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騒ぎが一段落し、教室の空気に落ち着きが戻り始めた頃。大野は杉山の言葉で、自身を振り返っていた。
ー俺、杉山に助けられたんだよなー。
大野の一番の親友である、杉山という男 。
病気を知ったことで、どこか落ち着きの無かったであろう自分の様子を異変として察知し、気にかけてくれた。
過剰に干渉をされるのは苦手だと、普段の性格から気づいてくれていたのだろう。
人の気持ちに寄り添いながらも、相手を思い、必要以上 の絡みはしない。
自分を思う彼なりの優しさに、思えばいつも助けられていると、大野は杉山を見た。
「あのさ、杉山。」
「なんだよ?」
「ありがとうな。」
「気にすんなよ!」
こちらを向いてニカッと笑う杉山に、言い表しようの無い罪悪感を抱いたこと。
大野がそれに気づくのに 時間は要らなかった。
話をした方が良いのだろうか。
ふと、そんな考えが頭をよぎったのだ。
それでも、話した後の変化に大野はまだ怯えていた。今まで通りの関係が崩れるかもしれないことに対して、とてつもなく怖いと、思ってしまう。
(『自然気胸で空いた穴の多くは、1〜3週間で自然に塞がる』…勿論、例外もあるけど。)
自然に穴が塞がれば儲けもんなのだが、そうならない可能性だってある。ましてや、連続で何回も体育を休むのは流石に変だろう。梅雨時だからって、この間のように晴れたらサッカーにも誘われるかもしれない。
素直に告白できたら、どんなに楽だろうか。
こんな時、杉山なら。
鉛筆を握る右手には力が入っており、杉山はそれを心配そうに見つめていた。
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(くそっ、くそっ、 何で僕があそこまで言われなきゃいけないんだ!!!)
敵を見るような目に、 杉山の言葉が、長沢の頭からはなれない。
(皆だって、知りたがっていたじゃないか!)
不思議そうにしていたではないか。
それを教えただけなのに、どうして責められなければいけないのだ。
納得がいかなかった。
(大体、藤木くんがもっと遅くに歯医者に行けば!!僕じゃなくて、藤木くんが…)
その時、何かが引っ掛かった。
そういえば健康診断の結果の際、藤木の様子がおかしかったと長沢は思い出だす。
(僕が話しかけた時、藤木くん大袈裟なくらい驚いていたな…?)
藤木の前には大野が座っている。もしかすると 後ろから、彼の持つ健康診断の結果を見たのではないか。
引っ掛かった何かは、もう無かった。
(ふん、人の診断結果を勝手に見て、その上僕に隠し事だなんて。)
『卑怯』このニ文字が本当にお似合いだと、長沢は笑ったのだった。