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今日は土曜日で休日受付になるので時間外窓口に婚姻届を提出すればいいらしい。 小さな事務室のような場所に時間外窓口と記された小さなガラス窓。トントンと軽く叩くと直ぐに警備員らしいお爺さんが出てきた。
「すいません。婚姻届を提出しにきたのですが提出先はこちらで合ってるでしょうか?」
「んぁ、あぁそうですよ。では受け取ります」
小さなガラス窓からスッとお爺さんに手渡すと「はい、受け取りました。書類に問題がなければ後日受理されましたって書類が届くと思いますので」と言うとスッと窓から姿を消した。
「りゅ、隆ちゃん……婚姻届出すのってこんなにも呆気ないものなの!? なんかもっと華やかな感じかと思ってた」
「俺も」
会社の書類提出みたいにあっけらかんと終わってしまった婚姻届を出すという一大イベントはなんだか思っていたのと違う感じであっけらかんと終わってしまった。
(まぁ婚姻届を出すのはちょっとイベント感に欠けたけど今日はまだ始まったばかりだからな!)
そうだ。今日はまだ始まったばかり。結婚記念日になった今日一日をとにかく美桜と最高な日にするべく俺は密かに色んな準備をしてきたのだから。
「指輪を取りに行くのは夕方だし、それまでは家でゆっくり過ごそうか」
車に乗り助手席に乗っている美桜に話しかける。ゆっくりというワードが美桜は大好きだ。漫画がゆっくり読めるからなのはもう分かりきっている。やったーと言いたげで嬉しそうな表情をして俺の顔を覗き込んできた。
「だねぇ。読みたい新刊もたくさん積んでるし、隆ちゃんも一緒に読む?」
(やっぱり漫画読む気満々だな)
「じゃあ美桜のオススメでも読もうかな」
「読むの!?」
「自分で聞いてきたくせになんでそんなに驚くんだよ。もう何回も読んでるじゃん、美桜のエローい漫画」
カァっと一瞬にして頬を真っ赤に染め「わ、私がエロいんじゃないからねっ!」とわたわた手を動かしながら弁解してくるけど、そんな事は一言も言ってない。なのに勘違いして自分の事だと思っているとか可愛すぎてつい顔がニヤけてしまう。
マンションに帰ってきてはすぐに部屋着に着替えぐだぁっと身体から力を抜きソファーに身を任す。脱力してソファーに座る俺の隣にピタッと寄り添いグッと背筋をピンと伸ばして真剣な表情。Tシャツショートパンツとラフな部屋着に着替え、前髪をちょんまげのように縛って、フサフサと子犬の尻尾のようで可愛い。
真剣な表情……でエロい漫画を読んでいる美桜。ついさっきまで恥ずかしがっていたはずなのに、 俺に寄り添い読んでいる漫画をチラッと覗くと男と男がイチャイチャしている……
(び、BLじゃん。ついに堂々と読み出したか。まぁいいんだけどな、凄く嬉しそうな可愛い顔して読むから)
その嬉しそうな顔、漫画の内容で少し苦しそうな顔をする時もあれば、驚いた顔をしたり。でも結局はとろんと蕩けた嬉しそうな顔をすることがほとんどだ。本当漫画を読んでいる時の美桜の表情はコロコロ変わって見ているだけで面白い。そして可愛くてつい触れたくなる。
「美桜」
漫画の世界に入り浸っているのか返答がない。
「みーお」
「ふぇい!?」
目を見開き驚いた顔で俺を見上げるように見てきた美桜の唇にチュッと軽く唇を合わせる。
「何でもないよ。俺も読もっかな〜」
美桜が山積みになる程リビングに持ってきた漫画を一冊一冊読めそうなものを見ていくがどれも自分にはハードそうなBLに見えて手が届かない。躊躇していた俺を見兼ねて美桜が「これならハードな絵面もないし、純愛ものだから読めると思うよ」と手渡されたBLを受け取り読んでみることにした。
今まで散々姫咲の漫画の手伝いをさせてこられたけれど漫画をしっかりと読むことは無かったのでしっかりとBLを読むのは初めてだった。美桜にオススメされた漫画はハードな絵面はなく、同性の恋愛の苦しみがリアルに描かれていて凄く読みやすくて心惹かれる何かがあった。思わず「はぁ」と深い溜息が出る。
俺がやっと一冊読み終わった時に美桜は既に三冊目に突入していた。物凄く早い。積まれている漫画を見る限り今日はBLとTLを一冊ずつ。今読んでいる三冊目はTL小説だろうか、男と女の表紙にスパダリって書いてあるから多分そうだろう。というよりも自分がどんどんオタク専門用語を覚えて使いこなしている。美桜からの影響力の大きさにビビる。
「美桜次は小説読んでるの?」
応答なし。確実に小説の二次元の世界へ入り込んでいる。
あまりにも反応がなく放置され過ぎているのでなんだか悪戯したくなった。
俺に寄り添う美桜の後ろから両胸を服の上からやわやわ触る。するとすぐに気づきビクンと身体を揺らし反応した。
「なっ! 隆ちゃん! 何やってんの!」
グイグイっと身体をねじらせ俺からすり抜けようとするが、そうはさせない。ギュッと抱きつき離さない。
「俺はもう読み終わったんだよね」
服の上からも分かる柔らかく形の良い胸が俺の手の動きに合わせて形が変わる。妖艶でずって見ていたいくらいだ。少しずつ美桜の呼吸が荒くなり、俺を見上げるように上を向いた。潤んだ視線がかち合う。
「隆ちゃんのエッチ! 今良いところなんだからちょっと待って!!!」
「ちょっと待てばいいの?」
「なっ……違っ、そういう意味じゃなくてッ」
「じゃあどういった意味なの?」
「と、とにかく今は駄目っ!!!」
スルッと俺の腕の中から抜け出しキッと鋭い目つきで俺を威嚇してきた。いや、もうこれは猫が自分のテリトリーを奪われまいと威嚇してるみたいだ。
(うわ……初めて見る美桜の怒った顔も可愛いなぁ。全く怖くない)
「分かったよ。我慢するか〜」
俺の返答に満足したのか座り直しまた真剣な顔で小説を読み始めた。チラッと上から覗き見たけれど慣れない活字に焦点が合わず目がイカれそうになった。