野「隠密主義のマフィアの中にあって珍しく名の知れた爆弾魔だ。この前の丸善ビル爆発事件で一般人を28人殺してる」
梶井「あれは素晴らしい実験だったよ!拍動の低下!神経細胞の酸欠死!乳酸アシドーシス!死とは無数の状態変化の複合音楽だ。そして訪れる不可逆なる死!ああ!」
与謝野「死が…実験だッて?」
梶井「科学の究極とは神と死!どちらも実在ししかし科学で克服できずゆえに我らを惹きつける。さぁて貴方の死は何色かな?」
与謝野「確かめてみな…!」
〜後部〜
一般人「わあああああ!」
芥川(爆弾を撤去できないと皆が死ぬ。出来るか…僕に。)
ヒュンッ
芥川「お前、!危ないぞ!そちらには爆弾が…!」
中島『君の任務は爆弾の死守だ。』
?「ゴッ」
中島『邪魔者は殺していいよ。夜叉白雪!』
泉鏡花…能力名『夜叉白雪』
_________ヤシャシラユキ
〜前部〜
梶井「うはっ…っははぅはははうははははははは….っははははっはは」
〜後部〜
芥川「ゼェゼェゴホッ」
夜叉白雪「コォォォォオ」
芥川「ダッ」
夜叉白雪「ドドドドド」
芥川「がっ…ゴホッ」
中島『敵を盡く切り刻んで。夜叉白雪。』
夜叉白雪「ガキンッ」
芥川「…!?」
夜叉白雪「キンッ」
芥川「ドッ」
胸部から腹部にかけ、この一瞬で斬られている。血を吹き出し倒れる芥川。
芥川(強すぎる…!)
芥川「何故、そなたのような女児が…ゴホッカハッ」
泉「…私は、泉鏡花。貴方と同じ孤児。」
「芥川!?」
泉「好きな物は兎と豆府。嫌いな物は犬と雷。マフィアに拾われて六ヶ月で35人殺した。」
芥川「…!」
中島『爆弾を守って。邪魔者は殺して』
芥川「ヨロッ35人殺し…」
夜叉白雪「ジャキッドスッ」
芥川「ガハッ」
芥川(殺される…銀、探偵社の皆…すまぬ)
芥川「フッ」
〜前部〜
与謝野「ぐっげほっ」
梶井「ダンッ噂ほどじゃないなぁ〜探偵社ってのも」
与謝野「ぐっ…」
梶井「ガッこれから君は死ぬわけだけど、その前に教えてくれ。『死ぬ』ってなに?」
与謝野「…何だって?」
梶井「学術的な興味だよ。僕は学究の徒だからね。人の死因…脳細胞の酸欠もテロメアの摩耗も…実験室レヴェルでは単純で可逆的な反応だ。なのに何故死は不可逆なのだ?何故人は孰れ必ず死ぬ?」
与謝野「くッ…くくくそんな事も判らンのかい?」
梶井「!」
与謝野「大した事ないねェ、マフィアってのも。」
梶井「理学の求道者たるこの梶井が知らないことを…街の便利探偵屋如きが判ると?」
与謝野「勿論。理由は簡単。アンタがアホだからさ。」
梶井「ダァンッ」
与謝野「ぐぁっ…!」
梶井「スッ参考になる意見をどうも。ゴロン」
与謝野「…!」
梶井「多量出血で死んだ後も脳と意識は8時間生きてるそうだ。後で君の死体に聞いてみるよ。ガチャッ『今、死んだんだけどどんな気分?』ってね。それじゃ、ごゆっくり〜♪バタンッ」
与謝野「ガシッギッ」
ドオッ
〜後部〜
芥川「ゼェ、ゼェ」
泉「コツコツ」
芥川「!」
芥川(僕はここで死ぬのか…また僕の所為だ。僕と同じ電車に乗った、ただそれだけの所為で…皆死ぬ。)
『君は生きてるだけで周囲の人間を損なう。』
『貴様は何故生きている?周囲に迷惑と不幸を振りまき、何一つ成し遂げぬ者が』
『僕は…』
『誰も救わぬ者に生きる価値などない』
隣の車両には沢山の人がいた。心配そうにこちらをみてる。泣いている人、神に頼む人もいる。
芥川(その時、唐突にある発想が浮かんだ。)
芥川「ヨロッ」
芥川(莫迦げた発想だ。でも、頭から離れぬ。もし、万が一僕が乗客を無事に家に帰せたのなら…さすれば僕は生きていても良いという事に成らぬだろうか。)
泉「来ないで」
芥川「すまぬがもう無理だ。ダッ」
夜叉白雪「チャキッザッ」
芥川「ヒュッピッコホッ」
芥川(速すぎる…やっぱり、無理か。せめて今、力があれば…)
?「ガキィィンッ」
泉「…!」
〜前部〜
梶井「さーてガチャッ」
シュゥゥゥウ
梶井「中まで火が通ったかなぁー?おっ」
与謝野「カッドコッ」
梶井「ピシィィドシャァァッ」
与謝野「んーイマイチだねェ。もっと呼ぶかと」
梶井「はがっ…な、何故」
与謝野「あんなネズミ花火で死ぬもンか。あー今殴ったのどっち側だっけ?」
梶井「スッ」
与謝野「ゴッこれで平等だ」
梶井「そんな…さっきまで瀕死だったはず…」
