テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#夢主
そら
255
みゅう

68
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
⸻
「なあ、聞いたか?」
⸻
食堂の片隅。
若い兵士たちがひそひそと話していた。
⸻
「何をだ」
⸻
「リヴァイ兵士長」
⸻
その瞬間。
周囲の耳が少しだけこちらへ向く。
⸻
「兵士長がどうした」
⸻
「〇〇分隊長が入院してた時」
⸻
さらに声が小さくなる。
⸻
「ずっと医務室にいたらしい」
⸻
「は?」
⸻
「四日近く」
⸻
「嘘だろ」
⸻
「見舞いに行った兵士たちが言ってた」
⸻
兵士たちが顔を見合わせる。
⸻
信じられない。
⸻
なにせ相手はリヴァイだ。
⸻
人付き合いが得意とは言えない。
⸻
むしろ近寄り難い。
⸻
恋愛など最も縁がなさそうな男。
⸻
「でも兵士長だぞ?」
⸻
「だよな」
⸻
「人を好きになるか?」
⸻
「想像できねぇ」
⸻
全員が頷く。
⸻
だが。
⸻
一人の兵士が小声で言った。
⸻
「片想いだったりして」
⸻
沈黙。
⸻
そして。
⸻
「……あり得る」
⸻
「いや、でも兵士長が?」
⸻
「〇〇分隊長相手なら分からん」
⸻
「昔からよく話していたしな」
⸻
噂は静かに広がっていた。
⸻
もちろん本人は知らない。
⸻
いや。
⸻
知ったら不機嫌になる。
⸻
間違いなく。
⸻
そして。
⸻
その噂の中心人物たちは今。
⸻
団長室にいた。
⸻
エルヴィン。
ハンジ。
リヴァイ。
〇〇。
⸻
壁外調査に関する報告会議。
⸻
ひと通り仕事が終わる。
⸻
書類も片付く。
⸻
そこで。
⸻
ハンジが椅子にもたれた。
⸻
「そういえばさ」
⸻
嫌な予感。
⸻
リヴァイの眉が寄る。
⸻
「最近面白い噂を聞いたんだよね」
⸻
「興味ねぇ」
⸻
即答。
⸻
だがハンジは止まらない。
⸻
「兵士長に片想い相手がいるらしい」
⸻
〇〇が飲んでいた紅茶を吹きかける。
⸻
「ごほっ!」
⸻
リヴァイが即座に視線を向ける。
⸻
「大丈夫か」
⸻
反射だった。
⸻
あまりにも自然な。
⸻
あまりにも素早い。
⸻
そして。
⸻
ハンジとエルヴィンは同時に思った。
⸻
分かりやすすぎる。
⸻
ハンジ「大丈夫?」
⸻
「う、うん」
⸻
〇〇は咳き込みながら答える。
⸻
その様子を確認してから。
⸻
ようやくリヴァイは前を向いた。
⸻
ハンジがニヤニヤしている。
⸻
嫌な顔だ。
⸻
非常に嫌な顔だ。
⸻
「で?」
⸻
ハンジが続ける。
⸻
「もしだよ?」
⸻
「知らん」
⸻
「まだ何も言ってない」
⸻
「面倒くせぇから結論を言え」
⸻
「十五歳くらいから何年も片想いしてるとしたらさ」
⸻
沈黙。
⸻
〇〇は何も知らない顔をしている。
⸻
エルヴィンは資料を読んでいるふりをしている。
⸻
そして。
⸻
リヴァイのこめかみがぴくりと動いた。
⸻
ハンジは見逃さない。
⸻
絶対に。
⸻
「相当一途だと思わない?」
⸻
「知らん」
⸻
「健気だよね」
⸻
「知らん」
⸻
「ずっと見守ってたんだよ?」
⸻
「知らん」
⸻
「恋人できても諦められなくて」
⸻
「知らん」
⸻
「医務室に四日付きっきりで」
⸻
「クソメガネ」
⸻
低い声。
⸻
危険信号。
⸻
しかし。
⸻
ハンジは止まらない。
⸻
「その子が目を覚ましたら告白して」
⸻
〇〇の耳まで赤くなる。
⸻
リヴァイは無言。
⸻
そして。
⸻
数秒後。
⸻
「……お前」
⸻
「ん?」
⸻
「最近暇か?」
⸻
「え?」
⸻
「仕事増やしてやる」
⸻
ハンジが吹き出した。
⸻
図星だった。
⸻
完全に。
⸻
昔なら。
⸻
もっと冷静だった。
⸻
だが今のリヴァイは違う。
⸻
〇〇の話になると分かりやすい。
⸻
信じられないくらい。
⸻
エルヴィンが咳払いをした。
⸻
「ハンジ」
⸻
「はいはい」
⸻
だが目は笑っている。
⸻
そして何気なく。
⸻
〇〇へ視線を向けた。
⸻
「ちなみに分隊長」
⸻
「はい?」
⸻
「そういう一途な男はどう思う?」
⸻
突然の質問。
⸻
〇〇が固まる。
⸻
そして。
⸻
ちらり。
⸻
隣を見る。
⸻
リヴァイがいる。
⸻
明らかに聞いている。
⸻
聞いていないふりで。
⸻
全力で聞いている。
⸻
その姿が可笑しくて。
⸻
思わず笑ってしまった。
⸻
「素敵だと思います」
⸻
静かな声。
⸻
その瞬間。
⸻
リヴァイの耳が赤くなる。
⸻
ほんの少しだけ。
⸻
本当に少しだけ。
⸻
だが。
⸻
三人とも見逃さなかった。
⸻
ハンジは机に突っ伏した。
⸻
「だめだ」
⸻
「面白すぎる」
⸻
「殺すぞ」
⸻
リヴァイが本気で言う。
⸻
しかし。
⸻
その声には以前ほどの迫力がなかった。
⸻
なぜなら。
⸻
隣で笑う〇〇を見た瞬間。
⸻
自然と表情が柔らかくなってしまっていたから。
⸻
十五歳から続いた片想い。
⸻
それを知るハンジとエルヴィンは。
⸻
ようやく報われたその姿を見て。
⸻
少しだけ。
⸻
本当に少しだけ。
⸻
微笑ましく思っていたのだった。