テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
397
#オリジナル
めんだこ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝は、残酷だ。
夜が隠してくれていたものを、やさしい顔で、すべて照らしてしまうから。
淡い光が、倒れた花人たちの身体を撫でていた。
静かだった。
風も、音も、遠慮しているみたいに。
「……」
フィリアは、そこに立っていた。
一歩も動かず、ただ見つめている。
昨日、壊したもの。
昨日、守れなかったもの。
その全部を。
「……戻ってる」
リュシアが、小さく呟く。
歪んでいた身体は、ほとんど元の形に戻っていた。まるで、何もなかったみたいに穏やかな姿で。
「……最初から、こうだったみたいだ」
ノクスの声も低い。
アルトは、言葉を持たなかった。
ただ、ひとつの遺体の前にしゃがみ込む。
指先で、そっと触れる。
冷たい。
当然なのに、どこか現実じゃないみたいだった。
「……助けを、求めてた」
ぽつりと、言う。
誰に向けた言葉でもなく。
「聞こえてたのに……」
その声は、わずかに揺れていた。
そのとき。
「……やめて」
フィリアの声。
小さいけれど、はっきりとした拒絶。
アルトが振り返る。
フィリアは、俯いたまま。
「……そういう言い方」
ゆっくりと、顔を上げる。
その瞳は、静かに濁っていた。
「やめて」
アルトの胸が、わずかに軋む。
「……フィリア」
名前を呼ぶ。
それだけで、何かがほどけると思っていた。
でも。
「なんで、そんな顔するの」
その言葉は、鋭かった。
「“仕方ない”みたいな顔で」
空気が、張り詰める。
リュシアもノクスも、何も言えない。
「だって……」
アルトが口を開く。
「やるしかなかったじゃないか」
その瞬間。
フィリアの表情が、崩れた。
声が、跳ね上がる。
「それで終わりにするの!?」
初めて見る、フィリアの怒り。
「この子たちは何なの!?」
足元の遺体を指さす。
「助けられなかった、で終わるの!?」
アルトは言葉を失う。
何かを言えば、さらに壊れる気がした。
リュシアが咄嗟に口を開いた
「アルトに言っても仕方ないよ。私達も好きでこんなことしたわけじゃないじゃない」
フィリアは俯いていた。
自分もその手で花人たちを手にかけたのだから。
自分でもわかっていた
でも言わずにはいられたかった。思いをぶつけずにはいられなかった。
「……アルトはさ」
フィリアの声が、急に落ちる。
静かに、冷たく。
「まだ、あの人のこと庇ってるよね」
その一言で、空気が凍る。
「違う」
即座に言う。
けれど。
「違わない」
フィリアは首を振る。
「だって、“わかろうとしてる顔”してる」
アルトの胸が、強く締め付けられる。
図星だったからだ。
「……シオンは」
言いかける。
その瞬間。
「名前、出さないで」
フィリアの声が、ぴたりと遮る。
静かで、でも拒絶の強い音。
「今、その名前、聞きたくない」
その言葉は、ほとんど祈りだった。
でも、同時に。
はっきりとした拒絶でもあった。
「……ごめん」
アルトは、ようやくそれだけ言う。
フィリアは、何も返さない。
ただ。
くるりと背を向ける。
「……もう、いい」
小さく言って、歩き出す。
その背中は。
昨日より、遠かった。