与謝野「こう見えて妾は医者でね。アンタの百倍は死をみてる。死とは何かって?教えてやるよ。死は命の喪失さ。妾達医者が凡百手を尽くしても患者の命は指の間からこぼれ落ちる。〝死が科学の究極〟だと?巫山戯るな!グッ命を大事にしない奴はぶッ殺してやる」
梶井「お、思い出した…探偵社の専属医、与謝野。極めて希少な『治癒能力者』だと」
与謝野「私の能力『君死給勿』は凡百外傷を治癒させる。自分の怪我だってこの通り。ただ条件が厳しくってね。瀕死の重症しか治せないのさ。これが実に不便でねェ何しろ…程々の怪我を治そうと思ったら、まずは半殺しにしなくちゃならない。ゴソッ」
梶井「な…」
与謝野「…おやァ?怪我してるねェ治してやろうか?君死給勿」
梶井「ひっゾッひぎゃあああぁぁ」
〜後部〜
芥川(これは…)
夜叉白雪「ガガガガガガ」
黒獣「バッ」
夜叉白雪「ザッキンッ」
芥川「サッ」
黒獣「ドッ」
自分の外套が黒獣へ変化する。それは夜叉白雪の攻撃を喰い攻撃へ転じた。夜叉白雪は刀を落とした。その、次の瞬間
芥川「終わりだ」
泉「…」
芥川「この能力を止め、爆弾の在り処を示せ。」
泉「私の名は鏡花。35人殺した。一番最後に殺したのは三人家族。父と母と男の子。夜叉が首を掻っ切った。グッ」
芥川「…何ということか。貴様は、何者だ?言葉からも君自身からも何の感情も感じない…まるで、、」
芥川(一昔前の自分のようだ。かろうじて、人を殺したことはない。ただ、何も感じぬ…)
芥川「…殺戮機械だ。望みがあるなら言葉にせねばならぬ。こんな事が貴様の本当にしたい事なのか?」
泉「…」
与謝野『こちら車掌室。芥川まだ生きてッかい?』
芥川「与謝野先生!」
与謝野『こっちのヘボ爆弾魔によるとそっちの爆薬は遠隔点火式だ!間違った手段で解除するとドカン!そうだな?』
梶井『ふぁい…ほうれふ…←鉈で何度か解体された』
与謝野『解除するには非常時用の停止釦しかない!そっちのマフィアが持ってるはずだよ!』
芥川「貴様が持ってるのだな?渡せ…」
泉「ジッ…スッ」
芥川「カチッ」
泉「ピッ」
中島『それを押したんだね、鏡花ちゃん。』
ビィィィィイ
泉・芥川「!?」
中島『解除なんて要らないよ。乗客を道連れにしてマフィアへの畏怖を俗衆に示して。』
ビービービー
芥川「なっ…っ」
芥川(数秒で爆発…!)
芥川「爆弾を外せ!」
泉「間に合わない。ドンッ」
芥川(細い腕に押されたとき、僕は漸く気がついた。彼奴の能力はいつも携帯からの声で動いていて、一度だって彼奴の為に動いていない。…どうして、気づいてやれぬかったのだ!彼奴は自分の能力を自分で操れぬのだ)
『望みがあるなら言葉にせねばならぬ。』
泉「私は鏡花。35人殺した。もうこれ以上人、一人だって殺したくない。フッ」
芥川「ダッ間に合え!羅生門!」
黒獣「グオォォオガシッブチッブチブチブチッ」
ピッドオォォッザパァ
与謝野「芥川!…くそッ!ダッ」
芥川「ケホッゴホッゴホッ」
泉「かはっ…は」
芥川「ほっ…ゴホッゴホッゲホッゴプッ」
泉「あ、あの」
芥川「ゴホッゴホッフラッ」
泉「…ツーツー」
〜???〜
中島「ピッいくら強くとも駒は駒か。ドスッ貴方はどうですか?駒か、或いは…」
そう云う先には鎖に繋がれた中原の姿があった。
〜事務所〜
その後、与謝野さんに発見され、瀕死の芥川はその場で治療された
国木田「また面倒を持帰ったな。蓄電池は抜いてある。ヒョイッ」
芥川「…もっと、早く気づけてれば」
国木田「パラッ気にするな。お前に出来ることはない。あれは手遅れだ。あの娘は界隈では名の通った暗殺者だ。容姿で油断させ敵組織ごと鏖殺する。だが、急激に戦果を挙げすぎた。顔が知れて捕まるのは時間の問題だ。」
芥川「然り…悪いのは彼奴の異能を利用してる奴なのだが…」
国木田「異能が当人を倖せにするとは限らん。お前なら知ってるだろう。」
銀「ガチャッ兄さん、目覚めたよ。」
芥川「大丈夫か?」
銀「ここは探偵社の医務室です。具合はどうですか?」
泉「…」
国木田「娘、黒幕の名を吐け。」
泉「…」
国木田「マフィアの部隊は蛇と同じだ。頭を潰さん限り進み続ける。答えろ。お前の上は誰だ。」
芥川「国木田さん…」
泉「…橘堂の湯豆府。」
銀「豆府…?」
泉「美味しい。」
銀「…?」
国木田「食わせろと云うことか?」
泉「食べたら話す。」
芥川「…」
国木田「…」
銀「兄さん?食べさせてあげればどうです。」
芥川「ぎ、銀…」
国木田「頼んだぞ…」
芥川「う…はぁ、わかった。」
〜橘堂〜
