テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
凪川 彩絵
#独占欲
突然不躾な乱入を果たした晴永の姿を見ても、二人とも驚いた様子はない。
「なんだ、晴永」
盛晴がカップを置く。
「こんな朝早くから」
わずかに目を細める。
そして、まるで世間話でもするように続けた。
「ニュースでも観て、慌てて来たのか?」
――やはり。
その一言で、晴永の中の何かが完全に繋がった。
晴永の拳が、じわりと強く握り締められる。
「……どういうつもりですか」
低く抑えた声だった。
だが盛晴は眉一つ動かさない。
「何の話だ」
「とぼけないでください」
晴永は一歩テーブルへ近づいた。
「創業家の血筋だの、次期幹部候補だの、藤井田の令嬢との婚約だの――全部です」
数秒の沈黙。
盛晴はようやく小さく頷いた。
「ああ、あれか」
まるで天気の話でも聞いたかのような口調だった。
「もともと決まっていたことを、公表しただけだ」
「俺は了承していません」
「必要ない」
即答だった。
清香がナイフとフォークを静かに置く。
だが、何も言わない。
盛晴はゆっくりとコーヒーを口に運び、それから言った。
「これはな、晴永」
その声音は穏やかだった。
「お前のためなんだよ」
その一言に、晴永の奥歯が軋んだ。
「……冗談はやめてください」
思わず漏れた声は低い。
「藤井田との縁は角実屋フーズにとって、悪い話ではない」
盛晴は淡々と続ける。
「お前もいずれ、この会社を背負う立場になるんだ。分かるだろう?」
「会社のことはともかく……伴侶ぐらいは自分で決めます」
「お母さんの失敗を忘れたのか?」
盛晴は静かに言い切った。
数秒の沈黙。
「情はな、持っていい。だが、それで決めるな」
盛晴の視線が、わずかに鋭くなる。
「わしはな、二度も同じ轍を踏むつもりはない。角宮の人間として生まれた以上、背負うものは決まっている。諦めろ」
――諦めろ。
その一言で、ダイニングの空気が完全に凍りついた。
晴永の拳がわずかに震える。
「……それが、お祖父様の結論ですか」
盛晴は肩をすくめた。
「結論も何も、最初からそういう話だ」
言って、ナプキンで口元を軽く拭う。
「お前もいい歳だ。遊びもほどほどにしておけ」
晴永の眉がわずかに動く。
「……何の話です」
盛晴は小さく笑った。
「知らないと思ったのか? 家に囲い込んでる娘がいるだろう? お前の部下、だったか……」
あまりにもさらりとした言い方だった。
「名前は……そうだな。小笹瑠璃香、だったか」
晴永の視線が鋭くなる。
盛晴はまるで気にも留めない。
「清香から聞いてな。すぐに分かった。……別に咎めているわけじゃない」
コーヒーを一口飲み、続ける。
「若いうちは誰だってそういう相手の一人や二人いるもんだからな」
その言葉が、妙に軽かった。
「だがな、晴永」
盛晴の目が静かに細まる。
「守るべきものを履き違えるな」
晴永の奥歯がぎり、と鳴った。
「……遊びじゃありません」
低い声だった。
盛晴は眉をわずかに動かしただけだった。
コメント
1件
がんばれ、はるながさん!