テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29
再会から数日後。
⸻
Guestはまた出発しようとしていた。
⸻
「どこ行くの」
⸻
シャーロットが聞く。
⸻
「偵察だ」
⸻
いつもの答え。
⸻
だが。
⸻
嘘だった。
⸻
エリオットは気付いていた。
⸻
Guestの地図。
⸻
赤い丸。
⸻
何本も引かれた線。
⸻
そこに書かれている名前。
⸻
避難所。
⸻
病院。
⸻
検問所。
⸻
軍の後方基地。
⸻
全部。
⸻
デイジーが通った可能性のある場所だった。
⸻
「まだ探してるんだ」
⸻
夜。
⸻
防壁の上でエリオットが言った。
⸻
Guestは少し黙る。
⸻
「……ああ」
⸻
風が吹く。
⸻
青い髪が揺れる。
⸻
「諦めてないんだね」
⸻
「諦められるか」
⸻
即答だった。
⸻
「死体を見てない」
⸻
Guestは遠くを見る。
⸻
暗闇の向こう。
⸻
もう存在しない故郷の方角。
⸻
「死亡記録もない」
⸻
「だから?」
⸻
「だから探す」
⸻
それだけだった。
⸻
何年も。
⸻
何年も。
⸻
ずっと。
⸻
戦場に立ちながら。
⸻
探し続けていた。
⸻
妻を。
⸻
家族を。
⸻
⸻
数日後。
⸻
三人は補給物資を探すため、廃墟となった高速道路のサービスエリアへ向かった。
⸻
建物は半壊。
⸻
車両は放置。
⸻
風が吹くたびに看板が軋む。
⸻
「何もなさそうだな」
⸻
ピザガイが呟く。
⸻
「そうでもないかも」
⸻
エリオットは建物へ入る。
⸻
そして。
⸻
数分後。
⸻
「みんな!」
⸻
声が響いた。
⸻
⸻
古びた避難者名簿。
⸻
受付カウンターの奥。
⸻
奇跡的に残っていた書類。
⸻
エリオットはそれを抱えていた。
⸻
「見て」
⸻
Guestが受け取る。
⸻
ページをめくる。
⸻
避難者の記録。
⸻
名前。
⸻
年齢。
⸻
移動先。
⸻
そして。
⸻
その中に。
⸻
一つの名前。
⸻
⸻
デイジー・ハートウェル
⸻
⸻
Guestの呼吸が止まる。
⸻
シャーロットも凍り付く。
⸻
「……ママ」
⸻
記録の日付は。
⸻
世界崩壊から半年後。
⸻
つまり。
⸻
少なくともその時点では生きていた。
⸻
Guestの指が震えていた。
⸻
何年ぶりだろう。
⸻
妻の名前を。
⸻
公的な記録で見たのは。
⸻
さらにページをめくる。
⸻
そこには移動先が書かれていた。
⸻
避難区画C-17。
⸻
北方中継基地。
⸻
「生きてた」
⸻
シャーロットが呟く。
⸻
「ママ生きてたんだ」
⸻
まだ確定ではない。
⸻
だが。
⸻
希望だった。
⸻
確かな希望だった。
⸻
そして。
⸻
さらに奥。
⸻
ロッカーの中から。
⸻
小さなノートが見つかる。
⸻
埃まみれ。
⸻
表紙はボロボロ。
⸻
だが。
⸻
Guestは一目で分かった。
⸻
「……これ」
⸻
見覚えがある。
⸻
デイジーの字だった。
⸻
ページを開く。
⸻
そこには。
⸻
短いメモ。
⸻
⸻
『Guestへ』
⸻
『まだ生きてるなら』
⸻
『絶対に諦めないで』
⸻
⸻
Guestが息を呑む。
⸻
⸻
『シャーロットを見つけて』
⸻
『あの子は絶対生きてる』
⸻
⸻
シャーロットの目から涙が溢れる。
⸻
⸻
『私は北へ向かいます』
⸻
『また会えるって信じてる』
⸻
⸻
日付は数年前。
⸻
古い。
⸻
だが。
⸻
確かに存在した。
⸻
デイジーはここにいた。
⸻
生きていた。
⸻
そして。
⸻
家族を探していた。
⸻
Guestは何も言えない。
⸻
ただ。
⸻
メモを握り締める。
⸻
強く。
⸻
壊れそうなほど。
⸻
その横で。
⸻
シャーロットが泣いていた。
⸻
声を押し殺して。
⸻
何年も諦めようとして。
⸻
何度も絶望して。
⸻
それでも。
⸻
今。
⸻
ほんの少しだけ。
⸻
希望が生まれていた。
⸻
「パパ」
⸻
少女が呼ぶ。
⸻
Guestが振り向く。
⸻
「……なんだ」
⸻
「探そう」
⸻
その一言だった。
⸻
Guestの目が見開かれる。
⸻
シャーロットはまだ不器用だった。
⸻
まだ怒っている。
⸻
まだ許していない。
⸻
でも。
⸻
今だけは。
⸻
同じ方向を向いていた。
⸻
「ママを」
⸻
Guestはしばらく何も言わなかった。
⸻
やがて。
⸻
かすかに笑う。
⸻
何年ぶりかも分からないくらい。
⸻
穏やかな笑顔だった。
⸻
「ああ」
⸻
その答えを聞いて。
⸻
エリオットは嬉しそうに笑う。
⸻
ピザガイは何も言わない。
⸻
ただ。
⸻
少しだけ肩の力を抜いた。
⸻
デイジーはまだ見つかっていない。
⸻
生きている保証もない。
⸻
それでも。
⸻
今までの旅とは違う。
⸻
初めて手に入れた。
⸻
確かな足跡。
⸻
そして。
⸻
家族を繋ぐ小さな希望だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!