泉「モグモグ」
国木田「ズズッ」
芥川「…」
銀「に、兄さん…すみません。こんなに高いとは知らずに…ヒソッ」
芥川「いや、いいんだ。これも探偵社の為だ…ヒソッ」
泉「おかわり」
芥川「…ビクッ」
国木田「それで?」
泉「両親が死んで孤児になった私をマフィアが拾った。私の異能を目当てに。『夜叉白雪』はこの電話からの声だけに従う。スッだからマフィアは」
国木田「それを利用して暗殺者に仕立てた、か」
銀「じゃあ、携帯電話を捨てては如何でしょう?」
泉「逆らえば殺される。それに、マフィアを抜けても行く処が無い。」
国木田「電話で夜叉を操っていたのは誰だ。」
泉「…中島と云う男。」
国木田「…そうか。」
国木田「俺は社に戻って報告する。芥川。娘を軍警に引き渡せ。」
芥川「…!そのようなことをすれば…」
国木田「35人殺しならまず死罪だな。だが、マフィアに戻しても裏切り者として刑戮される。」
銀「そんな!」
国木田「ならお前らが助けるか?」
芥川「…」
国木田「極刑の手配犯でマフィアの裏切り者。その不幸を凡て肩代わりする覚悟がお前らにあるか?」
銀「それは…」
芥川「…」
国木田「芥川、銀。不幸の淵に沈む者に心を痛めるなとは云わん。だがこの界隈はあの手の不幸で溢れてる。」
芥川「…」
銀「…っ」
国木田「お前らの舟は一人乗りだ。救えない者を救って乗せれば…共に沈むぞ。」
芥川(ならば…中原さんはなぜ僕達を助けたのだ?)
〜ポートマフィア〜
中原「〜〜〜♪ジャラッ」
中島「…コツッシャキビュンッ」
中島が思いきり投げたナイフは中原の顔の真横に突き刺さる。中原は動じず、鼻歌を続けている。中島は一瞬で間合いを詰め、虎化した腕で襲いかかる。
中島「ヒュンッガッドスッ」
中原「あぁ、手前居たのか。ズゥゥゥン」
中原に触れた瞬間、中島の腕は重力によって弾かれる。
中島「ここに繋がれた人がどんな末路を辿るか…知らない貴方ではない筈でしょう?」
中原「懐かしいな。手前が新人の時を思い出すぜ。」
中島「貴方の罪は重いです。突然の任務放棄、そして失踪。その上、今度は敵としてマフィアに楯突く。とても…とても、元幹部の所業とは思えない。」
中原「そして、手前の元上司の所業とは?」
中島「ゴッ」
中原「ポタッ」
中島「貴方とて不遜不滅じゃない。太宰幹部や、一瞬だけ触れるようにすれば毀傷できる。まぁ、今のは異能で簡単に防げたでしょうが…その気になればマフィアは何時でも貴方を殺せる。」
中原「そうか、偉くなったな。」
中島「…」
中原「今だから云うが、手前の教育にゃ難儀したよ。豆府のヘタレ精神だし、感情任せで動きが単純だし、おまけに異能を自分じゃ操れねぇし!」
中島「…!貴方の虚勢も後数日ですよ。数日の内に探偵社を滅ぼし狂犬を奪う。貴方の処刑はその後です。自分の組織と部下が滅ぶ報せを切歯扼腕して聞けばいいです。」
中原「出来るかよ、手前に。俺の新しい部下も、武装探偵社も、手前らなんぞより余程優秀だぜ。」
中島「バッゴッ」
〜街中〜
泉「食べすぎた。」
銀「そうですね…チラッ」
『軍警の屯所に連れて行け。娘に感づかれるなよ』
銀(行けば…彼女は死罪です…)
泉「?」
銀「あっいえ、何でもありません。行きましょう。」
泉「どこへ?私をどこへ連れてくの?」
芥川「何処か、腹ごなしに出掛けようと思ってな。何処か、行きたいところはないか?そこまで遠くには行けないが、近くであれば連れて行くぞ。」
銀「私たちも請暇を出しましたし、貴方も外出して遊ぶ事なんて無かったでしょう?私たちがお付き合いしますから今日は、羽を伸ばされてみては如何でしょうか?例えば…何処でしょう…逢引場とかでしょうか?」
泉「…キュッ連れてってくれるんでしょ。」
「あそこのクレープ屋凄く美味しいんだよー」
「え〜っ一口食べさせてよ!」
泉「じーっ食べたい」
銀「先刻あれだけ…」
泉「べつばらキリッ」
芥川「銀と二人で食べてこい。」
銀「兄さん!私まで悪いですよ。」
芥川「いや、いい。」
銀「…では、お言葉に甘えて。」
そこから、色々な場所、食べ物を巡った。
芥川「コホッ」
泉「もう一つ、行きたいところがある」
芥川(すごい行動力だ…)
銀(大切な目的地を忘れてる気がしますが…)
泉「あそこスッもう十分、楽しんだから。」
銀「でも、捕まれば貴方は死罪で!」
泉「マフィアに戻っても処刑される。それに…35人殺した私は生きてることが罪だから。」
