テラーノベル
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「それに寒い時はこれを使え!山田家代々伝わる『子宝』毛布じゃ! これには特別な力があるんじゃ!」
「と・・・いいますと?」
ジンが恐る恐る尋ねると、松吉が大声で笑う
「これを羽織っていたすと子宝が授かるんじゃ!」
米吉が誇らしげに、赤い四つ折りの毛布をジンにドサッと渡した
アハハハッ! 「それじゃぁ~ぜひ使わなくっちゃね~ジンさん!」
「そっ・・・そうだね~桜ッウッゲホッゴホッゴホッ」
桜が笑いながら、ジンからすかさず取り上げてブンッと子宝毛布を部屋の端にぶん投げた
焦ったジンは喉の器官に唾液が入って盛大にむせた
松吉と米吉はとても嬉しそうに笑っている、本当に歓迎してくれているんだとジンは感じた、そこでやっぱりチクりと胸が痛んだ
「疲れたじゃろう? 夕方まで少し休むと良いぞ、風呂は一階に大浴場があるが、ここのベランダのジャグジーも最高じゃぞ!」
ジンはその松吉の言葉に救われた気分で、照れ隠しにベランダへと足を踏み出した 淡路島の海風が火照った頬に心地よく吹き抜ける・・・
ベランダからは日本庭園の静かな美しさと、遠くに広がる海が一望できた 頑丈なベランダにもたれてジンは深呼吸した、しかしふと視線を落とすと、この旅館の駐車場にゾクゾクと車が到着し、旅館の警備員が次々に誘導しているのが見えた
「・・・?・・・今日は何か団体様の予約が入ってるんですか?」
ジンが部屋にいる松吉に何気なく尋ねるとニヤリと笑って言った
「なぁに! ちょっとしたお前達の結婚報告の宴会じゃ!」
「一族をおよそ100人ほど呼んだだけじゃ!」
米吉も得意げに付け加えた、ジンは目を丸くした
―100人?―
「パパ! おじいちゃん! 100人って・・・やりすぎよーーー!」
桜が叫ぶ声が部屋に響いた
.。. .。.:・
松吉と米吉の笑い声が遠ざかり、最高スイートの扉が静かに閉まって二人きりになった
ジンは照れ隠しにもう一度ベランダへと再び足を踏み出した、ベランダの手すりに手をかけ、下の駐車場を見下ろすと、警備員が次々と到着する車を誘導しているのが見えた
「ねぇ・・・桜・・・この下に集まってるのって・・・」
「ええ・・・みんなうちの『分家』です」
ジンの隣に立った彼女は軽く髪をかき上げ、淡路の海を眺めながら答えた
ジンは一瞬言葉を選び、ゆっくりと言った
「じゃぁ・・・君は山田一族の本家の長女で・・・唯一の継承者なんだね・・・凄いじゃないか」
それなのに・・・そんな大事な名家の跡取りの彼女が、どうして単身都会で会社員なんかやっているんだろう・・・
ジンの言葉には、純粋な驚嘆と尊敬が込められていた
「家が凄いだけで私が凄いわけではありません!」
桜の声はまるでここのすべてを否定する様に鋭く響いた、彼女の頬はわずかに紅潮し、視線は真っ直ぐにゾクゾクと集まる駐車場の車を見ていた
「う・・・うん・・・そう・・・か」
桜はそこから黙りこくってしまった
―なるほど・・・この話題は嫌なんだな・・・―
ジンは心の中でそう結論づけ、それ以上彼女に家の事情を聞くのはやめた
桜の険しい表情は普段の明るい笑顔とは別人のようだった、そこには名家の娘としての重圧や、都会で働く彼女なりの理由が隠れているのかもしれない・・・
ジンは自分の孤独な過去を思い出し、いつも明るくて肯定的な桜の心の奥に少し触れたような気がした
なので桜の険しい顔を見つめて励ますようにそっと口を開いた
「ちゃんと・・・君の夫として気に入ってもらえるように頑張るよ・・・」
ハッと桜がジンを見つめた、彼女の目はほんの少し潤んでいるように見えた
「・・・ジンさん・・・」
フフッ 「今の、ちょっと夫っぽくなかった?」
ジンは桜に向かって優しく笑った、偽装結婚の建前を越えて彼の声はどこか本気の響きを持っていた、桜の家族の勢いと温かさに触れ、彼女を守りたいという気持ちが芽生えつつあったのかもしれない、やっと二人は笑ってしばらく見つめ合った
クスクス 「しかし凄いね、君のお父さんとおじいさん、お達者で良いことだ」
クスクス・・・ 「本当に・・・いつもあんな感じで暴走するんです」
「想像できるな」
クスクス・・・ 「ですよね」
二人の雰囲気はさっきの鋭さが消え、柔らかな空気に変わっていた、駐車場では、車から降りてくる人々が、笑い声や挨拶を交わしながら旅館の玄関に向かっている
山田一族の分家・・・100人もの親戚が、ジンと桜の「結婚報告」のために集まってくるのだ、偽装結婚の嘘を抱えたまま、こんな大勢の前でどう振る舞えばいいのか・・・ジンの胸には緊張と期待が交錯した
それでも桜の隣で淡路の風に吹かれながら・・・
彼は自分の孤独が薄れて温かくなっているのを感じていた
部屋の奥では金屏風が夕陽を受けて輝き、『YES/NO』枕が静かに二人を見守っている様だった
コメント
2件
桜ちゃんには都会で働く理由があるんだね、ジンさんにもいつか話す日が来るはず! 総勢100名のお披露目会....何が起きるか«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク
人それぞれ色んな悩みがあるもんだね😌 一人の寂しさと大勢の煩わしさ‥ ジンさん桜ちゃんお披露目頑張って😊