翌朝。高尾家のリビングは、まだ朝の光がほんのり差し込む静かな時間。
娘は、ママと一緒に朝食の準備をしていた。
でも、いつもみたいにはしゃぐ様子はなく、どこかそわそわしている。
「……ねぇ、パパ、きょうは?」
「んー……どうだろうね。熱、下がってるといいけど」
ママがそっと答えながら、味噌汁にネギを入れる。
と、そこへ――
「……おはよう」
寝室のドアが静かに開いた。
そこには、ちょっとだけふらつきながらも、パジャマ姿で立っている颯斗の姿。
「パパ!!!!」
ママがすぐに駆け寄ろうとして、ママに小さく止められた。
「ちょっと待って、お熱ないか確認してからね?」
ママが手を伸ばして、おでこにそっと手をあてる。
「……うん、大丈夫そう。熱、下がってるよ。よかったね」
「ほんと?」
「ほんと。少しはまだ疲れてると思うから、無理はだめだけど……」
ママが言い終わる前に、颯斗がゆっくり膝をついて、娘に手を広げた。
「よし、ぎゅーしていいぞ」
「パパぁ〜〜〜〜!!」
ぎゅうううううっと勢いよく抱きついてきた娘に、思わずよろける颯斗。
それを笑いながら支えるママ。
「おかえりパパ……もう、さみしかったよ」
「ごめんって。俺も……ひとりでさみしかった」
颯斗の声は少し掠れてるけど、抱きしめる腕はあたたかくて、ちゃんと元気。
⸻
「ほら、パパ。これ、みて!」
娘が持ってきたのは、昨日描いたお絵描き帳。
熱で寝込んでいた時に、ママに預けたやつ。
「これ……見てた。めっちゃ嬉しかった」
「うふふ。ママがね、わたしの気持ちパパにとどけてくれたの」
「うん。届いたよ、まっすぐ」
そう言って、ぎゅっと頭をなでる颯斗。
ママはその様子を見て、少し涙がにじみそうになる。
⸻
その日の昼ごはんは、ママの特製うどん。
颯斗の分は別皿にして、まだ少しずつ食べられるように優しい味つけに。
娘はとなりにぴったりくっついて、颯斗の口に「はいっ」ってスプーンを差し出してくる。
「え、食べさせてくれるの?」
「うん!パパ、まだよわってるから!」
「ありがとう……たすかるぅ〜」
ちょっとオーバーに言うと、娘はにっこにこ。
⸻
午後は、みんなでソファに並んで、録画してたアニメを観ながらまったり。
娘は途中でママの膝の上にごろん、颯斗はブランケットをかけて、その足元に。
誰もしゃべらない時間なのに、誰かがくしゃみしたらすぐに「だいじょうぶ?」って声が飛ぶのが、高尾家のやさしさ。
⸻
夜。寝る前の絵本タイム、ママが読んでいる間、娘は眠たそうにまぶたをぱちぱちさせてたけど、読み終わる前にすぅっと夢の世界へ。
「パパ、ひとつお願いあるの」
「ん?」
「明日さ、また元気になったからって、無理しないでね」
ママは、娘の髪をなでながら、ふと目を合わせて言った。
「うん……気をつける。ほんとに、ありがとう。ふたりがいてくれて、助かった」
「じゃあ、いい子にしてたごほうびに」
「ごほうび?」
ママの頬に、颯斗がそっとキス。
「だいすきだよ」
「……ずるい。寝てる子の前で言わないで」
「寝てるから言えんの」
声をひそめて笑い合う夫婦の夜。
その寝室には、また、いつものやさしい家族の空気が戻っていた。
コメント
1件
はやちん可愛い🩷娘ちゃんも我慢できてえらい!素敵な作品ありがとうございます!