テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
真っ白な立方体の空間。窓はなく、逃げ場もない。
その中央には、あまりにも不釣り合いで巨大なダブルベッドが、獲物を待つ獣のように鎮座していた。傍らの机には、用途を疑いようもない卑猥な玩具の数々と、粘つくような液体が並んでいる。
「……酷い趣味だね」
二十二歳の太宰治は、いつもの砂色のコートのポケットに手を突っ込み、やれやれと肩を竦めた。視線の先、壁に浮かび上がった文字は、あまりにも直球で、下俗で、そして不可避な命令を突きつけている。
――『孕ませないと出られない部屋』。
「なんてことだ、これでは心中どころか新しい命を紡げと言っているようなものじゃないか。私の主義に反するね、実に見苦しい。……おや、君はそんなところで固まって、どうしたんだい?」
太宰が視線を向けた先。部屋の隅で、自分と同じ色の、けれど少しばかり長い髪を震わせている小柄な少女がいた。
彼女は十五歳。反対の世界線から来たという「太宰治」だ。
同じ顔、同じ瞳の光、同じ包帯。けれど、彼女から漂うのは狡猾な支配者の気配ではなく、今にも消えてしまいそうな、脆い硝子細工のような危うさだった。
「……い、いや。……だ、だって……」
少女の太宰は、自分の細い肩を抱きしめるようにして、がたがたと震えていた。彼女が羽織っているのは、この世界の太宰が見慣れた黒い外套ではない。それよりもずっと重苦しく、それでいて彼女の身体には不釣り合いなほど大きい、ポートマフィアの重鎮を思わせる外套だった。
「ひゃ、避妊具が……どこにも、ない……」
「そうだね。棚の隅から隅まで見たけれど、あるのは媚薬と玩具だけ。神様か悪魔か知らないけれど、よほど熱烈な『子作り』を所望らしい。……困ったねぇ、私は君を抱くことに抵抗はないけれど、君の方はそうでもなさそうだ」
太宰は軽やかな足取りで彼女に歩み寄った。少女は怯えた子猫のように、びくんと身体を跳ねさせる。
「こ、来ないで……! 私、こういうのは、その、ハニートラップの……手伝いでしか、したことがなくて……」
「へぇ? 別の私は、そんなに奥手なのかい? 私は十五の時には、もう幾人かの女性を泣かせていた記憶があるけれど」
「私、は……いつも、手だけで、済ませてたもの……。だって、怖い、痛いの、嫌だ……。……こわいよぉ、中也、中也どこ……たすけて……」
掠れた声で、彼女はこの世界では「敵」であるはずの男の名を呼んだ。
太宰は僅かに眉を動かす。なるほど、あちらの世界では中也がマフィアを抜け、この少女が残った。そして二人は、自覚なき恋心を育んでいたというわけか。
目の前の少女は、愛されたがりで、構ってちゃんで、風が吹けば折れてしまいそうなほど弱々しい。同じ自分でありながら、守られることに特化したような存在。
その脆さは、二十二歳の太宰にとって、奇妙な嗜虐心と、そしてほんの少しの庇護欲を同時に突き動かした。
「中也はここにはいないよ。この部屋にいるのは、君と私。そして、外に出る方法はたった一つ。……分かっているだろう?」
太宰は彼女の前に膝をつき、目線を合わせた。少女の大きな瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
「……い、いや。できない、そんなの……」
「できない、と言って、ここで餓死するかい? 二人で仲良く白骨死体になるのも悪くないけれど、あいにく私は、女の子を空腹で死なせる趣味はないんだ」
太宰の手が、そっと彼女の頬を撫でた。包帯越しではない、生の肌の熱。少女は震えながらも、その温もりに縋るように、自ら頬を擦り寄せた。自尊心の低さと孤独が、無意識に他者の体温を求めてしまうのだろう。
「大丈夫だよ。痛くはしない、とは言えないけれど……私が君を、この世で一番気持ち良くしてあげる。……いいだろう?」
抗いようのない甘い誘い文句。太宰は彼女を軽々と抱き上げると、部屋の中央にあるベッドへと運んだ。
シーツの上に下ろされた少女は、まるで生贄の羊のようだった。
太宰は机の上から「媚薬」と書かれた小瓶を手に取る。
「まずは、これを飲もうか。君の強すぎる警戒心を、少しだけ溶かしてあげるためにね」
少女は拒む力もなく、太宰に促されるまま、ピンク色の液体を飲み干した。
数分もしないうちに、彼女の白い肌がじわじわと赤みを帯びていく。呼吸は荒くなり、瞳は潤み、焦点が定まらなくなっていく。
「あ……あつ、い……なんか、からだが……へん……」
「いい兆候だ。さあ、次は服を脱ごうか」
太宰の指先が、彼女のボタンに掛かる。
一つ、また一つと暴かれていく、白磁のような肢体。
十五歳の彼女の身体は驚くほど細く、ちっちゃい。鎖骨は浮き上がり、肋骨のラインがうっすらと見えるほどだ。けれど、その胸元には年相応の膨らみがあり、媚薬の効果でその先端は固く勃起していた。
「ひ、あ……見ないで、見ないで……!」
「自分を見るのがそんなに恥ずかしいのかい? 綺麗だよ、私。……ああ、本当に。私という人間が、これほどまでに脆く、愛らしくなり得たなんてね」
太宰は己の上着を脱ぎ捨てると、彼女の上に覆いかぶさった。
少女の、石鹸と僅かな火薬の混じったような甘い香りが鼻腔を突く。
