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雪が残る道を歩くこはると雪斗
「う〜…さむい…」
白い息が漏れる。
「サンタさんにマフラーを貰えてよかったです…」
そう言いながら赤いマフラーに鼻を埋めるこはる。
「俺も、こはるに貰えて無かったらやばかったな」
そう言いながら雪斗も紺色のマフラーに鼻を埋める。
チリン…チリン……
こはるの歩くリズムに合わせて鳴る鈴の音。
「そう言えば……」
少し前を歩くこはるのポケットから揺れる鈴を眺めて、雪斗が尋ねる。
「ん?なんですか?」
振り返るこはる。
「その鈴」
「…これですか?」
そう言ってスマホを取り出し、ぶら下がっている鈴を鳴らした。
チリーン……
「今まではカバンにつけてたよね」
クスッと笑うこはる。
「よく気づきましたね」
「大掃除の時に付け替えたでしょ?さすがにあれだけ鳴ってたら気づくって(笑)」
「なんと…そこまで……」
スマホを高くかざし、
ぶら下がる鈴を優しく眺める。
「……これは……雪斗くんに初めて貰った、大切なものですから……」
「修学旅行の時のね(笑)」
「はい」
雪斗の方に身体を向ける。
「……どうしても、今日、これだけはつけていたくて」
そう言って優しく笑うこはるに、
雪斗は首を傾げた。
チリーン
揺れる鈴の付いたスマホをポケットにしまい、くるりと雪斗の方へ向き直す。
「それにしても……」
「寒いですよね……」
「そうだな」
「手、冷たいですよね……」
「そうだな」
「寒いですね」
「そうだな」
「手、冷たいですね」
「そうだな」
「…………」
「…………もう!!」
地面を足で鳴らす。
それを見て吹き出す雪斗。
「冗談だよ(笑)」
そう言って手を差し出す雪斗。
「意地悪しないでください!」
顔を膨らませながらも、雪斗の手を取る。
「……あったかいです……」
「……ん」
そう言いながら並んで歩き出す。
月の光が――
雪に反射して、揺れる。
「……」
ほんの一瞬だけ、立ち止まり、
月を見上げた。
チリーン
「……もうすぐ……分かっています……」
小さく呟く。
「ん?」
「え?何でもないですよ?」
そう言って神社までの道のりを歩いて行った。
遠くからは、鐘の音が鳴り響いていた。
⸻
神社の下の階段に辿り着く2人。
自然と離れた手。
階段の上を眺めながら…
「この凍った雪の状態の階段を登るのは大変ですね……」
目を細めて言った。
「ゆっくり登ればいいよ」
雪斗は再び、そっと手を差し伸ばした。
「そうですね」
こはるは頬を赤らめて嬉しそうにその手を取った。
一段一段……
「雪斗くん……覚えてますか?初めて会った場所。ここですよ(笑)」
「そうだね」
息を切らしながら……
「年明けの初詣とは言え、夜の雪が積もった階段に、1人で座っているなんて……。どこか具合でも悪いのかとビックリでしたからね?」
「だから……あれは陽向が寝過ごしたのが悪いんだって」
ゆっくりと登って行く……
「いろいろありましたね……」
「そうだな……」
一瞬立ち止まるこはる。
「ほんと……あっという間だったなぁ……」
ぼそっと呟く
「ん?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。いろいろ楽しかったですね!」
「夏にこはるは溺れかけてたけどね」
「あれは溺れていません!」
「はいはい(笑)」
「それに……見ていてくれなかった雪斗くんにも責任はあります!」
「何その暴論」
「ぶー」
ジト目で雪斗を見るこはる。
「でも……本当に楽しかったな……」
最後の一段を登り切る2人。
雪解けの水が反射し、境内をキラキラと輝かせる。
「……そろそろですね」
ゆっくりと手を離し……
チリーン
雪斗の正面に立つ。
「……雪斗くん」
「この1年、本当に幸せでした」
「雪斗くんと一緒に過ごせて……」
「…………」
少しだけ、笑う。
「本当に、楽しかったです」
「……こはる?」
少しだけ眉をひそめる雪斗。
そんな雪斗の目をまっすぐ見つめ、笑って続けるこはる。
輝いている月が少しずつ影に覆われて行く。
「同じ学校にいって、みんなで笑い合って……」
「……こんな時間、過ごせるなんて思っていませんでした」
「……全部……宝物です」
少しだけ、目を細めて。
「それに……お父さんもお母さんも……あの頃と変わらず、優しいまま……」
少しずつ影が広がっていく。
「雪斗くん………いっぱい遊んでくれて……」
「……いっぱい撫でてくれて……本当に幸せだったよ」
こはるの指先がゆっくり透け始める。
「…………」
こはるは泣きながら、それでも笑顔でゆっくりと雪斗の目の前まで歩いて行き、抱きつく。
そして胸に顔を押し付けた。
「あったかい……それに……」
大きく息を吸う
「………大好きな匂い」
雪斗も、泣いているこはるの背中に手を回す。
「……こはる?」
ふっと、首元が軽くなった。
「……?」
無意識に触れる。
――そこには……何も、なかった。
「えへへ〜急にごめんね。でも……もうちょっとだけこのままでいさせて….」
「……」
こはるは大きく息を吸った。
「雪斗くん。8年間………ありがとう」
クスッと笑う。
「やっと………言えた…………」
「こはる….」
雪斗の目からも涙が溢れる。
そして
「雪斗くん」
胸元から顔を上げる。
まっすぐ雪斗を見つめ、
言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開く。
「私、雪斗くんのこと大す」
月の光が、消えた。
あたり一面が一段と暗くなる。
空を切った腕に、一瞬よろめく雪斗。
涙がこぼれていた。
理由は分からない。
それでも――
涙は止まらなかった。
ポケットのスマホが光っている。
その待ち受け画面には、
修学旅行で撮ったはずの写真。
――そこには、
眠っている自分だけが写っていた。