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翌日。
俺はいつもよりちょい早めに学校に来た。
別にやる気出したわけじゃない。
ただ、落ち着かなかっただけ。
「図書室って、何時からだっけ……」
スマホで時間確認しながら廊下を歩く。
事故。
三年前の秋。
紫苑。
頭の中で単語がぐるぐるしてる。
◇
図書室のパソコンで、校内新聞のバックナンバーを開く。
検索欄に打ち込む。
“事故 校舎裏”
ヒット、一件。
心臓がどくっと鳴る。
三年前、十月。
『本校生徒、校外にて交通事故』
場所――学校裏の道路。
指が止まる。
スクロール。
『放課後、下校中に車と接触。搬送先の病院にて死亡が確認された』
……は?
死亡?
喉がからからになる。
名前の欄を見る。
——空白。
「……なんで」
他の記事はちゃんとフルネーム載ってる。
なのに、ここだけ
『プライバシー保護のため詳細は伏せる』
って、曖昧な書き方。
おかしくね?
◇
「何してんの、いるま」
声に肩が跳ねる。
振り向く。
……いた。
「図書室、静かにしないと怒られるぞ」
「お前な、急に出てくんなって」
「出てきてない。最初からいた」
いや絶対いなかっただろ。
周りを見渡す。
誰もこっちを気にしてない。
司書の先生も無反応。
「なあ」
小声で言う。
「三年前の事故、知ってるよな」
彼は画面を覗き込む。
記事を見て、少しだけ寂しそうに笑った。
「ちゃんと書いてくれなかったんだ」
「“くれなかった”って何」
「いるま、あの日さ」
彼の声が、やけに近い。
「約束、破ったよね」
心臓が止まりそうになる。
「……は?」
「待っててって言ったのに」
指先が震える。
記憶の奥がざわつく。
夕焼け。
紫の花。
泣きそうな顔。
「俺、何した?」
気づけば聞いてた。
彼は答えない。
代わりに、画面の“死亡”って文字を指さす。
「ねえ、いるま」
その目が、まっすぐ俺を見る。
「おれ、誰だと思う?」
ぞくっとする。
「……知らねーよ」
「うそ」
小さく笑う。
「もう半分、思い出してる」
その瞬間。
隣の席の椅子が、がたっと鳴る。
俺は反射的に顔を上げる。
「何騒いでんだ?」
らんが立っていた。
「え?」
「お前、ひとりでブツブツ言ってたけど」
背筋が冷える。
ゆっくり隣を見る。
——いない。
さっきまで、すぐ横にいたのに。
画面には事故の記事だけ。
「……いや、なんでも」
喉がうまく動かない。
らんが去ったあと。
視線を机に落とす。
そこに、紫苑の花びらが一枚。
図書室に、花なんてない。
指で触れる。
冷たい。
はっきりと、冷たい。
そのとき。
パソコンの画面が一瞬だけ、乱れる。
事故記事の名前欄。
一瞬だけ、文字が浮かんだ気がした。
“———”
読めなかった。
でも。
胸の奥が、痛いほど締めつけられる。
放課後。
俺は決めた。
今日、全部聞く。
逃げねぇ。
たぶん。
もう、逃げらんない。