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罪と罰
あの夜以来、凛は俺を避けている。
視線が合えば逸らされ、話しかけても短く答えるだけ。
必要以上に近寄ろうとせず、常に距離を測るように振る舞っている。
――それが正しい。
あいつは俺を恐れている。兄である俺を。
わかっているのに、心臓はその拒絶に安堵すら覚えていた。
「俺を意識している」という証拠に見えてしまうから。
(最悪だな……俺は)
夜、眠ろうとしても凛の姿が頭にこびりつく。
ピッチを駆ける姿も、怒った顔も、あの時怯えた瞳でさえ――愛おしくて堪らない。
触れてはいけないと分かっているのに、どうしても手が伸びてしまう。
あの肌の熱を思い出すたび、理性が崩れていく。
もしまた衝動に負けたら――
凛は二度と俺を許さない。
弟としても、ライバルとしても、もう傍にいられなくなる。
それでも、抑えられない。
「……会いてぇ」
独り言のように零れた声が震えていた。
愛してはいけない存在を愛してしまった。
求めれば求めるほど、凛を壊してしまう。
その未来を想像して、胸が潰れそうになる。
それでも、俺は今日も凛を探してしまう。
避けられるのを知りながら、目で追ってしまう。
俺が望めば望むほど、凛は苦しんで、遠ざかっていくのに。
(こんな気持ちさえなければ……)
もし時間を巻き戻せたなら、ただの兄弟でいられたのか。
けれどもう戻れない。
気づいてしまった想いは、罪の檻となって俺を閉じ込める。
そしてきっと、凛もまた――俺のせいで、逃げ場を失っている。