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「みちよ、なにぼけっとしてんだよ」
「和葉くん……えっと……」
みちよと呼ばれた年齢が私とあまり変わらなさそうな女の子は顔を真っ赤にしながら和葉を見た後、ちらりと私の顔を見た。しかし、すぐに逸らされてしまった。
人見知りしちゃう子なのかな。それにしても、この子どこで見たんだろう。
「みちよ、同じ高校のましろ」
「ま、ましろさん……こんにちは……」
声を僅かに震わせながら潤んだ瞳で見つめられる。あんまりにもかわいらしくて、じっと見つめてしまう。
「これ、やる」
先程買ったミニブーケを和葉がみちよちゃん膝の上に置いた。みちよちゃんは目を見開き、硬直している。
「どうしたの……これ、和葉くんがこういうのくれるなんて」
「今日はお前の誕生日だろ」
そっか、このミニブーケは誕生日プレゼントだったんだ。
小さくて可愛らしい向日葵はみちよちゃんによく似合っている。
「覚えてくれていたの……?」
「いつもは武蔵が先に祝うって言い出すだけで、忘れてるわけじゃねぇよ」
和葉がみちよちゃんの頭を軽く撫でた。その表情は優しげで、いつもの無愛想な彼とはかけ離れている。
本当にこの子が大切なんだ。
「おめでとう」
みちよちゃんの大きな瞳が波打つように揺れる。そして、一筋の涙がぽろりと零れ落ちた。
「和葉くん……ありがとう」
眩しいくらいに純粋で穏やかで、とても幸せそうな笑顔だった。
見ているこっちが幸せな気持ちになる。和葉ってこんな一面もあるんだ。つられて微笑んでいると、和葉の視線が向けられた。
「飲み物買いに行ってくるけど。ましろ、何飲む」
「えーっと、ミルクティーで」
「ん」
和葉が飲み物を買いに行ったことによって病室には私とみちよちゃんの二人きりになってしまった。
沈黙が流れて気まずい空気が漂う。
「あ、あの……、和葉くんの」
みちよちゃんは何かを聞きたげに不安そうな眼差しを向けてくる。
「ましろさん、は……かっかか彼女なんですか!?」
「え、みちよちゃんが和葉の彼女なんだよね?」
「わ! か! ええぇえ!?」
顔を真っ赤にしてかなり動揺しているみちよちゃん。
……もしかして、彼女じゃないの?
「わ、私は違うんです。 あの……彼女にはなれないんです」
「なれない?」
「名字は違うんですが……お互い母方が九條の家なので……」
お母さんが九條の家の人。つまり和葉と親戚ってこと?
「じゃあ、潤や歩くん達とも親戚ってことだよね……?」
「あ、はい。歩は私の兄です」
「え! 歩くんがお兄ちゃん!?」
だから見覚えがあったんだ。
みちよちゃんの長い睫毛に守られた大きな目も、薄茶色の髪も歩くんと似ている。
それにしても、みちよちゃんの様子を見ているとまるで……
「和葉のこと、好きなの……?」
「……」
みちよちゃんは顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。女の私から見ても、その仕草はすごく可愛くてきゅんとしてしまう。
「でも……私は」
先ほどまでの照れくさそうな表情からは一変して、みちよちゃんが悲しげな微笑みを落とす。
「もう振られてるんです」
「え……」
「従兄妹という時点で周囲に反対されますし、和葉くんには私のことをそういう対象で見ることはないって言われてます」
和葉がみちよちゃんを振った……?
でも、和葉はみちよちゃんを大事にしているように見えた。
「それでも気持ちをなくすことなんてできなくて……」
みちよちゃんの大きな目が伏せられる。
「お花を貰えただけで、誕生日を覚えていてもらえただけで……こんなに嬉しいなんてっ」
幸せそうで、けれど切なげで大きな瞳からぽろぽろ、ぽろぽろと涙が溢れ出てきている。
「和葉、みちよちゃんに似合う花を選んだんだよ」
「私に似合う花……」
「歩くんのことも向日葵みたいに明るくて眩しい笑顔だなってよく思うんだ。だから、和葉がみちよちゃんに選んだ花が向日葵でやっぱり兄妹なんだなって」
「っ、嬉しいです」
歩くんに向日葵がよく似合うように、みちよちゃんにも向日葵が合っている。
傍にいる人に元気を与えてくれる温かくて眩しい笑顔。
「あの、ましろさん。……学校での和葉くんとお兄ちゃんってどんな感じですか?」
「うーんと、和葉は無愛想で一匹狼って感じかなぁ。でも話すと案外優しかったり、甘党だったりして面白いなーって」
みちよちゃんがクスクスと笑う。
やっぱり笑った顔が歩くんにそっくりだ。
「歩くんは……明るくて頼れる人で、困ったときにいつも駆けつけてくれて……」
私が裏庭で髪を切られた時も、家のことで辛かった時も支えてくれた。守ってくれた。
「私にとって救世主、かな」
自分の口から出てきた言葉に恥ずかしくなってきた。そんな私をみちよちゃんが嬉しそうに微笑みを浮かべながら、見つめている。
「お兄ちゃん、優しいですよね」
「そうだね」
ドアが開かれた音に振り返ると和葉が缶ジュースを三つ抱えて病室に戻ってきた。
「ほら」
「ありがとう」
手渡されたミルクティー。和葉の元にはキャラメルラテが二つ。
和葉はみちよちゃんには何を飲むか聞かなかった。それくらいみちよちゃんことをわかってるってことだ。
きっと私にはわからない二人ならではの関係があるのかもしれない。
大事だけれど、恋人にはなれない。
叶わないと知っていて想い続けることは、どれほど辛いことなのだろう。それでも傍にいることを選ぶということは誰にでもできることじゃない。
可憐で華奢な少女が、強くたくましく見えた。
傍にいたいと強く願うほど誰かを想う日が私にもいつかくるのかな。
海の紅月くらげさん