芥川「ーー!」
中島「ビュンッ」
芥川「ガハッ」
銀「ぅ゙…」
中島「処刑?処刑なんてしない。君は任務を為果せた。」
泉「あ…」
軍警「おい!何をしてる!」
キィィィイ
黒服「ドドドドドドドドドドドド」
中島「君の任務は『餌』だよ。君には発信機が埋め込んである。居所は筒抜けだよ。」
キキキ…
中島「フッ」
芥川「ドシャァッケホッ」
中島「帰るよ。」
バタンブロロロロ
芥川「うっ…ズキッ」
芥川(ここは…移動してる?何だこの音は…)
ゴウンゴウン
〜事務所〜
国木田「芥川が…攫われただと?」
銀「ゲホッカハッはい…」
国木田「取り敢えず、銀は与謝野さんに治療をしてもらえ。谷崎も情報を掴んだようだからな。」
谷崎「は…はい」
国木田「く…選りによって今か。先刻入った省庁幕僚の護衛依頼のせいで社は上を下への大騒ぎだ。捜索に割ける人手がいない。芥川の行先は掴めてるのか?」
谷崎「目撃者に拠ると白昼の路上で襲われて貨物自動車に押し込まれ…その後の行方は杳として…」
国木田「…拙いな。その情報の確認を与謝野さんを通して銀に正確かを確認を取ろう。連中は独自の密輸ルートを無数に持っている。人一人誰の目にも触れず運ぶ位、造作もない。」
谷崎「何とか助けないとこのままでは…」
江戸川「助ける?なんで?」
国木田・谷崎「…!」
江戸川「彼が拐われたのは狂犬とか懸賞とか、つまり個人的な問題からでしょ?ウチは彼専用の養護施設じゃないし、彼も護って貰うためにウチに入った訳じゃない。」
谷崎「でも、芥川君は探偵社の一員で」
国木田「…乱歩さんの云うとおりだ。俺達が動くのは筋が違う。」
ナオミ「…」
江戸川「警察に通報したら?」
国木田「芥川は災害指定獣として手配中です。自体が露見すれば探偵社も側杖を。」
谷崎「でも!何か、しかるべき理屈を作れば」
ナオミ「あのぉー殿方の大好きな筋とかべきとかを百年議論して決めても良いのですけど…代わりにこの方は如何?」
国木田・谷崎・江戸川「社長!?」
国木田「申し訳ありません。業務が終了次第、谷崎と情報を集めて…サッ」
福沢「必要ないスッ全員聞け!新人が拐(かどわ)かされた。全員追躡に当たれ!無事連れ戻すまで現業務は凍結とする!」
全員「凍結!?」
国木田「しかし、幕僚護衛の依頼が…」
福沢「私から連絡を入れる。案ずるな。小役人共を待たせる程度の貸しは作ってある。」
江戸川「社長〜いいの、本当に?」
福沢「…何がだ乱歩」
江戸川「何ってそのーその理屈でいけば」
福沢「仲間が窮地、助けねばならん…それ以上重い理屈がこの世に有るのか?」
江戸川「おず…」
福沢「国木田」
国木田「はい」
福沢「3時間で連れ戻せ。」
国木田「はい!」
〜ポートマフィア〜
中原「…ふぁぁ」
中原(予想があってりゃ今頃あっちも…)
中原「…ジャラ頃合いか」
太宰「相変わらずの悪巧みかい?中也コッ」
中原「げ…その声は」
太宰「ザッこれはこれは、最高の眺めだね。百億の名画にも勝るよ。」
マフィア幹部
___太宰治…能力名『人間失格』
___________ニンゲンシッカク
中原「げっ…最悪。うわっ最悪だ。二度と手前の声なんて聞かねぇと思ってたのに…!そのせいか吐き気までするぜ…」
太宰「いい反応してくれるじゃないか中也。嬉しくて縊り殺したくなる。」
中原「いつからお前はそんなサイコパスになったンだよ。」
太宰「わぁ黒くてちっちゃい人がなんか喋ってる。てか、帽子変えたんだね。前から疑問だったのだけどその恥ずかしい帽子どこで購うの?」
中原「ケッ言ってろよ、放浪者。いい年こいてまだ自殺がどうとか云ってんだろどうせ。」
太宰「うん」
中原「否定する気配くらい見せろよ…」
太宰「今じゃ君は悲しき虜囚。泣かせてくれるね、中也。否、それを通り越して…少し怪しいね。丁稚の敦君は騙せたって僕は騙せないよ。何しろ僕は君の相棒だからね。…何をするつもりだい?」
中原「何って…見たまんまだろうよ。捕まって処刑待ち。ジャラ」
太宰「あの中也が不運と過怠で捕まる筈がない。そんな愚図なら私の相棒は務まらない。」
中原「考え過ぎだ。心配性は禿げんぞ。」
太宰「それは中也のほうでしょ?僕が態々ここに来たのは君と雑談する為じゃないよ。」
中原「じゃ、何しに来たんだよ…」
太宰「嫌がらせさ。昔みたいに良い反応をしてくれ給え。パンパンッ」
太宰が撃った弾丸により鎖が切れる。