太宰は彼女の耳元で囁きながら、ローションを指に取り、彼女の秘部へと這わせた。
「っ!? ……やだ、なにか、冷たいのが……!」
「準備だよ。君が壊れてしまわないためのね」
太宰の指が、処女の窄まりを優しく、けれど確実に解いていく。
少女はシーツを強く握りしめ、顔を真っ赤にして涙を流した。
「ああ、痛い……痛いよぉ……」
「まだ指だよ。もっと力を抜いて。ほら、君の好きな中也を思い出してごらん? 彼に抱かれているのだと思えばいい」
「……そんなの、むり……だって、中也は、もっと……乱暴だけど、優しいもん……。お前、は……冷たい……」
そんなことを言いながらも、彼女の身体は正直だった。
媚薬の熱が下腹部を突き上げ、指の愛撫がいつしか快感へと変質していく。
ひっ、ふ、と途切れ途切れの吐息が部屋に響く。
太宰は彼女の足を割り、自身の熱を入り口に宛がった。
「さて、避妊具がないのは困ったものだけれど……。もし、本当に孕んでしまったら、その時はその時だ。私が君の、パパになってあげてもいい」
「……ばか……、さいてい……っ」
太宰は一気に、その最奥までを貫いた。
「あああああぁぁぁ……っ!!」
少女の絶叫が部屋を震わせる。
初めての痛みに、彼女は太宰の背中に爪を立て、縋り付いた。
処女の証である鮮血が、真っ白なシーツに点々と花を咲かせる。
太宰は動きを止めず、彼女の涙を舐めとりながら、深く、より深くへと突き進んだ。
「……あ、ああ。すごいね、私。中が、こんなに熱くて、締め付けてくる。……そんなに私が欲しいのかい?」
「ちが、ちがう……っ、やめて、もう、こわれちゃう……!」
しかし、身体の反応は止まらない。
太宰がわざと激しく腰を動かすたび、彼女の喉からは甘い悲鳴が零れる。
嗜虐欲を煽る彼女の泣き顔。庇護欲を誘うその華奢な肩。
太宰は、これまでに抱いてきたどの女よりも、目の前の「自分」に没入していくのを感じていた。
欲望が、理性を塗りつぶしていく。
「出られなくなる」という恐怖など、とっくに消えていた。
ただ、この愛らしくも醜悪な「自分」の中に、全てを叩き込みたい。
その一心で、太宰は彼女の腰を掴み、何度も何度も最奥を突いた。
「あ、ひ、ぁぁ……! くる、なんか、くる……!!」
「……ああ、私もだ。……受け取ってくれ、別の私」
極限まで高まった快楽が、弾ける。
太宰は彼女の窄まりが限界まで収縮するのを感じながら、その深淵へと、熱い種子を迸らせた。
一度では止まらず、脈打つたびに、彼女の胎内を白濁した液体が満たしていく。
「あ…………ぁ…………」
少女は大きく目を見開き、天を仰いだ。
頭の中が真っ白に染まり、思考がバラバラに砕け散る。
自分の内側を、自分のものではない熱が、けれど自分と同じ遺伝子を持った熱が満たしていく感覚。
それは、背徳的でありながら、この上ない充足感を彼女に与えた。
やがて、部屋の壁に書かれた文字が、眩い光を放って消えていく。
脱出の条件は達成された。
静寂が戻った部屋で、二人は重なり合ったまま、荒い呼吸を整えていた。
太宰はゆっくりと彼女の中から自身を引き抜く。
彼女の太腿を伝い、白い液体がシーツを汚していく。
「……ふぅ。お疲れ様、お嬢さん。無事に外に出られるようだ」
太宰は爽やかな笑顔で彼女に声をかけたが、少女からの返答はない。
彼女はベッドの上で、力なく手足を投げ出し、ぽやぽやとした表情で天井を見つめていた。
目は虚ろで、口元からはわずかによだれが垂れている。
絶頂の余韻と、媚薬の影響、そして「自分に抱かれた」という強烈な事実が、彼女の幼い脳を完全にオーバーヒートさせていた。
「あ、う……あ、ぱ、ぱ…………?」
「おや、もう認知が歪んでいるのかい? パパではなく、太宰治だよ。君自身さ」
太宰は彼女の乱れた髪を優しく整えてやる。
結局、都合の良い展開というやつか、彼女がその一回で身籠ることはなかった。
けれど、彼女の記憶には、そして身体には、この感覚が消えない傷跡のように刻まれたはずだ。
「……さて。元の世界に帰ったら、中也君によろしく。……きっと、彼は今の君の顔を見たら、驚いて腰を抜かすだろうね」
太宰は彼女の額に、最後の手向けとして軽く口づけをした。
数分後。
光に包まれ、少女の姿は消え、太宰もまた元の探偵社の近くの路地裏に立っていた。
ポケットに手を突っ込み、空を見上げる。
いつもの退屈な日常が戻ってきた。
けれど、下腹部に残る僅かな重みと、鼻先に残る彼女の香りが、確かにあの時間が現実であったことを告げていた。
「……『孕ませないと出られない部屋』、か。……ふふ。次は『愛してると言わないと出られない部屋』にでも、招待してほしいものだね」
二十二歳の太宰治は、愉快そうに独り言を漏らすと、いつもの足取りで歩き出した。
一方、別の世界線で目を覚ました十五歳の少女は、隣で寝ていた中原中也の顔を見るたびに、顔を真っ赤にして卒倒することになるのだが……それはまた、別の物語である。
二人の「太宰」にとって、それは人生で最も最悪で、そして最も甘美な、一生消えることのない「忘れられない思い出」となった。
#太宰治(文豪ストレイドッグス)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!