テラーノベル
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十五年前。
世界は突然、裂けた。
空が悲鳴を上げるように割れ、
海が逆流し、
街の上空に“異世界の門”が開いた。
あの日から、
世界は元に戻らなかった。
魔物が現れ、
魔王軍が大阪を支配し、
人間は東京に追いやられ、
人々は恐怖と共に生きるようになった。
そんな世界で、私は――
“もう一人の私”と出会い、
冒険者になった。
そして今、
新しい仲間・火ノ宮 灼(あかり)と共に、
初めてのCランク依頼に挑んでいる。
「……ここが、依頼場所……ですか……?」
灼の声は震えていた。
胸元で握りしめた手は、白くなるほど力が入っている。
僕はそっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。練習通りにやれば戦える」
「灼ちゃん、私が守るからね」
凛ちゃんが明るく言う。
その言葉に、灼は少しだけ肩の力を抜いた。
「……り、凛さん……凛ちゃん……
が、がんばります……」
でも、
その瞳の奥には不安が渦巻いていた。
廃ビルに足を踏み入れた瞬間、
空気が変わった。
重い。
冷たい。
息が詰まるような圧迫感。
ドアを叩いても外に出られない
「……なに、この感じ」
凛ちゃんが眉をひそめる。
僕は胸の奥がざわつくのを感じた。
式神が、怯えている。
「スモッグウルフの気配じゃない……」
灼は立ち止まり、
小さく震えた。
「……こ、これ……やだ……
なにか……いる……
すごく……こわい……」
その声は、
泣き出しそうなほど弱かった。
「大丈夫。私たちがいるよ」
僕は灼の肩に手を置いた。
その瞬間――
闇の奥から、
ゆっくりと“なにか”が姿を現した。
黒い外套。
角のような装飾。
空気を支配するほどの魔力。
「……魔王軍の……幹部……?」
凛ちゃんの声が震える。
僕は息を呑んだ。
足がすくむ。
心臓が痛いほど脈打つ。
幹部は三人を見下ろし、
冷たい笑みを浮かべた。
「Cランクの小娘どもが……
ここで何をしている?」
その声は、
刃のように鋭く、
胸の奥を刺した。
「凛ちゃん、防御!」
「わかってる!」
凛ちゃんが光の壁を展開する。
僕は震える手で魔法陣を描いた。
「式神召喚――!」
影の狐が現れるが、
幹部の圧に怯えて震えている。
灼は――
顔を真っ青にしながらも、
前に出ようとしていた。
「……わ、私も……
が、がんばらないと……
二人を……守らないと……」
その姿は、
必死で恐怖に抗っているように見えた。
幹部は鼻で笑った。
「雑魚が三匹。
遊びにもならんな」
次の瞬間、
幹部の手が軽く振られた。
衝撃波が走り、
世界がひっくり返る。
「きゃっ……!」
「ぐっ……!」
僕は壁に叩きつけられ、
息ができなくなった。
視界が揺れる。
耳鳴りがする。
でも――
灼だけが、
ギリギリ踏みとどまっていた。
「……っ……!」
膝が震えている。
呼吸が乱れている。
涙が滲んでいる。
それでも、
灼は倒れなかった。
幹部は灼を見て、
興味深そうに目を細めた。
「ほう……その炎……
お前、何者だ?」
灼の体から、
炎の魔力が漏れ出していた。
本人は気づいていない。
ただ、恐怖で震えているだけ。
「や、やめて……こないで……!
こわい……こわい……!」
灼が後ずさるたび、
床が焦げる。
私は息を呑んだ。
(灼……こんな魔力を……?
でも、本人は……気づいてない……)
幹部は笑った。
「面白い。
今日はここまでにしておこう」
そして、
闇に溶けるように姿を消した。
なんで撤退したのかわからないがとにかく助かったのだ。
静寂。
灼はその場に崩れ落ち、
震える声で呟いた。
「……こ、怖かった……
ごめんなさい……
私……なにも……できなくて……
ふたりを……守れなくて……」
涙がぽろぽろ落ちる。
僕は首を振った。
「違うよ。
灼がいなかったら、
私たち……死んでた」
凛ちゃんも優しく言う。
「灼ちゃん、すごかったよ。
あの幹部が興味持つくらいだもん」
灼は顔を真っ赤にして、
小さく震えた。
「……わ、私……
そんな……すごく……ない……
ただ……こわくて……」
僕は灼の手をそっと握った。
「怖くても、立ってた。
それだけで十分だよ」
灼は涙を拭い、
小さく頷いた。
「……ありがとう……
り、凛さん……
凛ちゃん……」
三人は、
恐怖と安堵の中で、
ただ静かに息を整えた。
そして――
魔王軍の幹部が動き出したことで、
世界は確実に変わり始めていた。
コメント
2件
Hello
やはりつよつよちゃんだった〜!👍