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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第77話 〚触れてはいけない想像〛(澪視点)
放課後の図書館は、静かだった。
本棚の間を歩くと、紙の匂いと、かすかな足音だけが残る。
(……何、読もう)
澪は目的もなく背表紙を眺めていた。
小説、実用書、文庫。
その時。
ふと、視界の端に、
色の違う背表紙が並んでいるのが見えた。
——少女漫画。
(……読んだこと、ないな)
今まで、特に興味もなかった。
でも今日は、なぜか目が離れなかった。
一冊、手に取る。
表紙の男女が、少し近すぎる距離で描かれている。
(……試し読み、だけ)
誰にも見られていないのを確認して、
澪は本を開いた。
ページをめくる。
テンポの速い会話。
少し甘い空気。
(……こういう感じなんだ)
そして——
そのページで、手が止まった。
主人公と相手が、
静かに、顔を近づけている。
——キス。
唇が触れる直前の、
一瞬を切り取ったコマ。
澪の胸が、
小さく跳ねた。
(……)
その瞬間。
——想像してしまった。
海翔が、目の前にいる。
距離が近くて、
名前を呼ばれて。
(だめ——)
止めようとしたのに。
心が、勝手に続きを描いた。
海翔と、
キスをしている自分。
その途端。
——ズキン。
頭の奥に、
鋭い痛みが走った。
「……っ」
思わず、額を押さえる。
(頭痛……?)
今までと、違う。
予知じゃない。
未来を見た感覚でもない。
——妄想しただけなのに。
鼓動が早くなる。
(やだ……やめて……)
そう思った瞬間。
視界が、
一瞬だけ、歪んだ。
本のページが、
現実と重なる。
心臓が、
強く、鳴った。
ドクン——。
(……え?)
澪は、息を呑む。
——現実化。
確定ではない。
でも、
「可能性として固定される感覚」。
(うそ……)
澪は、慌てて本を閉じた。
妄想が、
力を呼び起こした。
しかも——
頭痛を伴って。
(これ……危ない)
未来を“選ぶ”力に変わったはずなのに。
——想像しただけで、
現実に影響する。
澪の手が、震える。
(……想像しちゃ、だめ)
少女漫画を棚に戻し、
その場から離れる。
頭の痛みは、
ゆっくり引いていった。
でも——
恐怖だけが残った。
予知でもない。
拒否もできなかった。
ただの、
無意識の想像。
それが、
力を動かした。
(……知らなかった)
心臓が静かになるのを待ちながら、
澪は思う。
この力は、
未来を見るためだけじゃない。
——心が動いた瞬間に、
反応する。
それは、
今までで一番、扱いづらい力だった。
澪は、図書館を出る。
夕方の光が、眩しい。
(……気をつけなきゃ)
想像することさえ、
選ばなければいけない。
それを知った澪は、
まだこの時、気づいていなかった。
——この“妄想の力”が、
これから一番危険な分岐点になることを。