太宰「君がなに企んでるのか知らないけど、これで計画は崩れたよ。僕と戦え、中也。君の腹の計画ごと叩き潰してあげる。」
中原「太宰。バキッ手前、いつからそんな戦闘狂になったンだよ?敦も手前の影響か。」
太宰「まぁ、そうだよねぇ。この程度の鎖じゃ異能を使わずとも何時でも逃げられたってわけだ。良い展開になって来たじゃないか。ダッ」
〜探偵事務所〜
江戸川「あ゙〜…グデッ」
国木田「市内の監視映像を洗え。6時間位内凡てだ!」
江戸川「んあー…」
国木田「賢治、商工会の管理台帳は?」
江戸川「はぁー…パラッあ、駄目だ。これには4コマ漫画載ってないや。」
国木田「すまん。」
江戸川「賢治くん。近所にいい感じの殺人事件無いか調べてくんない?」
宮沢「いいですけど…後で社長に怒られますよ。」
江戸川「ビクッ…やっぱり良い」
国木田「社長!ダッ」
福沢「コクッ」
国木田「誘拐を目撃した銀が撮影したものです。」
福沢「有触れた型だ。」
国木田「はい。車体番号も偽装でした。しかし横浜でこの手の偽装業者となると限られます。心当たりの修理業者に賢治が当たったところ快く教えて貰いました。貨物自動車の所有者はカルマ・トランジット。密輸業あがりの運び屋です。」
福沢「其奴らに聞けば輸送先が判る、か」
国木田「コクッはい。組織外で誘拐の全貌を知るのは此奴らしか居ません。谷崎が調査中です。」
〜アジト付近〜
谷崎「これから潜入します。」
国木田『様子は?』
谷崎「湖の底みたいに静かです。それどころか、人の気配一つ…ハッダッバタン…やられた」
〜事務所〜
谷崎『先手を打たれました。』
国木田「おい、どうした」
谷崎『口封じに…全員殺されています!』
国木田「…!中島だ…糞っ」
与謝野「どうすンだい?唯一の手掛かりが」
国木田「くっ…」
福沢「乱歩。出番だ。」
江戸川「…やんないと駄目?」
国木田「乱歩さん、ここはどうか…」
福沢「乱歩、若し恙無く新人を連れ戻せたら…」
江戸川「特別賞与?昇進?結構ですよ。どうせ…」
福沢「褒めてやる。帰って来るであろう中原も一緒に。」
江戸川「そ…そこまで云われちゃしょーがないなあー!シュピッ〝超推理〟…!」
江戸川「…芥川君が今いる場所は…ここだ。」
全員「海!?」
江戸川「速度は東南東に20節。公海へ向け進んでる。死んではない、今はね。」
福沢「船か…!輸送先は外国か」
国木田「拙い…国外に運ばれたら手の出しようがない」
福沢「港に社の小型高速艇がある。今出せば間に合う。ピシッ」
国木田「パシッ…ダッ」
〜ポートマフィア〜
太宰「ドッバッガガガ」
中原「パシッほいよっドッ」
太宰「あの君が背負投げ?笑わせてくれるね。クルッバッガガガゴッ」
中原「ザザザッほぉ…手前の格闘術はマフィアでも中堅以下だったのになァ」
太宰「ふっ立ち給え。招宴は始まったばかりさ。」
中原「やるようになったじゃねぇか。シュッ防御した腕がもげるかと思ったぜ。コキッ手前とは長ぇ付き合いだ。この程度の成長に遅れを取ったりしねぇ。でなきゃ、相棒は務まんねぇんだもんなァ?」
中原(疾い!)
太宰「ダッなら、この攻撃も読まれてるんだろうね!ゴッ」
中原「グラッズザザザザッ」
太宰「マフィアきっての体術使いが、落ちぶれたものだね!ドゴッ」
中原「ガハッ」
太宰「ガッ遅れを取らないのじゃなかったかい?」
中原「ギッ…ぐっ…」
太宰「ピッおしまいだよ。最後に教えてくれ給え。態と捕まったのは何故だい?獄舎で何を待っていた。」
中原「…」
太宰「だんまりかい?いいさ、拷問の楽しみが増えるだけだ。君も知ってるだろう?僕は…」
中原「…一番は芥川についてだよ。」
太宰「芥川?」
中原「手前等がご執心の狂犬だ。彼の為に70億の賞金を懸けた御大尽が誰なのか知りたくてよ。」
太宰「身を危険に晒してまで?泣かせてくれる話じゃないかい…と云いたいがその結果がこの態じゃあね。麒麟も老いぬれば駑馬に劣るってことかい?『歴代最強最小幹部』さん。」
中原「最小は余計だ!俺からしてみりゃ、たった70億にそこまで執着したり、少女を暗殺者に仕立て上げる手前らをみてると疑問に思うけどな。なんだ、人手不足なのか?」
太宰「ふっ運にも見放されたようだね。なんせ僕が西方の小競り合いを鎮圧して半年ぶりに帰ったその日に捕縛されるんだからね。僕からしたら幸運だったけどね。」
中原「…ははっははははっ」
太宰「何がおかしいんだい?」
中原「嗚呼、良いことを教えてやろう。明日、五大幹部会議がある。」
