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物心ついた時には、私はもう一人で闘っていた。
遠くから母親の金切り声が聞こえる。徐々に近づくソレは、もう少ししたら私を叩き起こすための叫び声に聞こえるのだろう。そう思った矢先、耳元で声が爆ぜた。
「どうしてあんたは普通のことが出来ないのよっ!こんなの当たり前のことでしょう!?」
聞き慣れてしまった台詞に、ああまたかと口元に引き攣った笑みを浮かべる。これは夢だ。月に数回見るこの夢は私の始まりの記憶。
「ん…らん!ちょっとさっさと起きなさいよ、バイト遅れちゃうでしょう!?」
「らんちゃーん?もう、先行くよ。急いで準備しておいでね」
そんな慌ただしい言葉を聞かなかったことにして、ようやく悪夢から解放された私は誰もいなくなった部屋でノロノロと体を起こした。
「そっか…ここ、家じゃないんだった。」
中学校を卒業した2ヶ月前、親と喧嘩して家を飛び出した私を迎え入れてくれたのが、喫茶「ともに」のオーナー。志歩さんだった。どんな方法を使ったのか、両親を説得して店の2Fのシェアハウスという居場所と「ともに」のアルバイトという役割を私に与えたのだ。
コンコン、という軽いノックの音にいつの間にか下を向いていた顔をゆっくりと上げる。志歩さんだ。
「嵐、おはよう。相変わらず朝は眠そうねえ」
と笑いながら入ってくる。ちゃんとシフトの時間に行けなかった罪悪感でまた下を向いた私に志歩さんは、
「はい、これ。下は未来ちゃんと遥さんが頑張ってくれているから私もちょっと休憩しに来ちゃった」
なんて軽い調子でまだ温かいカフェラテを差し出してくる。
無言で受け取ると、
「こういう時はありがとう、って言ってくれると嬉しいな」
とまた一つ微笑んだ。
「ありがとうございます…あと、ごめんなさい…また起きれなくてシフト間に合わなくて…」
呟くように告げた謝罪に志歩さんは
「大丈夫、大丈夫。あなたが朝弱いのはわかっててあえてそういうシフトを組んでるんだし未来ちゃんも遥さんもそういうのをわかった上で頑張ってくれてるから。」
と笑いながら頭を撫でてくる。まるっきり子ども扱いだ。
話は変わるけど、と志歩さんが真面目な顔になった。私も思わず背筋を伸ばす。
「今日は病院の日よね?私も付き添うけど大丈夫?」
問われた質問に無言で首をこくんと縦に振った。