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🌸『月島ももは止まらない!』

第5話 放課後とカレーうどん

ある夏休みの日、今日は、午前中から午後まで授業があった。

チャイムが鳴った瞬間、ももはイスから立ち上がった。

「ナオトー!!カレーうどん行こ!カレーうどん!今すぐカレーうどんの気分なんだよ!」

「おい、まだ掃除番だろお前…..」

「え!?今日って金曜日!?…..じゃあ無理じゃん!!」

「いや、自分の番ぐらい覚えてるよ…….」

ももは顔面を覆って、床に崩れ落ちた。

「この放課後にカレーうどん食べるっていう情熱を、なぜ私は..なぜ…..!」

「まあ俺、待っててやるよ。さっさと掃除終わ

らせな?」

「…..ほんと!?ナオト天使!?神!?ナポレオン!?忘れないから!」

「なんでナポレオン……」

掃除中も、ももは終始”カレーうどんの幻”を追いかけながら箒を滑らせ続けた。

「ズズ……!」という妄想のすする音を口に出すたび、隣のクラスの担任に睨まれるのもお構いなし。

ようやく掃除が終わり、直人と駅前のうどん屋に入ったとき、ももはもうほとんどゾンビのような歩き方だった。

「……ついに…..来た……カレーうどん…..」

「お前、映画のラストバトルみたいな顔してるぞ…….」

席に座るやいなや、ももは迷いなくメニューを指差す。

「カレーうどんください!あとライスもください!あとお水も4杯ください!」

「いや、水4杯ってどういう……」

数分後、湯気を立てたカレーうどんが目の前に運ばれてくる。

ももは目を輝かせた。

「これが……私の求めていた…..黄金のスー。……!」

ズズッ!!

勢いよくすすると、案の定、カレー汁が制服の袖に飛ぶ。

「うわっ、やっちまった……」

「いや、もはや様式美だな」

「でもこのカレーの飛び散りこそが……青春って感じする!」

「そうか?洗濯代って感じしかしないけど…..」ふたりは笑いながら、カレーうどんをすすった。

夏休みの終わりが見えてきても、こんな放課後があるなら、ちょっとは楽しい。

……ナオト、また来ようね」

「うん。今度は水2杯でいいぞ」

「やだ、4杯がいい!」


……てか、どんな話だよ、……

店を出ると、空はすっかり夕方のに染まっていた。

オレンジと紫が混じった空の下、ふたりは並んで歩いていた。

「ねえ、ナオト、今日のカレーうどん、人生ベスト3には入ったよね」

「知らねーよ、ももの人生のランキングは」

「いや、入ったの。あのカレーのとろみ、ちょっとヤバかった…..。とろっとしてて、でもスパイスも効いてて、あれはもう……芸術!!」「お前がカレーうどんの評論家になったら、日本終わるな…….」

ももはフンっと鼻を鳴らし、リュックを背負い直した。

「ナオト、なんかさー、こうやってくだらないことで笑ってるときって、忘れちゃうよね」

「何を?」

「夏休みの宿題が終わってないこととか」

「お前、終わってないの?」

「たり前じゃん!まだドリルの表紙しか開けてないよ?なんかあれ、にらめっこしてる気分になるの!」

「それ、お前が勝手ににらんでるだけだよ…..」

ふたりは駅へと続く坂道を登っていく。蝉の声は、まだ夏が終わらないことを告げている。

「でも……さ」

ももがぽつりと呟いた。

「このままさ、ずっとこうだったらいいのにね。

毎日、カレーうどん食べて、くだらない話してさ。学校とか、テストとか、大人とか、どうでもよくなるくらい」

直人は少し黙ったまま空を見上げて、それから静かに言った。

「そういうの、たまにならいいけど、ずっとだと太るぞ?」

「そこかよっ!」

思い切りツッコミを入れたももの声が、坂道に響く。

でも、その笑い声は、どこかちょっと嬉しそうだった。

「じゃあさ、ナオト。来週もまた、放課後にうどん行こうよ。今度は……カレーうどんじゃなくて、天ぷらうどん!」

「えっ、変わらねえじゃん。うどんのまんま

じゃん」

「いいじゃん!うどんは世界を救う!」

「そのうち”うどん研究部”でも作れよ……」

そんなふたりの会話をのせて、坂道は夕焼けに染まっていく。

夕暮れとカレーの余韻の中で、ふたりの夏は、まだもう少しだけ続く。

その帰り道。坂の途中にある公園の前で、ももが急に足を止めた。

「ねえ、ちょっと寄ってこ!」

「え、何すんの?」

「別に〜。ちょっと、ブランコに乗って夏っぽいことするだけ!」

「それ、夏っぽいか…..?」

直人が呆れたように言いながらも、公園の入り口をくぐる。夕暮れの光が、遊具の影を長く伸ばしていた。

ももはリュックを芝生に置いて、すぐにブランコに飛び乗った。

「うおおおおおおお~~~つ!!夏っぽいーーーーっ!」

「…..叫ぶな、近所迷惑」

ももは立ち漕ぎをして、どんどん高くなっていく。

「ナオトも乗りなよ!」

「いいよ……俺はここで見てるから」

「へえ〜?まさかブランコ酔いするタイプ?」

「ちげーよ……」

少し照れたようにそっぽを向く直人に、ももは二ヤニヤと笑みを浮かべる。

「ほら、ナオトってさ、何でもクールに見えて、ちょっとヘタレなとこあるよね〜」

「言いすぎだバカ。……じゃなかった、バカじゃないんだっけ?」

「うんっ、バカじゃない!」

ももは満面の笑みで返したあと、少しだけ勢いをゆるめて、ブランコを止めた。

「…..ねえ、ナオト。夏休み、あとどれくらいだっけ?」

「もう10日もないよ」

「うわぁ~、なんか、さみしいね」

「……まあな」

ふたりのあいだに、ちょっとだけ静けさが流れる。遠くで誰かの家から、夕飯の匂いが漂ってきた。

「でもまあ、さみしくても、お腹は空くんだよね~。明日はそばにしようかな!」

「また麺かよ」

「だって、ももだもん!」

「あー、はいはい」

ブランコの音と、ももの笑い声。ふたりの放課後は、今日も笑って終わっていくのだった。


🌸 『月島ももは止まらない!』

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