太宰「五大幹部会議?莫迦云わないでくれ給え。君も一度だけ出たことがあるだろう。知っての通りあれは数年に一度組織の超重要事項を決定するときだけ開かれる会だ。あるならとっくに連絡が…」
中原「理由は俺が先日、組織上層部にある手紙を送ったからだ。予言してやるよ。手前は俺を殺さねぇ。どころか、懸賞金の払い主に関する情報の在処を俺に教えた上でこの部屋を出ていくだろうな。それも動きのうざい厨二病言葉でな。」
太宰「はぁ?僕が中也の掌の上で転がせる訳無いだろう?」
中原「喜べ、今日のためだけに緻密に計画を練ったんだよ。もしくは、わかったうえでこの茶番に付き合ってるか…どちらにせよ笑えるなァ太宰。」
太宰「この状況からどうやって?」
中原「まァこれが成功しようがしまいが、おりゃここから出れるぜ?勝った気になってる様だが、この状況から脱出して、欲しい情報を持って帰るなんざ朝飯前だ。落ちぶれた?莫迦云うな。俺はここを抜けたあの日から、あの日以前より倍鍛えてんだ。手前程度を蹴り殺すなんざ朝飯前だ。」
太宰「ほう、まぁ君は頑丈だからねぇ…そういえば手紙って?」
中原「手紙の内容はこうだ。『中原中也、死歿せしむる時、汝らの凡ゆる秘匿、公にならん。』と送ってやった。」
太宰「…!真逆、君…」
中原「元幹部で裏切り者の俺を捕縛した。だが、上層部に『中原中也が死んだら組織の秘密が全部バラされる』っいう手紙までついてきた。検事局に渡ればマフィア幹部全員、百回は死刑にできる。幹部会を開くには十分すぎる脅しだろ?」
太宰「そんな脅しに日和るほどマフィアは温くない。君の死刑は、免れないよ。」
中原「だろうな。けど、それは幹部会の決定事項だ。決定より前に俺を勝手に私刑にかければ独断行動で背信問題になんだろ。罷免か、最悪処刑だ。」
太宰「そして…僕が諸々の柵を振り切って形振り構わず君を殺しに掛かったって、君はさっさと逃れると。殺せたとて、別に大した嫌がらせにはならないと。」
中原「まぁ、手前の場合、それじゃあ大してダメージを受けないと、森さんが特別な辱めに合わせてくれると思うぜ?まぁ、やりたきゃやりゃあいいんじゃねぇの?いつも、マフィア時代に着てた服を届けに来る、最小年幹部様〜」
太宰「ホントに死ねばいいのに…はぁ、最悪だ。ホント、最悪。」
中原「やめんのか?俺のせいで組織に追われる太宰も見物だったんだがな。」
太宰「チッ…二番目の目的は僕に今の最悪な選択をさせることだったってことね」
中原「そうだ。」
太宰「僕が嫌がらせしにきたんじゃなく…実は君こそが嫌がらせをするために僕を待ってたってことね…」
中原「久しぶりの再会だ。この位の仕込みがなきゃ驚かねぇだろ?まぁあの頃の手前の嫌がらせは芸術的だった。敵味方問わずさんざ弄ばれたモンだ。だが、そう云うなはな、いずれ十倍で返されんだよ莫ァ迦。」
太宰「はぁ…絶対、殺す。てか!服届けてるの僕じゃないから!」
中原「はいはい。もう一仕事だ。鎖を壊したのは手前だ。このまま俺が逃げりゃ手前が逃亡幇助の疑いがかかるぞ?まァ、手前がさっきの事話すンなら、探偵社の誰かが助けに来たふうに偽装してもいいぜ?知っての通り、おりゃぁこういう取引じゃ嘘をつかねぇ」
太宰「ホント…君、4年間も僕のこと考えて生きてたの?はぁ、君の予想通り、敦くんが仕切ってて二階の通信保管所に記録を残してるはずだよ。…用を済ませて消えてくれない?今最高に不機嫌なのだよ。せっかく疲れた体に鞭打ってここまで来たのに、ちっとも良い反応してくれない。まぁ、これで終わると思わないでくれ給え。二度目はないよ。」
中原「ちげぇちげぇ。何か忘れてねぇか?」
太宰「サッ…フッ、再び闇が降りてきたその時は、お前の生命、無きものとなるだろう。ダッ」
中原「….プルプル」
太宰「せめて笑うならもっとちゃんと笑ってくれない?はぁ最悪だ。ゴゴゴゴゴ」
中原「はぁ〜お前だろうよ。死ぬのを彼奴に止めさせたのは。」
太宰「さぁね。なんのことだか。因みに君に蹴り殺されたとて今は嬉しくないよ。今は美女と心中することが目標だから。」
太宰(嗚呼、ホントに憎らしい。こんなにも光が似合うなんて。)
中原「じゃあ心中希望の美女探しといてやるよ。」
太宰「中也!君って実はいい人だったのかい?」
中原「莫ァ迦…さっさと死ねって意味だよ。ホント最悪だ。」
〜船〜
ゴウンゴウン
泉「キィィ来て」
芥川(僕を助けに…?)
泉「フラッ」
中島「ガッズルズルヒュッ」
芥川「!?バンッ」
中島「ドッ」
芥川「ぐっ!」
中島「殺す積りで刺したけど…不完全ながら黒獣の能力が資されてるね。」
芥川「此処は…海?」
中島「密輸船だよ。武器弾薬の類を運ぶね。今日は君の為に貸切だけど。引き渡しまでもう数刻もないよ。人生最後の船旅を楽しむんだね。狂犬」
芥川「断…る…」
中島「ツウッメリミシッ」
芥川「ぐ…がっ…ゴホッ」
中島「君の意志なんて知らないよ。弱者に身の振りを決める権利なんて無い。」
芥川(此奴と戦い…勝てる訳などない!隙を見つけ逃げねば…探偵社の助けが来るまで何処かに隠れねば…)
中島「弱者は死ね。死んで他者に道を譲って」
芥川(何だ?これは…敵意?)
泉「チャキッ」
中島「武器庫から持ち出したか」
泉「彼を逃がして」
中島「外の世界に触れて、心が動いたの?ガチャンッ」
泉「…!」
中島「どん底を知ってるかい?其処は光なんて差さない、無限の深淵さ。有るのは汚泥、腐臭、自己憐憫。遥か上方の穴から時折人が覗き込むけど誰も君には気付かない。一呼吸ごとに惨めさが、肺を灼く。外で君を待ってるのはそれだよ、鏡花ちゃん。〝夜叉白雪〟は殺戮の権化。そんな君がマフィアの外で普通に生きると?狂犬、教えてあげたら良い。誰にも貢献せず、誰にも頼られず、泥虫のように怯え、隠れて、生きるのがどういう事かを。」
芥川「…っ」
中島「殺しを続けて、鏡花ちゃん。マフィアの一員としてね。じゃ無ければ、呼吸しないで。無価値な人間に呼吸する権利なんて無いよ。」
泉「…そうかもしれないポソッでも、クレープ、美味しかった。」
ゴオォォォオ
国木田「芥川ァ!」
芥川「国木田さん…!」
中島「もう嗅ぎつけたの、探偵社。纏めて斬り刻んで…」
泉「ガシッ今の内に逃げて。この船は取引場所へはいかない。」
中島「なら、何処に行くの?」
泉「どん底カチッ」
ドォッ
中島「!」
芥川「…ッコホッ」
中島「まさか、武器庫の爆薬を…!自決するつもりなの!?」
芥川「貴様…!」
泉「逃げて!」
国木田「芥川!沈むぞ、来い!」
芥川「タッ」
中島「チッガッ」
泉「…ッ!」
国木田「芥川!ここだ!爆発のせいでこれ以上近づけん!跳べ!」
芥川(助かる…これで僕は)
国木田「何してる阿呆が!船が沈むぞ!」
芥川「…」
国木田「この怒阿呆!どれだけ社に迷惑を掛ける気だ!社員全員の只働きだぞ!早く乗れ!」
芥川「彼奴は…」
国木田「あの娘は諦めろ!善良な者が何時も助かる訳では無い!俺も何度も失敗してきた!そういう街でそういう仕事だ!」
芥川「彼奴は…助からない?」
国木田「そうだ!俺達は超人ではない!そうなら善いと何度思ったか知れんが違うんだ!」
芥川「彼奴は…銀とクレープを食べた。『美味しかった』と。無価値な人間に呼吸する権利はないと云われて…彼奴は『そうかもしれない』と。僕は違うと思うた!何故なら、中原さんは…探偵社は僕達を見捨てなかった故!僕…行ってきます!」
国木田「おい!…走れ芥川!」
中島「鏡花ちゃん、それが君の選んだ道か。是迄の労を酬いて楽に殺してあげる。死ね。」
芥川「ザッ」
中島「…!シュゥゥ」
芥川「勝負だ…中島敦」
中島「今となっては奇異な事だけど…君とは孰れこうなる気がしてたよ。」
芥川「ソッ懸賞金を取りっぱぐれるぞ。」
中島「気にしないで。最早君を生かして渡す気なんて無いから」
芥川「貴様は許せん」
中島「僕だって同じだよ」
ボォッドッ
中島「月下獣シュッガガガガガガガガ」
芥川「羅生門ベリッヒュッ」
中島「ガキンッ」
芥川「スッ羅生門!ゴッ」
中島「ガキンッ」
芥川「!?」
芥川(前に銃弾さえも切った虎の腕…うまいこと攻撃を当てねば…)
中島「ガッガシッその程度かい?狂犬」
芥川「コホッ…」
中島「嫐る趣味は無いんだ。一撃で首を落としてあげる。」
芥川「…」
中島「呪うなら自分の惰弱さを呪うんだね。君は探偵社と云う武装組織に属したから、自分が強いと錯覚しただけの弱者だよ。その探偵社へも偶然と幸運で属しただけさ。」
芥川「…今日は随分良く喋るな」
中島「…無口と申告した覚えは無いけど」
芥川「…貴様の言う通り、僕は弱い。だが、一つだけ長所がある」
中島「なに?」
芥川「貴様を倒せる!ビョォッスッ」
中島(羅生門で僕の腕を切った!)
中島「シュッ」
芥川「ピッスッダッガッガッガッ」
中島「ヒュンッチッ」
芥川(このまま隙を与えぬように攻撃出来れば、相殺出来ず押しきれる!)
芥川「ガッスカッ」
芥川(上か!)
中島「もう、飽きちゃった。餓鬼の殴り合いには付き合えない。もう終わらせる!ガッ」
芥川「メリッボキッガッ」
芥川(しまっ…)
ドォォッ
中島「…」
中島(完全に没するまで5分も無いな…脱出艇を動かさないと)
中島「!?」
芥川「羅生門!」
中島(あの爆発を受けて無傷…!どうして…!)
中島「ゴォッゲホゲホッ」
中島『ガンッパラッ』
中原『ん〜やっぱり能力発動が遅いな』
中島『ぐっ…』
中原『敵は手前が起きるのを待ったりしねぇぞ。まだ出来んなら立て。異能で反撃しろ!』
中島『ぐっうわああああヒュンッ』
中原『サッズゥゥン』
中島『…!』
中原『ダッゴッまだまだだな。まだだ、その程度では組織では生き残れねぇ。やっと異能の制御が効くようになったばかりだから仕方ねぇが…もう、明日の寝床も知れないような野良猫として生きたくないだろ。きつかもしれねぇが、しっかりできりゃまたどっか連れてってやる。がんばれそうか?』
中島『ヨロッ』
中原『よぉし、もう一回だ』
芥川「…。」
芥川(流石に傷を受けすぎた…早く彼奴を国木田さんの処に連れてかないと…)
中島「ヒュンッガ」
芥川「ガッガハッ」
中島「なんで…なんであんたなんだ!」
芥川「…!」
中島「ザッゴッ」
芥川「ドオッゴホッ」
中島「あんたの異能は所詮、身につけて幾許もない付け焼き刃。欠缺ばかりで戦術の見通しも甘い。なんであんたなんだ!」
芥川(まただ…この憎悪は一体…)
中原『そこまでだ』
中島「…云わせない」
中原『俺の新しい部下や探偵社は手前らなんぞより余程優秀だぜ。』
中島「あの人にあんな言葉、二度と云わせない!カ」
芥川「ガッガハッ」
芥川(力が…強い!逃げれぬ!)
中島「ガッザシュッゴッ」
芥川「ガハッドサッ」
中島(此奴を倒したところで…)
中島「スッ」
芥川「ピクッ待…て…」
中島「どうして…バッ」
中島(完全に入った。動ける筈が)
芥川「貴様は、こんなに強いのに、どうして…彼奴を利用したんだ」
中島「…夜叉白雪は殺戮の異能。他者を殺す時だけ、鏡花ちゃんは強者なんだ。人を殺さないと無価値。利用じゃないよ。僕は鏡花ちゃんに価値を与えただけだよ、生きる価値を。」
芥川「それだ…誰かに生きる価値があるか無いかを貴様判断するな。」
中島「ヒュンッガシュッ」
芥川「ガシッ何故、彼奴にもっと違う言葉をかけてやれなかったのだ。ドスッ」
中島「ザッガ」
芥川「人は誰かに『生きてて良い』と云われねば生きていけぬのだ!そのような簡単なことが何故判らぬのだ!ザッ」
中島「ギッダッ」
芥川「羅生門!ザッ」
中島「ピシッ」
中島(攻撃が…届かない!)
中島「ガッザッ」
中島(此奴は離れると拙い。常に近接戦へ持っていないと)
中島「月下獣…ダッザクザクザシュッ」
芥川「ガッガハッウッダッ」
芥川(罠か!)
中島「ダッピョンッピョンッバッ」
中島(其の儘落ちゃえ!)
芥川「グッ」
中島「ガクッ」
中島(クソっ!黒獣だ…下手に動けば喰われる!)
中島「異能を切れば…!」
芥川「空間断裂!」
中島「なっ!爪がつく一瞬だけ…!」
中原『俺の新しい部下や探偵社は、お前らなんぞより余程優秀だぜ』
芥川「ガッガガガガガガガガガコッ」
中島「ドッザパッ」
芥川「フッドォッ」
泉「パシッザッ」
ドォッ
泉「ガクッ!ビョォオオ」
ザッドサッ
国木田「この大馬鹿野郎!よくやったぞ!」
ブォォォオ
〜ポートマフィア〜
中原「コツッチャッピピピピガチャッあ゙〜却説(さて)と」
中原(七十億も支払って犬を購おうとしたっていうのは何処のどいつだァ?)
中原「ピタッ」
中原(こいつ等は…!)
〜船〜
?「…時間だ。島国の田舎マフィアめ。約束の時間も守れないとはとんだはんちくだな!聞こえたか?懸賞金作戦は失敗。どうしたものだか…」
〜豪華な家〜
?「どうぞお好きに。わたくし達が手を汚すほどの相手ではありませんもの。」
〝時計塔の従騎士〟近衛騎士長
_____デイム・アガサ・クリスティ爵
__能力名…『そして誰もいなくなった』
________And There Were None
〜地下〜
?「ガリッ全て予想の通りです。いずれにしても、ぼくたちは勝手にやらせてもらいますよ。ガリッ神と悪霊の右手が示す通りに」
地下組織〝死の家の鼠〟頭目
__フョードル・ドストエフスキー
___________能力名…『罪と罰』
_____Преступление и наказани
〜船〜
デイム『ご機嫌よう』
フョードル『…ではまた』
ブツッ
?「ち…協調性のない貧乏人どもめ。まあいい2番手が利益に与れる道理は何も無い。」
能力者集団〝組合〟団長
__フランシス・スコット・キー
__________フィッツジェラルド
能力名…『華麗なるフィッツジェラルド』
___The Great Fitzgereld
フランシス「『約定の地』は我らが組合が必ず頂く。」